[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第45回: 『龍が如く』新作に見るあるべき続編の創り方

映画業界とゲーム業界でのビジネス上の類似点があります。それは続編が持て囃(はや)されるということです。とはいえ、その「続編」の実現に至るまで、クリエーター、制作スタッフの努力と労力は並大抵のものではないでしょう。それでも、成功した映画コンテンツは世界規模で数百億円から数千億円、ゲームコンテンツも数十億円から数百億円のキャシュを稼ぎ出すことが見込めます。ゆえにいい続編は提供(企業)側と受領(顧客)側、双方にとってプラスの関係を紡ぎ出すことがあります。

『龍が如く』新作発表会の土曜日開催はネット対策か?

2017年8月26日(土)夕刻、秋葉原のUDXシアターにて、セガゲームス・龍が如くスタジオの新作発表会が開催された。

一般的に、土曜日のこの時間帯に発表会をメディア向けに行うことは珍しい。今回は『龍が如く』ファンの一般客を招待したこと、それと同時にネット向けに発表を生放送で行うことが重なって、この日時での開催だったようだ。

会場は前方にゲーム系と一般系メディア取材陣、中ほどに開発制作関係とスタッフ招待枠、後方には一般招待客とテレビ収録クルーが陣取るという形でほぼ満席の状態で発表会はスタートしました。

『龍が如く』3つの新作は?

今回発表になったゲームコンテンツは、以下の全3作品。

  1. 家庭用ゲーム機向け『龍が如く 極2』
  2. オンライン(PCおよびスマホ向け)として『龍が如く ONLINE』
  3. 『北斗の拳』とコラボした家庭用ゲーム機向け『北斗が如く』

すでに、このコラム掲載時には各ゲームコンテンツのキャラクター続報などが出ていると思うが、PS4用ソフト『龍が如く 極2』は2017年12月7日発売予定となっている。内容的には2006年に発売された第2作『龍が如く 2』を最新の技術でリメイクしたゲームコンテンツ。

ゲーム内ロケーションは、おなじみの歌舞伎町ではなく神室町、大阪の道頓堀ではなく蒼天堀が登場する。ゲームステージのそれぞれがシームレスマップとして展開される。

また、コンテンツの中での重要なキャラクター真島吾朗の追加シナリオも収録とのことで、マニアックな部分もあり、「龍」の入門部分と発展部分を兼ね備えたゲームコンテンツに仕上がりそうだ。

『龍が如く』失言の行方は

この発表会でのハプニングとしてすでに報道されているが、『龍が如く 極2』のゲーム内のキャラクターモデリングとして登場している寺島進氏の失言報道が取りざたされ、批判を受けてしまった。

当日の顛末は、司会進行の名越稔洋氏のアナウンスによって、ゲーム内キャストの白竜氏、木下ほうか氏、木村祐一氏、寺島進氏らが登壇し、ゲームに関するざっくばらんなトークが交わされた。ゲストは一様に、このゲームに出演登場できたことを笑顔かつ、高揚した様子で語っていたのがとても印象的だった。

寺島氏は本人曰く「今日、沖縄旅行から帰ったばかり」とのことで、テンションも高めで、「今、もうビール飲んじゃっているから」という発言もあり、リラックスした雰囲気であった。そして、ゲスト各人に最後のあいさつを求められたときに……。

寺島氏から「今日、ステージに上がっている何人かは朝鮮人なんで……」「ほんと朝鮮からミサイル飛ばさないように願っているだけでございます」という発言が飛び出した。おそらく、ご本人は今話題になっている北朝鮮における弾道ミサイルなどの件を絡めての軽いネタ振りくらいの認識だったのかもしれない。

『龍が如く』キム兄の絶妙のフォローだった

当日、私は前から3列目のメディア系取材席に座っていましたが、寺島氏の発言には会場の空気感がさっと一瞬引いたように感じた。おそらく、壇上のゲストや名越氏も同様な感覚を持ったのではないだろうか。

寺島氏の隣にいたキム兄は、すかさず「このあと謝罪会見やね……」とお笑い芸人らしく素晴らしいフォローと笑顔を見せたが、私の隣にいた韓国系メディア取材者と思われる人たちはざわついていたのは明らかだった。

その後、セガゲームスの日本、韓国、中国への謝罪告知対応は時間をあまり空けずに行ったことはよかったとことだと思う。もちろん、海外のメディアの中には「許せない」というトーンの報道もあったようだが、「セガ=龍が如くスタジオ」としての誠意はじゅうぶん伝わったと思う。

特に今回は、日本、中国、韓国を含む3ヵ国語対応のメディア向けのプレスリリースを準備しており、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの販売を通してアジア圏、中国、韓国系に販売を強化したいと思っているゲームコンテンツであるからこそ、早期に不適切な発言として謝罪告知を行ったものと思われる。

龍が如く突き進んでいただきたいゲームコンテンツ

かくの如き失言はあったものの、ゲームはゲームとして捉えるべきもの、そのゲームコンテンツに出演し登場する人間の考えを反映するものではない。

どのような状況であれ、ゲームコンテンツとしてあらゆる国々のプレイヤーにフラットなスタンスでプレイしてもらえることがクリエーターの望むものだからだ。

続いて紹介された新作は、2018年サービス導入予定の『龍が如くONLINE』。タイトルどおりのPCおよびスマホ向けのオンライン版だ。

スピンオフ企画という設定で「春日一番(かすがいちばん)」という新キャラクターが登場する、まったく新規のゲームコンテンツになる。

続編という表現が適切かどうかは判断の分かれるところだが、家庭用ゲーム機でじゅうぶんに認知度も向上し、時代の変化に併せて今回はPCとスマホへの対応は新しいファンの獲得につながると思われる。

新しい『龍が如く』のエコ循環システムが機能することも考えられる。楽しみなゲームコンテンツになりそうだ。

進化作『北斗が如く』

まさか、ここまでやるとは……というのが会場にいた誰しもが思ったのではないだろうか。

龍が如くスタジオが最後に発表したゲームコンテンツは、『北斗が如く』。2018年発売予定で、『北斗の拳』と『龍が如く』の新解釈コラボレーションといえよう。発表会当日は導入を予感させるオリジナルムービーが披露された。

神室町の「桐生一馬」が「ケンシロウ」にモーフィングし、『北斗の拳』のあの世界……「スフィア・シティ」や「奇跡の街エデン」が再現されることになるだろう。なんとも驚くべきコラボレーション、ああ、そこまでやられたらもう何もいうことはない。

クリエーター側が楽しんで(もちろん、苦労はあると思うが)企画開発をしていることを感じる作品になりそうだ。

今回の『北斗が如く』もそうだが、新しい続編の世界、言い換えるならば、従来の作品に新しい世界観が付与されさらに大きく進化しそうな予感がある。ありきたりな続編ではなく、新作に近い世界観を提供する龍が如くスタジオの開発作品に期待したいと思う。