[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第14回: ゲームヒットのカギはイノベーションと運

スマホゲームのトレンドの変化はめまぐるしい。もちろん、固定的なジャンルでのヒットは定期的に発生しているのだが、何がヒットするか?……を的確に予測できる人は、まずいないだろう。前回のコラムでも触れたが、とあるヒットコンテンツのプロデューサーに成功要因を聞いたとき、たった一言「運です」といった。とはいえ、ただ「運がよかった」だけではなく、ゲームへの想いや長年構築したナレッジ、そして地道な販売促進活動があったからだと思う。

開発遅延は危険な兆候か?

とある案件で、知名度の高い会社におじゃましたことがある。

この会社は、過去にも相応のヒットゲームを手掛けたこともある会社だ。現在は、オリジナルの新作ゲームを外部デベロッパーと開発中と聞いた。しかし、現状は開発が3ヵ月から4ヵ月ほど遅延しているという。

担当者曰く、「ガワはできているんですけどね」とのことだ。この場合のガワとは……。詳細まで聞けるような雰囲気ではなかったので、それ以上の話はなかったが、総合的に判断すると、ひととおり遊べる状態ということらしい。

ただ、注意しなければならないのは、その「ひととおり」がいわゆる表(オモテ)面のみかもしれないということだ。

ひととおりプレイできますよ……

私もPCゲームやスマホゲーム開発案件のプロデュースをしたことがあるが、ひととおりの動作ができて、ある程度の範囲までゲームをプレイすることができる状態までは、ある一定の開発スキルがあれば実現できる。

しかし、それだけでは売り物としてのゲームとしては不十分で、チュートリアル、UI、ゲームのやり込み要素などは不可欠。さらには、ゲーム部分のみならず、ユーザーアクセスを見越したサーバー設計など多岐に渡る。

また、最低でも3ヵ月更新分の新規追加キャラクターやカードなどの開発準備やストックも必要だ。

つまり、「(ゲームが)ひととおりできている」はできていないに等しいのである。

できないのとやりたくないのは違う

かつて、セガで仕事していたときに師事した、鈴木裕さんの言葉は今も印象的である。

「プログラマーのいう『できない』という言葉はあてになりません。それは『できない』のではなく、都合上『やりたくない』ということが多いからです。やるとプログラムが面倒になるとか、仕様的に他の部分にも干渉することになるのでやりたくないことが多いのです」

また、外部のCGクリエイターと仕事したときのことだ。ゲーム中のキャラクターを3次元CGで再現するオーダーをしたが、「2次元キャラクターとか劇画タッチのキャラクターを、そのまま3次元CGで再現は難しいですよ。だって、平面(紙)に描いてあって、立体感を無視して作画されているから」というエクスキューズをしていたことも思い出す。

しかし、現在市場にあるフィギュア関連商品を見れば、それが単なるいい訳に過ぎないことはわかるだろう。

すべての2次元キャラクター、マンガキャラクターは立体化(3DCG含む)してもまったく違和感のない世界観を再現できているからである。

これも先に述べたようにクリエイターのいい分を鵜呑みにしてはいけないという事例だ。

プレイヤー視点にたったモノづくりとは?

このような事例ばかりではないだろうが、進歩的なことを常に心がけてやろうと思うには、不可能を可能にするために努力は欠かせない。

個人的な感覚かもしれないが、ヒットしたコンテンツというのは、ゲーム開発側やゲーム供給側が一般に不可能と思って「できない」や「やりたくない事例」を徹底して排除して作り上げたものが多いと思う。

それは簡単にいえば、プレイヤーの視点に立ったモノづくりといい換えてもいいだろう。

遊ぶ側の視点に立って、魅力的なキャラクター、世界観、ストーリー、参加しやすく遊びやすい、わかりやすい、あるいは止めやすい(中断を含む)というが重要なポイントだ。

そして、その先にはゲームやプロダクツにおけるイノベーションがある。不可能や不都合を排除した結果、革新や利便性が実現すること他ならない。

さて、話しを戻そう。通常、大きな仕様変更やゲームそのもののコンセプトが変わらない状況下で、3~4ヵ月の開発遅延は「事件」といってもいいかもしれない。

当然ながら、仮にゲームが完成したとしても、次はAppleやGoogleの承認作業工程が待ち受ける。以前よりもその工程と時間は短縮されたとはいえ、審査と承認のための2~3週間の猶予をもった方がいい。

有名プロデューサーの功罪?

一概にはいいにくいが、そのような「事件」コンテンツが成功する確率は低い。その理由は肌感覚なので明確なポイントはないが、経験上そう思う。

ちなみに、先に挙げたゲームをプロデュースするのは、有名なスマホゲームを手掛けた方だと聞く。

このようなプロデューサーの中には、月次の個別コンサルティング料が数百万掛かる(支払う)事例もあるという。と同時に、コンテンツの開発費も相当な金額に違いない。

発注側の顧客からすれば、「あのコンテンツをヒットさせた人」の新規コンテンツゆえに期待も膨らむ。「ココをもっとこうすれば、もっとよくなる」という仕様変更やブラッシュアップが行われていることは想像に難くない。

当然ながら、追加開発費も発生していることだろう。このゲームの結果も7月か8月には出ていることだろう。やはり最後は、「どれだけやれることをやったか」ということとの引き換えの「運」の大小に頼るしかないのかも知れない。