各社が相次いで開発者向けイベントを開催
スマートフォンの進化を語る上で見逃すことができないのが、関係各社による開発者会議だ。
以前、本連載では3月30日から米国サンフランシスコで開催されたマイクロソフトの開発者向けイベント「Build 2016」を取り上げた。
5月にはGoogleがアメリカのマウンテンビューで「Google I/O」、6月にはアップルがサンフランシスコで「WWDC(World Wide Developper Conference)」の開発者向けイベントを開催し、最新の技術動向などを披露した。
また、国内では3月のBuild 2016を受ける形で、日本マイクロソフトが「de:code」という開発者向けイベントを東京で開催した。
スマートフォンを使う1人のユーザーとしては、こうした開発者向けのイベントにはあまり興味がわかないかもしれない。
しかし、これから登場するスマートフォンがどういうものになりそうなのか、あるいはどうこう方向に進化しようとしているのか、将来的にはどんな技術が登場しそうなのかといったことを知る上で、開発者向けイベントの動向を知っておいて損はない。
とはいうものの、あくまでも開発者向けのイベントであるため、ソフトウェアやハードウェア、サービスなどの内容がある程度、理解できていなければ、参加してもセッション(講義)のお題目によっては、何が何やら、まったくわからないということもあり、物見遊山で参加するようなイベントではない。
筆者も専門外のことについては、その分野を専門的に取材するライター諸氏や関係者から説明を受けて、ようやく理解できることもあるくらいだ。
また、開発者向けイベントでは、各社の新製品などが発表されないものの、将来的に登場する製品やそこに搭載される機能に関連する技術がいち早く公開されることが多い。
そのため、開発者向けイベントで公開される内容は、項目によって、NDA(秘密保持契約)の対象になることがあり、筆者のようなメディア関係者はイベントを取材をしても部分的にしか記事にできないケースがある。
ただ、その後、対応する製品などが登場した段階で、「○○○という技術が開発者向けに公開されていたので、こういう機能ができた」といった表現で説明することができるわけだ。
いずれにせよ、ユーザーにとっては今ひとつピンと来ない開発者向けイベントだが、各社の方向性や今後の展開などを考えるうえで、一応、チェックしておきたい。
「モバイルファースト、クラウドファースト」を進めるマイクロソフト
マイクロソフトについては以前、本稿でもBuild 2016を取り上げたので、そちらも参照していただきたいが、5月に東京で行われたde:codeにはマイクロソフトCEOのサティア・ナデラも来日し、基調講演に登場した。
講演内容は基本的にBuild 2016で語られたものをベースにしたものだったが、日本を意識したデモとして、広く利用されているWin32アプリケーションの「秀丸エディタ」をUWPアプリにコンバートしてみせたり、同社のオンラインサービスの「Azure」を活用した企業の事例などが紹介された。
もう1つ注目されたのが、「りんな」のデモだ。りんなは女子高生キャラクターをモチーフにしたAIとして、日本マイクロソフトがLINEやTwitterのアカウントで運用しているが、りんなに写真を送信すると、その内容を理解し、反応してくるという内容だった。
マイクロソフトはこれからのITに必要な技術として、「会話プラットフォーム」を掲げているが、基調講演では東京オリンピックのときに日本語が読めなくてもレストランで注文したり、Skypeで翻訳しながら注文ができるだろうと語っていた。
Googleは次期バージョン「Android N」をアピール
Googleは元々、検索サイトとしてスタートしたが、GmailやGoogleマップなど、現在のスマートフォンに欠かせないサービスを提供することに加え、スマートフォンで最大のシェアを持つプラットフォーム「Android」を開発している。
今回のGoogle I/Oでは今年3月に開発者向けに公開され、年内にも一般向けに販売される端末に搭載される予定の次期バージョン「Android N」の注目点について、説明された。
ちなみに、Androidといえば、これまでのバージョンではバージョン番号とは別に、アルファベット順に開発コード名として、お菓子の名前が着けられてきた。
たとえば、最新のAndroid 6.0は「Marshmallow(マシュマロ)」、Android 5.0は「Lollipop(ロリポップ)」、Android 4.4は「KitKat(キットカット)」といった具合だ。
今回の「Android N」は開発コード名が公募され、近日中に名称が公開されるという。
Android Nの特徴としては、まず、パフォーマンスの向上、中でも3DグラフィックスAPI「Vulkan」に対応したことが挙げられる。おそらく、3Dグラフィックスを駆使したゲームなどが今まで以上に快適に利用できるはずだ。
2つめの特徴はセキュリティで、これまで一括で大容量のファイルをダウンロードして、アップデートを行なっていたものをバックグラウンドでダウンロードして、更新できるようにするという。
さらに、3つめの特徴として、マルチウインドウでの操作を可能にする。
すでに、一部のAndroidスマートフォンでは複数のアプリをウィンドウで表示する機能が実現されているが、これがプラットフォームのレベルでサポートされることで、今後はウィンドウでの利用が増え、大画面化と高解像度化が進むことになるかもしれない。
この他にもGoogle I/Oでは、対話型アシスタント「Google Assistant」を搭載した「Google Home」、AndroidプラットフォームとiOSで利用可能なメッセンジャーアプリ「Google Allo」、VRプラットフォーム「Daydream」などが発表され、マイクロソフトやAmazon、アップルなど、ライバル陣営に対抗する姿勢を鮮明に打ち出していた。
スマートフォンという1人1人が持つデバイスで最大のシェアを、さらに多様なプラットフォームに展開しようという考えだ。
各プラットフォームの連携で充実を図るアップル
6月14日からサンフランシスコでWWDCを開催したアップル。昨年は開発者向けの講演に加え、定額音楽配信サービス「Apple Music」を発表し、国内でも定額音楽配信サービスが注目を集めることになったが、今年は同社が各製品向けに展開するOSや技術に関する内容が中心のイベントだったようだ。
まず、iOSについては現在のiOS 9からiOS 10へ進化を遂げ、今年の秋に公開される予定であることが明らかにされた。
これはいうまでもなく、「iPhone 7」と噂されている次期iPhoneに搭載される予定で、順当に行けば、今年9月のiPhone発表と前後するタイミングで公開される予定だ。
iOS 10に搭載される新機能としては、端末を持ち上げると、自動的にスリープから復帰したり、3D Touchで利用できる機能の拡張、コントロールセンターでの音楽再生連携などが挙げられる。
アプリについても強化され、写真アプリでは写っている人を自動認識したり、地図では検索対象を細かく絞り込めるようにするなど、ユーザビリティを向上させている。
少し変わったところでは電話アプリが強化され、発信元が不明の場合、データベースと照合して、相手が誰なのかを表示できるようにしている。また、留守番電話も録音されたメッセージをテキスト化する機能などが提供される。
メッセージアプリは機能が限られているため、現状ではSMSとアップル独自のiMessageに使われるくらいだが、iOS 10では吹出しにエフェクトを加えたり、手書き文字の送信、スタンプなどが利用できるようになった。
これはLINEやfacebook Messenger、WeChatなど、さまざまなメッセージングサービスが普及していることに対抗しようという狙いだろう。
音声アシスタントの「Siri」も強化され、iPhoneやiPadだけでなく、Mac OS Xから名称を変更する「macOS」でも利用できるようになり、サードパーティアプリからもSiriを起動できるようになる。
ちなみに、macOSの最新版は「macOS Sierra」という名称で提供される。
この他にもApple Watchに搭載されるwatchOSは「watchOS 3」になり、アプリの起動などを含め、最大7倍まで高速化され、よく使うアプリを常駐する機能なども実装される。
ホーム端末として販売されているApple TVの「tvOS」も更新され、iPhoneやiPadと連携し、さまざまなサービスにより簡単にサインインできる環境を提供する。
ちなみに、AppleTVをリモートコントロールするためのアプリがiOS向けに供給され、Siriでの音声操作も可能になるという。