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前回の続き。
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■序盤の渦
即死。
今まで体験したことないスピードでの即死だ。
質も量も桁違い、こんな轢き殺されは初めての体験であった。
自軍上の防衛を任されているはずの自分が一番最初に落ちるという焦りと恐怖。
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だがそんなことを思っている暇などない。
即座にダッシュを使って持ち場へ戻る。
人がいるとはいえ、うちの持ち場はそんなに長くは持たない。
人数こそ同等、もしくはちょっと少ないくらいな上に、一人ひとりのスペックが段違いだ。
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しかし、これは我の持ち場に限った話ではない。
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「敵軍上、人数差すごい、中央から援軍来れない!?」
「中央ヤバイ、カットでいっぱいいっぱい!」
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GvGというのはVCをしていると熱が入るものだ。
どうしても焦ってしまうと熱がこもっている分、その感情表現が倍化される。
それは喋っている方も、聞いている方もだ。
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「とにかく取られなければいい、カットで凌ごう!」
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隊長の声が飛ぶ。
各々の持ち場でカットし続けること、継続することが最も重要なミッション。
援軍は期待できない。
相手も強いがこちらも何とかカットで喰らいつき、敵の思惑通りにはさせぬよう動き続ける。
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カットで一番重要なのは何か。
いや、一番やってしまってはいけないことは何か。
全滅することだ。
我のような弱い戦闘力でも、生き続けてその場に存在することこそ価値が生まれてくる。
いくら執行者が生存能力が高いと云えど限度もあるし、死んでは元も子もない。
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「固まらないで、全滅しないようなるべく広がってヒットアンドアウェイ!」
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少ない知恵を絞ってなんとかその場を改善しようと試みる。
戦闘力の差は歴然だ。
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だが弱者には弱者なりの戦い方というものがあるのだ。
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我はひたすら生き残り続けることを考えて動いていた。
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■均衡の乱れ
全ての拠点がカットされ、カットし続けるという完全なる拮抗状態が続いた。
しかもどの拠点も限界まで張り詰めた糸のよう。
自分の持ち場は当然のこと、他拠点の緊張がVCから聞いて取れる。
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時には裏手に周り範囲スキルの月光でカットを試みる。
人数が多いと踏んだ時には大胆に攻め、少ないと判断した場合は最低限の距離と牽制だけをしてリスポンからの援軍を待つ。
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前回のCastra戦も辛さは同じだったが、今回は人数の桁が違う。
しかし、こちらの人数は負けているとはいえ、VVIPの頭数も相当なものだ。
皆がこの戦術や意図を理解して動いてくれれば何とかなる。
せめてうちだけでも守らなくては。
そういう思いでiPadを握る手に力が籠る。
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もしここを刻印されれば、今この場にいる敵は他の所に流れていき、ドミノ倒しのような状態に陥ることは明白だ。
VCの指示などあまり覚えていない、ただただ全滅だけは避ける、ひたすらカットと生存に集中していた。
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この緊迫状態、先が見えぬ暗闇の中で光をもたらしたのは自軍下からの報告であった。
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「自軍下、いけそう!とるよとるよ!」
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我は自軍上、一切その場にはいないが期待感が溢れてくる。
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「余裕あるところは?」
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隊長の声が耳に木霊する。
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「中央刻印はできないけれど相手薄くなってきた」
「では中央の遊撃隊のリスポン組は自軍下へ!」
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即座に隊長からもリスポン地点からの援軍要請が飛んでくる。
ここら辺の臨機応変さというのは感銘に値する。
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「自軍下、絶対とるよ!」
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期待を抱きながらもしっかりとカット・生存だけに集中し続ける。
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そうして拮抗すること1分。
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マップに念願の緑色の光が灯る。
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先制点を見事にVVIPが決めたのである。
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「ナイスー!」
「うおおおおおし!」
「さすが!」
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先ほどまでの空気が台風が過ぎたあとの青空のように、晴天の兆しを見せる。
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「自軍下遊撃に行ってる人たち、中央お願い!」
「敵右側こちらの人数薄くなってきた!」
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だが即座に臨戦態勢へとVCが移行する。
しかし、これで優位に立ったのは何を隠そうVVIP側だ。
このアドバンテージを活かすことが最重要課題。
自軍下に行っていた遊撃部隊が移動し、刻印されそうな箇所へと移動を開始する。
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「自軍上は?」
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そう聞かれて脳を回転させる。
確かにジリ貧ではあり、決して優位ではない、むしろ不利なところだ。
だがここで遊撃が来たところで刻印はできぬだろうと判断した。
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「自軍上、カットで耐えるから大丈夫」
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一言で返す。
VVIPの精鋭部隊を他に回した方が良いと、我が独断と偏見で決めたのだ。
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■役割(ロール)とは
こういう時、人は迷ったりするものだ。
声出しはどうしても責任というものが伴う。
故に声出しをしたがらない人というのは少なくない。
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我の戦闘力は10万にも満たない。
尚更声出しとして手を挙げるのは勇気がいるものだ。
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もし自分の判断が間違っていたら、もし自分のミスで負けてしまったら。
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葉を隠すなら森の中、考えや想いはあるのに伝えずに流されてプレイする。
チームプレイでは当然そういうことも必要だ。
むしろそういう人がいてこそチームが成り立つのも間違っていない。
だが一つだけ言えるのは、それは我のプレイスタイルに合わぬということ。
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同時に責任が、プレッシャーが、というのも理解できる。
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だが我から言わせてもらえれば、チームを勝たせるために判断するという行為は、結果間違っていたという評価を下されるかもしれぬが、その行為と想いは誰が責められようか。
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自分よりも優秀な軍師や判断能力、戦闘力がある者たちが声出しをすればいい、人員が溢れているならば我は喜んでマイクを外し、戦術やカットに専念させてもらう。
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いや、人員がいるいないとか、そういう問題ではない。
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既に自ら手を挙げ、挑んだ勝負、挑んだ役割。
それを全うするまで。
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格好良く言うと「覚悟」という文字で表せるかもしれない。
だが我の覚悟は違う。
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”どんな状況でも楽しむという覚悟”
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これだけは誰にも負けぬ自信がある。
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増援も断った、しばらくはこの状態が続く、いや、悪化するやもしれない。
だが何とかチームの勝利のために動かねばならない。
そうなればやることは一つ。
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「自軍上、総員、」
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息を吸い込んだ。
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「全力カット継続!!」
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火花が再び眩い光を放つ。
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■拮抗の再来
カットマンとしての意地。
これは戦闘力とかではない。
意地のぶつかり合い。
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既に周りの事は気にする余裕もなくなった。
まるでそこは15対15か、はたまた20対20か。
そこだけが戦場かのように錯覚するほど激戦が続く。
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「あ、ヤバイ!刻印されてる!」
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「カット!」
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「こちらの人数が足りなくなってきた、大丈夫かn
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「カットォォ!」
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「また刻印され始m
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「カットオオオオオオオオオオオゥゥゥォォォォォ!!!」
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カットマンの意地を全力でぶつける。
我の持ち場にいる小部隊全員がそれを理解して動いているのが分かるほど連携が取れていた。
喋らずともその意図を汲み、一斉に行って全滅だけは防ぐように動く。
その動きは、織田の鉄砲隊のような、不規則ながらも動きを変えて前線の入れ替わりを繰り返して流れを作らせない。
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必死だったのは我の持ち場だけではない。
他の持ち場も四苦八苦であった。
ただ最初に手に入れた拠点はカットを継続し、少ないながらもポイントを刻んでいく。
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■中盤
均衡が崩れたのは中盤、それは唐突にやってくる。
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「ごめん!敵上取られた!」
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敵拠点の上側、何とか守っていたものの中央の橋の激戦に阻まれ、相手に刻印を許してしまったのだ。
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この時点でのポイント差は立ったの420。
これでほぼイーブンとなってしまった。
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均衡していた拠点が取られた。
だがそれはどこかの戦力がそこに集中している証拠。
つまりはどこかが手薄になっているはず。
確信する。
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紛う事なく、それは我の持ち場だった。
刻を同じくして手薄になったラインを一気に押し上げる。
敵拠点が取られた直後。
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2つ目の拠点を確保することに成功。
序盤からのリードを維持する形と相なった。
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「大丈夫、今自軍上拠点取った!」
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一瞬の落胆からのこの報告。
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「ッシ!!!」
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という声にならないガッツポーズをしたときの、声にならぬ声がVCに響き渡る。
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明確な追い風を感じた。
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■激戦区
何度やられたことだろうか。
しかし一度取った拠点を早々に渡すわけには行かぬ。
戦車も連れてきてただひたすらに守ることを意識した。
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激戦区は我のところだけではない。
他の拠点、特に中央拠点は聞いてるだけでも手に汗握る展開であった。
中央拠点は自軍リスポン地点から三番目に近い場所だ。
前半のリードを巻き返すパワーがある重要拠点。
VVIPの精鋭たちはそこで必死の攻防を繰り広げていた。
精鋭ですらカットが手一杯、むしろ押されているという報告がちらほらと耳に入ってくる。
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チームに我が一番貢献できる方法は、仲間を信じて初心貫徹の精神でこのリードを保つことだ。
まだ1拠点取られてもイーブン、このリード差は埋まることがない。
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カットがカットを呼び、カットが繰り返される。
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再び長い拮抗状態。
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動いたのは開始から10分。
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力及ばず、敵軍右の拠点を取られてしまう。
まだポイントは2000もない。
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だが流石のVVIP。
敵右拠点がもう危ないと報告を受けたと同時に切り替え、戦力を敵左拠点へシフト。
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同時とも言えるタイミングで拠点を奪還。
決して相手に流れを掴ませない動きを見せる。
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均衡と混乱の繰り返しは続く。
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再び拠点を奪還されて拠点数をイーブンに戻されるも、かなりの時間粘った。
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皆で繋いだバトンがその効果を具体的に見せ始めた。
かなりの差をつけてのイーブン。
これは逃げ切るしかない。
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熱い、楽しい。
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もっとやっていたいという熱狂を求める側面と、早く終わってくれという解放を求める側面が入り混じる感情。
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その間にも点数は差を広げていく。
徐々に敵軍の勢力が薄れていく自軍上。
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「追撃し過ぎないで!広がって守りに徹すように!」
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小隊に向けて檄を飛ばす。
ここでの油断が命取りになるのだ。
相手が少ないからといってそのまま追撃しても返り討ちで全滅、もしくは虚を突かれて刻印されたとなっては目も当てられぬ。
波が来ては抗い、去っては滞る。
敵が来ては追い払い、去っては持ち場へ戻る。
頭の中は冷静だった。
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我は一つのスポーツをイメージしていた。
これは卓球ではない。
そう。
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カバディだ。
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※Wikipediaより抜粋
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■決着
ただひたすらに守りに徹する、カットマンとしての役割をひたすらにこなす。
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後半戦に突入、ポイントは2倍差を指し示している。
ここに来て敵の集団がまとまって攻勢に出てくる。
一瞬にして自軍下の拠点を確保されてしまった。
だがここまでくるとポイント差での逃げが早い。
1拠点もない状態さえ作らねば良い。
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だが自軍下が確保されて、次に標的になるのは我の持ち場だ。
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「敵集団、自軍上に移動中!」
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味方からの報告が入る。
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「迎撃準備、広がって、横から来るぞ!」
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即座に陣形を整える号令をかける我。
ただし、その迎撃態勢は津波の前には無力だということを痛感させられる。
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前からの攻撃でいっぱいいっぱいだった小隊が、敵の主力大隊との挟撃に耐えることはできなかった。
開始直後に喰らったような猛攻撃。
大隊は拠点周りに無慈悲な死を振りまいていった。
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遅れた。
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報告が遅れてしまった。
自軍の拠点が緑色から朱色に裏返る。
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「自軍上、敵多数、取られた!」
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援軍をー
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そう叫ぼうとした矢先だった。
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上を守れないと踏んだVVIP、即座に自軍下拠点を取り返す。
いくらリードしているとはいえ、拠点が1つもない状態ではポイントは入らぬ。
相手からすると全ての拠点を潰さなければ勝ち目はない。
無理に守って全滅するよりも、しっかりと大局観を持った隊長、そして各場所に配置された小隊長が連携した結果なのだ。
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だがCastra、戦力を多少残した状態で再び主力が自軍下へ移動。
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壮絶なシーソーゲームが繰り広げられる。
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既に橋を超えることなどできぬ一方的な展開になりつつあった。
かろうじて中央は死守を保っているが、いつ落ちてもおかしくない状況。
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最後の意地を見せる時は、今。
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「自軍上、敵が薄くなった!確保優先!」
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このシーソーゲーム、途中で匙を投げた方が負ける。
一方が押されればもう一方を押し返すまで。
押し返すは自軍上、我の持ち場。
カット一点張りだった小隊がここぞとばかりに跳梁跋扈する。
しかしこの短い時間で阿吽の呼吸を見せる素晴らしい小隊だ。
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言わずともラインを上げ、相手を徐々に拠点から遠ざけていく。
相手の戦力を遠退けた、ドンピシャのタイミングで小隊の一人が刻印を開始。
前に出る面々。
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「行ける行ける!上行けるよ!行ける行ける行ける行ける行ける!」
「押して押して押して押して!!!」
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呼吸も忘れて鼓舞する我。
そう、もはやこれは
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カバディと化していた。
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※Wikipediaより抜粋
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苦戦一方、カット一択だった我が小隊、
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ここ一番でその力を発揮した瞬間であった。
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「おっしゃ!自軍上、拠点確保!」
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本来声出しは感情を抑えなくてはいけないものだが、高揚のあまりに理性より気持ちと声が前に出る。
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「っしゃこれええええ!」
「ナイス!」
「相手来るよ!守るよー!」
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サークル戦、正真正銘の総戦力戦。
正直厳しい戦いだと思っていた。
そして実際に厳しい戦いだった。
壮絶という言葉が相応しい。
ドラブラでCastraとの征服の地が一番楽しく熱かった。
こんな楽しいのは滅多にないと思った。
だがこの短期間でこんな経験をさせてもらえるとは思いもしなかった。
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大の大人がタブレットを持って叫んだり感情的になったり。
ゲームをしてない人には分かるまい、第三者から見たら気色悪いかもしれない。
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だがそれがいいのだ。
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ゲームに限らず、エンターテインメントというものは喜怒哀楽、その振れ幅が大きい程、楽しかったり、悲しかったり、そして熱かったりするものだ。
その針が今まさに激震の極みをみせている。
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感情任せの報告にも関わらず、全体は冷静だった。
相手の流れが画面に見えなくとも手に取るように分かる。
しかもそれは同じ手段でしかありえない。
既にその戦術は共有されており、どう対処するか、どう対応するかは皆が頭で理解していた。
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敵主力を受け流しながらカットに回って妨害をする自軍下。
VVIP主力による激戦の中央。
そして
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カバディの自軍上。
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※Wikipediaより抜粋
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そしてとうとう、決着の刻、来たる。
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VVIP、Castraとの総力戦を制す。
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■総括
まさか2回連続でこんな戦いに巻き込まれるとは思いもよらなんだ。
こんな熱い展開を見せてくれて本当に鳥肌の立つ思いであった。
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この場を借りて、Castraのメンバー全員に感謝と敬意を。
また是非、熱き戦いを。
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さて、こんな風に書いていたら既に6000文字近く書いていたのに気付く。
もはや総括と言いながら、総括するまでもなき熱さであった。
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あえて総括と言うならば、
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あまりの嬉しさにVCで会長遊大が思わず泣いていたことを挙げておくとしよう。
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大の大人が熱中できる、それがゲームであり、それがMMOだ。
このリアルでは到底感じることのできぬ一致団結を体験するためにやっていると言っても過言ではない。
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また熱い戦いができることを祈って、今回のCastra戦のブログを締め括るとする。
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以上。