NTTドコモが新端末の年間サイクル化の方針
NTTドコモは例年、5月に夏商戦向け、9~10月に冬春商戦向けというタイミングで、新機種を発表してきた。
ケータイ時代は一度に20機種前後を発表することもあったが、スマートフォン時代は10機種程度になり、最近は少しずつ機種数を減らし、今回発表されたスマートフォンは5機種に抑えられた。
ここ数年、NECやPanasonicなど、スマートフォンの開発から撤退するメーカーが増えたことも関係するが、NTTドコモとして、確実に売れるモデルに絞り込んできたことが主な要因だ。
そして、今回の発表で、もう1つ注目を集めたのが今後、NTTドコモが端末を「年間サイクル」で展開する方針が明らかにされたことだ。
これまでのように、およそ半年に一度、各端末メーカーのフラッグシップを投入するのではなく、1年程度のサイクルで新しい機種を投入するようにしていきたいというわけだ。
スマートフォンそのものがある程度、完成の域に達し、スマートフォンへの移行も徐々に鈍化してきたことに加え、昨年来、総務省のタスクフォースによる「MNPを優遇する過度なキャッシュバックの抑制」「実質0円端末の販売の禁止」など、端末販売の市場が冷え込みそうな状況にひと足早く対応してきたという指摘もある。
今後、スマートフォンの新製品市場はどうなってしまうのだろうか。
長く売って、儲ける?
国内ではNTTドコモやau、ソフトバンクという各携帯電話事業者が端末を販売する方法が定着しているため、スマートフォンや携帯電話の新商品は夏や冬春といった各商戦期直前の発表会で、新ラインアップが発表されてきた。
これに対し、グローバル市場では商戦期を狙うという方針は基本的に同じだが、まず、各端末メーカーが独自に発表会などを催し、それを受ける形で、各携帯電話事業者がラインアップに加えるという流れになっている。
たとえば、アップルのiPhoneは例年9月上旬に新製品が発表され、その数週間後に各国の携帯電話事業者から発売されている。
サムスンのGalaxy Sシリーズもここ数年は、例年2月下旬に開催されるモバイル業界の展示会「Mobile World Congress」の直前に、サムスンの自社イベント「Unpacked」で発表され、4月から順次、各国の市場に投入されている。
アップルのiPhone SEやiPad、サムスンのGalaxy Noteといった派生モデルは、発表時期が異なるが、基本的にフラッグシップはほぼ毎年、同じ時期に1機種のみが発表され、販売されているわけだ。
国内市場においてもiPhoneやGalaxy Sシリーズといったモデルは、グローバルモデルがそうであるように、基本的には1年に1機種のみという展開だ。
また、シャープや富士通、京セラといった国内メーカー、ソニーモバイルのようにグローバル向けに製品を展開しながら、国内向けに注力するメーカーは、これまで1年に2機種、フラッグシップに位置付けられるモデルが投入されてきた。
NTTドコモとしては在庫調整なども考慮し、こうした1年に2機種のフラッグシップモデルの展開をやめたいとしているわけだ。
こうした状況を見て、一部のメディアでは端末メーカーが厳しい状況に追い込まれるという見方をしているようだが、端末メーカーにとってもそんなに悪い話でもないのだ。
というのも、これまでは年に2機種、フラッグシップモデルを開発してきたが、今後は基本的に年に1機種で済むため、開発コストを削減することができる。
その浮いたコストをコンパクトモデルや派生モデルなどに投入できるため、端末メーカーとしてのラインアップを強化することも可能だろう。
現に、今回のラインアップを見ると、シャープとソニーモバイルの新機種がフラッグシップモデルであるのに対し、富士通は価格を抑えたミッドレンジモデルであり、今年秋に発表されるであろう冬春モデルではこの位置付けを逆にして、シャープやソニーモバイルがミッドレンジのコンパクトモデル、富士通がarrows NXなどのフラッグシップモデルを投入してくることも考えられる。
また、仮に同じ機種を1年間、継続的に各携帯電話事業者に納入できるということは、その分、1機種あたりで売れる台数が増える可能性が高く、売り上げの拡大が期待できる。
もちろん、各携帯電話事業者もそれを見越して、納入価格の引き下げを促してくるだろうが、それでも1機種あたりで売れる台数が増えることは、コスト的なメリットにつながるはずだ。
たとえば、筆者が長らく携わっている書籍などの出版業界では、何冊も新刊をリリースするより、1冊の書籍が何度も増刷を重ね、ロングセラーになる方が出版社にとってもメリットが大きいといわれている。
こうしたロングセラーによる実績は、昨今、将来的な扱いが不安視されているフィーチャーフォンでも記録されている。
フィーチャーフォンを製造するメーカーが限られてきたこともあるが、スマートフォンから撤退したPanasonic製フィーチャーフォンは、NTTドコモ向けで200万台を突破するほどのロングセラー&大ヒットを記録したといわれており、昨年の冬春モデルとして発表された「P-01H」へと継承されている。
国内市場向けのスマートフォンでは1機種あたりの販売台数が数万から数十万程度で、100万台を超える機種は数えるほどしかないが、フィーチャーフォン1機種で、それを軽く上回る売れ行きを記録しているわけだ。
ただし、フラッグシップモデルを年間サイクルで展開し、1機種を長く販売することになれば、必ず売れ行きが伸びるというわけでもない。
たとえば、今の段階ではNTTドコモから夏モデルが発表されたばかりで、話題性もあり、消費者からも注目されている。
今回は夏モデルの第1弾として、5月19日からGalaxy S7 edgeの販売が開始され、一部で品切れを起こすほどの好調ぶりだが、この後も同時発表もAQUOS ZETAやXperia X Performanceも順次、発売されるわけで、継続して、人気を保持できるかどうかはわからない。
また、これまでは半年に一度のペースでフラッグシップの新機種をリリースしてきたため、プロモーションなども発売直後のインパクトが重視されてきた。
しかし、今後は販売期間の長期化に伴い、継続的に話題を提供していく必要があり、デザインやスペックだけでなく、使い勝手や細かい機能などもしっかりとアピールしていかなければ、消費者の注目を集め続けることは難しい。
つまり、広告などを含めたプロモーション活動そのものも見直す必要があるわけだ。
auはラインアップをそろえて対抗
一方、他の携帯電話事業者はどう捉えているのだろうか。まず、ソフトバンクは発表会の開催そのものを見送り、NTTドコモの夏モデル発表会の当日にニュースリリースの配信という形で夏モデル3機種を発表している。
具体的な説明はないが、ソフトバンクはこれまでも旧モデルを在庫のある限り併売し続け、端末によってはワイモバイルブランドでも販売するなど、元々、ロングライフで売る傾向があり、今後もその姿勢を継承することになりそうだ。
逆に、対照的なのがauだ。auは5月31日に夏モデルの発表会を開催し、すでに発表済みの2機種(Galaxy S7 edgeとXperia X Performance)に加え、まったくの新機種は4機種、カラー追加を1機種、AndroidフィーチャーフォンとモバイルWi-Fiルーターを1機種ずつの合計10機種を夏商戦向けに投入することを発表した。
NTTドコモが年間サイクルの方針を打ち出したことに対し、KDDIの田中孝司代表取締役社長は「機種数が少なくなれば、お客さんの思いを機種に合わせてもらわなければならない。我々としては、お客さんの声を聞きながら、ラインアップを揃えていきたい」と話し、これまでに近い方針でラインアップを展開することを明らかにした。
ちなみに、今回のauの夏モデルの発表は「第1弾」とされており、近いうちに「第2弾」の発表も行なわれるという。
携帯電話事業者の主要3社で少しずつ方向性に違いが見えてきたが、いずれにせよ、今後、国内のスマートフォンの新製品市場に変化の兆しが見えてきたことは確かだ。
ユーザーとしては各社の発表や市場の動向をしっかりとチェックし、どのタイミングで買うべきなのか、見送るべきなのかをじっくりと見極めるようにしたいところだ。