尻だけじゃない!セクシーな音楽家ヴィオレッタの変化
2017年6月19日のアップデートで、新たに加わったヒーロー「ヴィオレッタ ノワール」。
オルガンのような巨大な楽器を操り、ヒーロースキルで相手をサイレントの状態異常にする新しいタイプのタンクだ。
そのセクシーなシルエットから、発表時から「尻」の愛称がつけられ、人気のヒーローのひとりとなった。
カンタービレ×パッシオーネ
今回は、そんなヴィオレッタの誕生秘話を、NHN PlayArtの林プロデューサー(林P)と、テーマソングを担当したOSTER projectに話を聞いた。
誕生のきっかけは「タンクらしくないタンク」!
6月のアップデートで登場されたヴィオレッタだが、新しいヒーローの制作とはいったいどのようなスパンで進むのだろうか。
「ヒーローを作るのには、大急ぎで進めても3か月くらいの時間が必要になります」と林Pは明かす。
ヴィオレッタの制作がスタートしたのは3月くらいだったという。
当時の環境では、まだサイレントの状態異常はユーザーにあまり活用されていなかったが、開発チームは、ヒーローのスキルを封じる効果は逆転要素になると感じていた。
その結果、近づいた相手のスキルを使えなくする能力を持つタンクの登場を決定した。
「タンクというと、どうしてもごついキャラクターになりがちなので、なんとかキレイなキャラクターを出したいという思いがありました」と、林Pはヴィオレッタのデザインについて話す。
そこで、考えられたのが、本体は華奢だが巨大なパーツを周囲にまとって戦うというヒーロー像。
そして、音楽をテーマにしたヒーローを出そうという当初からあったアイデアを取り入れ、大きな鍵盤楽器を持って戦うというヴィオレッタのスタイルが完成した。
ヴィオレッタといえば、その妖艶なナイスバディだが……。
「3Dアクションの場合、プレイヤーは後ろから見ることが多くなるので、脚とお尻を強調したシルエットにしました」と話す。
この尻と脚を目立たせる部分には強いこだわりがあった。
ヴィオレッタのモーションを作成する際は、モーションアクターに対し「もっとお尻を振るように」や「腰をくねらせて」など、熱い演技指導が入ったという。
また、一方で性格は、容姿に引っ張られすぎないように「元貴族のお嬢様で、自分の容姿に自覚がなく、無意識のうちに動きに色気が出てしまう天然キャラ」としてセリフなどを用意した。
初音ミクブーム黎明期をけん引したボカロ界の大御所
テーマソングを担当したOSTER projectは、VOCALOIDプロデューサー(ボカロP)のOSTERを中心としたソロプロジェクト。
ポップスからジャズ、果てはミュージカルまで、幅広いジャンルでの投稿で知られる人気ボカロPだ。
くじらライダー
Music Wizard of OZ
近年では人気シンガーソングライターaikoのスタッフとして編曲を担当。
そのほか、トヨタの「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」やカゴメのキャラクター「ナポリたん」の公式テーマソング企画「ナポリたん“ソング”スタジアム」に楽曲を提供するなど、その活躍はniconicoにとどまらない。
ナポナポリターンマッチ
OSTERが音楽活動スタートしたのは、ニコニコ動画がサービスを開始するよりも以前にさかのぼる。
「物心ついたときから音楽をはじめていた」と話すように、3歳でエレクトーンを、8歳からはピアノを習い始めたOSTERが、DTMで作曲活動を始めたの中学生のとき。
当時、パソコンを使って音楽を演奏できるということを知った彼女は、自分の弾けない楽器やフレーズをコンピューターに弾いてもらえることに、「無限の可能性を感じた」という。
さらに、当時、ブームとなっていた音楽ゲームとの出会いも、彼女にとっては大きかった。
様々なジャンルの楽曲を生み出すコンポーザーや、ダンスゲームを通して知った90年代のダンスミュージックが、現在の音楽性に大きく影響を与えていると彼女は話す。
そして、高校生のころにはmuzieにて楽曲の投稿を開始。しかし、当時、彼女が投稿していた楽曲は、インスト曲がほとんどだった。
ボカロPとしての、OSTERの名前を知らしめたのは2007年9月に投稿された「恋スルVOC@LOID」。
初音ミク発売前から、クリプトン・フューチャー・メディアが、ソフトウェア・シンセサイザーの輸入を行っていたこともあり、MEIKOやKAITOなどのVOCALOIDの存在は知っていたという。
歌モノの曲を作りたいという気持ちはあったが、「これを自分は、本当に使えるのだろうか」と思い、購入の決断はできずにいた。
しかし、キャラクター性を前面に押し出した初音ミクが発表。そのかわいらしくも自然な歌声に衝撃を受けた。
「これなら私でもかわいい曲が作れるのではないか。彼女を歌わせてみたい」と思い、発売とほぼ同時に購入したという。
初音ミクの発売からわずか2週間で公開された楽曲は、VOCALOIDの心境を歌った歌詞とテクノポップな曲調でヒット。
初音ミクブームに火をつけるきっかけとなった。
その後も、ひとつのジャンルにとらわれない多彩な作風の楽曲を発表し続け、今ではOSTER projectといえば、niconicoを代表するボカロPのひとりだ。
ひとりきりのパレード feat. 常盤ゆう
音楽の継承者であるヴィオレッタの信念を込めた
ヴィオレッタの形が固まりはじめた4月半ば、テーマソングを担当することになったOSTERに新ヒーローのテーマソングのオーダーが届いた。
開発から渡されたのは、絵とかんたんな設定資料、そして開発段階の3Dモデルの映像だった。
開発からのオーダーは「ピアノがかっこいい曲」と「頭サビ(※1)」というものだった。
※1 頭サビ:冒頭からサビが来るという曲の構成。『#コンパス』では、ロードが終わって音楽が流れた瞬間、どんなヒーローがいるのか分かるようにと、テーマソングの冒頭から個性を出している
ピアノがかっこいい曲といっても、クラシック、ジャズ、トランスと様々なアプローチがあるが、お嬢様で音楽家というヴィオレッタのイメージから、「クラシックのジャンジャン鳴らすピアノ」にしようと決めたという。
しかし、ただのクラシックでは収まらないのがOSTER流。
曲の序盤では、クラシックを意識し、ジャズで使われるスケールを封印した演奏が展開されるようになっているが、次第にテンション・ノート(※2)を乗せたり、アドリブを入れたりと、クラシックから外れていく。
※2 テンション:ジャズなどで緊張感を出すために用いられる音。和音を構成する音に、非和声音を2つ以上重ねること。
「曲のテーマは、『静と動のせめぎあい』です。次第に情熱が高まってくると、クラシックから離れ、ジャズのようになっていくようになっています。
フルバージョンでは、曲の最後には現代的なジャズの演奏法に変化しています」
音楽用語がちりばめられた歌詞は、ヴィオレッタの音楽家という設定からの着想。
「なぜ、今、クラシック音楽を演奏するのか、ヴィオレッタはどんな思いで音楽に向き合っているのかを想像しながら歌詞にしました」とOSTERは歌詞のテーマについて話す。
過去の音楽家が書き残した楽譜の1音1音に込められた作者の意図に想いを馳せることも、クラシック音楽のひとつの側面である。
サビの前の「光る 歴史のすべてを今この手に」という歌詞は、過去の人々の思いを受け継ぎ、自身も音楽の歴史の一部となって未来へと音を継承するというヴィオレッタの信念なのだ。
ボーカルには、初音ミク V4のSOLIDを採用しているというが、どこか初音ミクというよりMEIKOやGUMIに近いような太く伸びのある声のように感じる。
これは、OSTERによると、かっこいい曲を歌うときのミクのイメージとして調整を施した声だという。
「ジェンダーファクター(※3)を高めにすることで、通常のミクより、ハキハキした芯のある声になるんです」
※3 ジェンダーファクター:VOCALOIDの声質を変化させるパラメーターのひとつ。略称はGEN。低くすると女性的な声に、高くすると男性的な声になる
データベースの種類が豊富になってきた今、シーンに合わせて表情を付けた声を選ぶようにしているというOSTERのこだわりが光る調整だ。
クラシックからジャズへと変化する曲、音楽の歴史を未来へつないでゆくという歌詞。共通するのは、変化や進化というイメージだ。
戦う音楽家、しかもタンクという意外な着想から誕生したヴィオレッタは、ゲーム内でどのような変化を遂げていくのか、これからも目が離せない。
新アルバム「キャンディージャーの地平面」が7月26日発売
OSTER projectの新アルバム「キャンディージャーの地平面」が7月26日に発売決定。
「カンタービレ×パッシオーネ」は収録されていないが、ヴィオレッタのテーマソングからOSTER projectの世界に興味を持った人はぜひ聞いてみてほしい。
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