[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第37回: GRANBLUE FANTASY The Animationに見る景表法のスキマ!?(後編)

ソシャゲにおけるガチャの射幸心を煽るきっかけになったのは、2012-13年ごろのガラケー用ゲームにおける新興ソシャゲと一部の家庭用ゲーム会社の収益強化展開がルーツだったと思います。その後、アプリゲームの主戦場がスマホに移ると、ゲームの仕組みや表現力、さらにはユーザーインターフェイスなどの格段の向上が図られ巧みなガチャの演出事案が増えました。

拍車をかけた読売新聞の記事

中でも2016年2月18日、読売新聞の夕刊で取り上げられた『グラブル課金に苦情殺到…希少キャラ出ない』という記事が拍車をかけた。

この記事に関しては、グランブルーファンタジー運営事務局が「確率操作の事実はいっさいございません」という発表をWeb上で行った。しかしながら、それを確かめるすべは一般ユーザーにはなく、「やっているところがやっていないといういうんだから、やってないと思うしかない」というのが本音ではなかっただろうか。

一方、消費者庁は誇大広告、有利誤認にあたるのではないかという見解を発表。……とはいえ、実際に対象社や対象アプリ・ゲームが罰せられたことはなく、おそらくは注意喚起ならびに業界団体での自主的な規制やモラルの範囲に委任するという結果で落ち着いたのではないかと記憶している。

さらにいえば、この騒動のあとに各ゲーム系倫理団体がこぞって自主ルールを策定して、各社に徹底を施そうと努力をした様子はうかがえるものの、結果的には各社の判断や告知方法によるところが多く、今となってはもうすでに過去の話という雰囲気も漂っている。

独自調査でたどり着いた結果は……

今回、フォーカスした『GRANBLUE FANTASY The Animation』に関していえば、個人的には前編で指摘したように、景表法のベタ付け景品のルールに抵触しているのではないという見解は変わっていない。

この件に関して、自分なりに調べてみた結果を記しておきたい。

最初に消費者庁へ電話をかけて、このDVD(Blu-rayを含む)ボックス企画に関しての見解を尋ねてみたが、まずは地域ごとの窓口で相談をしてほしいという回答だった。

この点はあとでわかるのだが、単なる相談や通報レベルの事案は各地の窓口が一時的な窓口になるようだ。

そのため、消費者庁で紹介された地元(私の居住区)の台東区役所内にある、台東区消費生活センターに出向いて相談することにした。

主な相談内容は、

「私(黒川)個人が購入する「GRANBLUE FANTASY The Animation 2」に付与されている10連ガチャは、1回300円に相当するもので、実質3,000円相当特典でないか? 当該商品の実勢価格は5,000~6,000円だと想定すると、それだけですでに景表法の上限20%を超えているのではないか。その調査と法的な問題がないか確認したい」

というもの。

これに対して、台東区消費生活センターの担当者I様の回答として、

「内容がそのとおりだとすると、問題があるように見える。こちらの窓口では判断ができないが、消費者庁と情報を共有してもいいなら、こちらから情報を共有し検討する。なお、こちらの窓口と消費者庁からそちら(黒川個人)に回答を行うかどうかを確約できるものではない」

ということだった。

なお、さきほど述べた消費者庁に関する問い合わせの内容に関して、I様の見解は「一般的な問い合わせには消費者庁は回答をしないケースがある。法を管理する立場にあるので『法的な見解を聞きたい』というアプローチであれば回答をもらえるはずである」というアドバイスを受けた。

そのため、再度消費者庁に電話でアプローチを行ってみた。さきほどの台東区消費生活センターと同様に経緯を話し、「法的な見解を聞きたい」というと電話の向こうの態度が一変。

しばらくすると担当部署に電話が回り、最初から内容を説明しました。電話での相談案件として「法的な解釈と見解に関しては検討するが、最終回答を約束するものではない」という回答をもらった。

数日後、台東区消費生活センターのI様より連絡をいただき、「東京都庁の東京都生活文化部消費生活部取引指導課と説明いただいた内容を共有したいが問題ないか?」という問い合わせが来た。「こちらとしては、まったく問題ない」という旨を伝えることになった。

それぞれ、対応後から約3週間経過しているが、現時点で回答はない。

このDVD(Blu-ray)ボックス特典のガチャ10連に関しては継続して動向を調査し、また別の機会に案内できるようにしたいと考えている。

あるべき姿としてのコンテンツの魅力と売る努力

今回のボックス商品に関しては、Cygamesの意向がゼロとは思えないが、むしろアニメーションのボックスの生産販売元であるアニプレックスの意向が強く働いているものと思う。

私は、1990年代にギャガ(当時はギャガ・コミュニケーションズ)に在職しビデオパッケージなどの制作をしたことがある。

また、2000年代前半には、自身で起業したデックス・エンタテインメントにて映画製作やそれらのDVDパッケージを制作し、販売を行った経験もある。加えて、ここ数年でも、自身の会社でDVDやBlu-rayの映像商品を制作し販売したことがある。

その中で感じたことは、現在のAV市場では「映像ソフトは売れない」ということだ。

DVD商材に関しては、1990年代の終わりから2000年の前半までは、ビデオソフトからの買い替え需要や、大手レンタル店舗チェーンの在庫の入れ替え需要があり、右から左へ在庫が想定数以上売れた記憶がある。

しかし、ここ数年は売れ筋のアニメーション商品でさえ、初回販売数は1,000本前半という厳しい数値のものもある。

さらには、インターネットでさまざまな動画が視聴できる環境が整ったこと、AmazonプライムやHuluなどの配信視聴ができる新しいサービスが導入されたことなども理由の1つかもしれない。

その中において、今回取り上げた『GRANBLUE FANTASY The Animation』はコンテンツ内容自体も素晴らしく、充実したものだったことは間違いない。加えて、今回のテーマである10連ガチャシシアルコードの破壊力をもってすれば、苦境にあえぐ映像メーカーにとっては福音の商材であるだろう。

ユーザーがよろこんでいるから、待ち望んいるから、それでいいのだ……という声が聞こえなくもないが、ルールを伴わない特典合戦や値引き合戦は、いずれは現れてくる「元気の前借り」であることに違いはない。

また、メーカー側は、法的な判断が出たらやめればいいという傍観姿勢かもしれないが、それが正当化されることは望ましくない。あるべき姿としてのコンテンツの魅力とそれを売る努力を改めて見直してほしいと考えている。

(c)Cygames, Inc.