[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第13回: ゲーム企画書=ゼロ円

1ヵ月に、どれぐらいの本数のスマホアプリがリリースされているか? と考えたことがあるだろうか……。このところ、以前ほどゲームカテゴリーランキングの変動は少なくなったが、2014年ごろはランキングの変動も激しく、ジャンルも多種多様なものが、日々ローンチ (導入)されていた。

2014年がライナップのピークか

その当時は、インディーズと呼ぶ個人レベルのアプリから、それ相応に作り込まれた企業開発によるアプリまで数多くのアプリがローンチされていた。

もちろん、玉石混交だったが、ゆえに奇跡の一作ともいうべき企画の面白さや新規性でウケたアプリがあったと思う。

ダイエットアプリ、聴力、視力検査、名言アプリなどでスマッシュヒットも目立った。それらは「落とし切り(定額)」でいくらというケースがほとんどだ。

中には広告モデルを採用しているアプリもあり、サラリーマンをやりながら、片手間で開発、本業がありながらも、本業の月収を超える売り上げがポータルから入ってきたという話も聞いたことがある。

専業主婦だった元プログラマーの奥さんが開発してアプリをローンチしたところ、思いがけない売り上げが上がってしまい、急きょ、法人を設立して翌年度の節税に励んだ業界人もいると聞く。

いわゆるアプリ長者が生まれたタイミングだった。

ただ、それらの中規模ヒットアプリを次から次へと生み出すことはなかなか難しいことで、徐々にフェードアウトするか、お小遣いの足し程度ならば継続しようという感覚になっていったという話もある。

勝負は3日で決まる……

2014年当時で、App Storeだけでも月に2~3万本が登場していた。

現在のランキング上位に位置しているアプリの中にも、その当時から揺るぎないポジションを確保しているものもあれば、登場して1~3ヵ月くらいの間でサービスが終了してしまうもの、更新が滞りがちになるもののある。

勝負はアプリ導入後の3日で決まるといっても過言ではないだろう。

ブーストは病みつき

アプリのランキング対策として、流動キャッシュが潤沢にある企業はまだ恵まれている。

選択肢としてはブースト広告を展開することによって一時的にダウンロードを促進し、一定期間はランキング上位を維持することができる。

この循環がうまく作用すれば、売り上げも伴うことになるだろう。しかし、ブーストを止めるとランク急落ということもあり、ブーストはランキングの前借りと売上の早期計上のようなものだ。

コンサルティング案件のポイント

アプリのヒットブームに相応して、ゲーム系アプリのコンサンルティングをお請けするケースが増えた。

主な相談案件としては、「アプリ企画のブラッシュアップ」「ヒットアプリ(ゲーム)の分析」やら「今後ヒットする可能性のあるジャンルの検証」「VRやARの可能性」など、コンテンツに紐付いたものが多い。

研究のためにヒットしたアプリを遊んでみるが、ヒット要因の分析はとても難しい。

アニメなどをベースにしたキャラクターもの、続編もの、旧作のオマージュ(作品のパクリ)、ジャンルの組み合わせ……などなど。

ちなみに、とあるヒットアプリ(この場合はゲーム)を世に送り出したクリエイターにヒットの要因を聞いてみたことがあるが、その回答は「運です」のひとことだった。

それこそ勝ったからいえる言葉かもしれないが、それだけ市場は混迷としており、一歩読み違えると二度と浮かぶことはできないという言葉の裏返しかもしれない。

アプリ企画いりませんか?

アプリのコンサルティングを請けるとともに、アプリの企画提案に大手ポータル系の企業を紹介し、営業同行したことも過去に何度かある。

アプリを提案する側は資金力に余裕がないために、企画を立てて、大手ポータル側に企画ごと買ってもらおうという算段だ。

ちょうど、冒頭で述べた2014年ごろはそのような提案も多かったと思う。中には役員自ら「ウチは企画にお金を出しますよ」と公言していたケースもある。

ただ、実際に提案に行くと、飲みの席のリップサービスに過ぎなかったこともわかり、時間のむだだったことも。

当然ながら、アプリ企画を提案する中小規模のパブリッシャーは、大手ポータル系が企画を気に入ってくれて、開発費全額をファイナンス(準備)してくれることを期待している。

もしくは、7対3などの割合で持ち寄ってプロジェクト組成を目論んでいたりするわけだ。

提案にあたっては守秘義務契約書(いわゆる、NDA)を締結する。これによって、双方ともに善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)の元に企画の内容を口外することはないということが前提になる。

ココを直したら持ってきて

最初の面談でアプリ企画提案することになる。

会議の成り行きとして、大手ポータル系の担当者からは「ここはいいけど、この部分はありきたりですね」などといわれ、提案側は「では、その部分を来週までに見直してきます」などのプロセスを重ねる。

個人的に、アプリそのものの企画は面白いと思い、アドバイスも行いつつ、オリジナル企画案の修正を5回ほど重ねた提案に同行したが、結果としてその修正提案は採用されることはなく、企画そのものはお蔵入りになった。

もちろん、持ち込みのアプリ企画だし、当事者でもないので偉そうなことはいえない。あくまでも、中間の立場の私個人の感想としては、企画修正を行う段階に入るならば、企画料か提案料としていくらかを払ってもいいのではないかということだ。

最初に段階できっぱりと「この企画はナシです」といわれるのならば、きっぱりとあきらめもつくはずだが、勘違いを生むのは、この辺を直せば企画の話は継続できるというニュアンスを感じてしまうことだ。

恋は愛に変わり、愛は生活に変わるように……

このあたりは、なんとなく気を惹くようなことをセリフを女性にいわれる気持ちに近いような気もする。女性にその気がないにも関わらず、気を惹くようなことをいうのは罪つくりだ。

同じ次元で、アプリ企画やファイナンスプランを論じるつもりはないが、個人クリエイターや中小企業が企画案を修正したり、提案のための時間を割くことは大変なことで、対価が伴わない作業を行わせるのは厳しいと思うことがあった。

そうはいっても「資金がないからウチ(大手)に来たんだろう?」と足元を見透かされるような気持ちもなきにしもあらずで、痛しかゆし。

とはいえ、企画実現の可能性がないならば、早めに「断る」こともビジネスのマナーとしてあるべきことではないだろうか。もしかしたら、他に持っていくこともできるかもしれないし、他の営業案件で稼ぐことができたかもしれない。

ただ、そういう企画の修正のやり取りをしているときほど、けっこう楽しかったりすることも事実。いうなれば、恋の初めに似ている。でも、それが恋じゃないことに気がついたときは残酷な結末だったりもする。