[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第17回: 『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』のポテンシャル

夏休み映画のシーズンだ。私自身も1990年代の前半まで映画産業で働いていたが、夏休み映画と正月映画(正月第1弾は11月ごろから年末までの作品、正月第2弾は年明けの作品を総称する)は、映画会社にとっては大きな収益を見込めるシーズンである。当然ながら、収益を見込める大作映画が中心にラインナップされることになる。

今年の夏休み映画

2016年の夏休み洋画は、『ファインディング・ドリー』『ゴーストバスターズ』『X-MEN:アポカリプス』、邦画は『シン・ゴジラ』それにあたる……いやいや、忘れてはいけないのは東映特撮ヒーローものや、『ONE PIECE FILM GOLD』『アイカツ!』シリーズである。

これらのアニメは、すでに興行収入としては確実に大きな収益を見込めるものとなっており、買い付け金額の高騰する洋画を配給するよりも、国産アニメを配給した方がいいと鞍替えする配給会社もあるほどだ。

洋画はややタマ不足で、邦高洋低(邦画が洋画市場を凌駕している様子をいう)の状況は、アニメ映画もしくは漫画オリジンの作品が市場を牽引しているといっても差し支えないだろう。

そのキャッチコピーをいったらダメだろう……

これらの夏休み映画の中で気になったキャッチコピーがある。ディズニー映画配給による『ジャングル・ブック』だ。

そのキャッチコピーは、「少年以外、すべてCG(コンピューターグラフィックス)」だ。確かにキャストを見ると少年役以外は、すべて超一流の吹き替えボイス・キャストである。

「少年」以外がすべてコンピュータグラフィックスで再現したことは素晴らしいことかもしれないし、大変な開発製作労力を要したに違いない。だが、観客にしてみれば、10秒も観れば「だから何?」ということになるだろう。

それだけ、映画の中で使用されるCGのクオリティは飛躍的に向上した。

2001年春、イマジカ第1試写室

記憶は定かではないが、2001年の春先だったと思う。品川区五反田のイマジカ本社の第1試写室。
ここは、製作完成した映画の関係者試写(内覧上映)に使われることで有名な試写室だ。

そこで、電通、アミューズ、ギャガなど錚々(そうそう)たる会社の役員クラスが集まった試写会が開催された。私自身もデジキューブの宣伝担当役員として参加した。

上映された作品はスクウェア(当時)の副社長だった坂口博信氏が監督製作を行った、フルCG映画『ファイナルファンタジー』。

製作スタッフは、ハリウッドの精鋭とスクウェアのLAブランチ、ハワイブランチが全面的に製作に力を注いだ作品だ。一説に製作費総額167億円となっており、ハリウッドメジャー映画会社の夏休み映画クラスの予算が割かれたものだった。

「ミスターサカグチ、葉脈ができた……」

当時のことを思い出す。

坂口氏が「ある日、CGスタッフがすごくうれしそうにデスクに来ていったんだ。ミスターサカグチ、すごいものができたよ。葉っぱの葉脈が完全に再現できた」といって苦笑していたことを思い出す。

確かにCGのクオリティ面では、今あらためて鑑賞しても15年の歳月を感じない作品だと思う。映画内に登場するガジェット、ガン、飛行艇などの世界観演出も秀逸である。

ストーリー後半の急展開と意外性を除けば、この作品はフルCG映画のパイオニア作品としても、製作者としても坂口氏はもっと適正な評価を受けてしかるべきだと思う。

2001年6月にアメリカではソニーピクチャーズにより配給され、日本では9月にギャガによって配給された。その結果は残念なものだったが、そのクリエイティブやナレッジは、その後の『ファイナルファンタジー』のゲームシリーズに受け継がれた。

『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』のポテンシャル

そして2016年7月6日、ファイナルファンタジーシリーズの映画作品として『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』が公開された。

スクウェア・エニックスの株主総会で、「まだ映画製作をやるんですか?」という質問が株主からあったというが、作品の完成度とクオリティは素晴らしい。海外の専門スタッフの起用もあれども、基本は「ファイナルファンタジーXV」の製作スタッフによる作品だ。

さらには日本国内のCG製作プロダクションと海外の主要なCG製作プロダクションがエンドロールに名前を連ねる。

本作はCG映画として 日本のみならず世界で通用するレベルの作品に仕上がったものだ。すべてのキャラククター、設定、世界観がリアルを通り越してスーパーリアルな世界観を演出する。

個人的な欲をいえば、シーンが進行するごとにキャラクターの変わってゆく表情の変化をさらに期待したい。実写映画は、主人公たちの時間経過による表情のヤレ具合が魅力でもある。

CGにそこまでの変化や演出を求めるのはまだ時期尚早かもしれないが、さらなる演出効果としては実現すれば今以上の驚きと感動をもたらすことだろう。

かつて、ゲームクリエイターが映画を製作や監督することは、映画製作へのコンプレックスだと揶揄喧伝された時代があった。しかし、時代は変わり、本作は異なるアプローチが成された作品だ。

つまり、2016年9月30日発売のPlayStation4専用ゲームソフト『ファイナルファンタジーXV』のために、壮大なフルCGで製作されたゲームコンテンツのための予告編が、今回の『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』なのだ。

観てから遊ぶか、遊んでから観るか、できれば観てから遊んでほしいと思う、そんな夏休みフルCG映画の傑作がここにある。

「すべてCGです」……そんなありきたりのキャッチコピーを打たない製作の姿勢も評価に値する。ゲームファンのみならず、すべての観客に体験をしてほしい素晴らしい作品である。