『ラブライブ』成功のモデルケース
『ラブライブ』は、東京都千代田区にある「音ノ木坂学院」(おとのきざかがくいん)という女子高校の設定で、その生徒たちがアイドルとして活躍するという物語である。
当然ながらアニメの中でご当地、神田明神がその舞台として登場し、境内のシーン、急な「男坂」での練習シーンなど、ラブライバーにとっての「聖地」として崇められ、同時に神田明神側も、グッズ販売、集客、認知などのラブライブ的経済効果に加え、一般への認知強化と、ある意味でのお賽銭や御祈祷のへの誘導などもさかんに行われているように見える。
神田明神側にしてみれば、『ラブライブ』の制作側からオファーのあったときは懐疑的であったとしても、今となってはアニメなどのコンテンツの聖地としての影響力の大きさを改めて感じ、それを神田明神側もプラス効果として訴求を強めている感もある。
八百万の神様がゲームに?
神田明神のような認知度と歴史を持つ組み合わせのコラボ展開となると、その影響力は計り知れない。
古来、日本には八百万(やおよろず)の神様がいるといわれ、自然界に存在するものすべてには神が宿っているといわれている。人、土地それぞれの神様信仰があると言い換えてもいいだろう。そして、それぞれはその地域信仰に基づいた土着の部分があり、境内の敷地の大きさ云々で格式が決まるというものではない。
ゲーム的に考えれば、無限にキャラクター化できる可能性を秘めたおいしいテーマである反面、許諾対象がたくさんありすぎてどこから手を付けていいかわからないという事案でもある。
それぞれ擬人化はどこまで許されるのか……
先日、神社をテーマに乙女系の擬人化を図ったオンラインゲーム『社にほへと』が、サービス開始を待たずしてプロジェクトの閉鎖をすることが9月11日に発表された。
「擬人化」のノウハウやロジックは、DMMの得意とするところだっただけに残念な結果だ。
このところ、オンラインゲーム市場はレッドオーシャン化が進み、もはやブラックオーシャンという声もある中で、擬人化もやりつくした感もある。
個人的には神社の擬人化は、前段で挙げた神社とのコラボ企画を越えた新鮮味のあるコラボにチャレンジしている……という見方をしていたが、プロジェクトの顛末を調べると、残念ながらコラボや許諾を取るという以前のもので、登場する神社への名称の確認や許認可は進めていなかったという。
パブリッシャー側からすれば、正式に打診をしていたら「前例がないのでダメ」といわれる案件だったからとか、「まずはやってみてから反応を見よう」というスタンスだったのかも知れない。
逆の意味で考えれば、実際にすでにゲームとしてローンチ済みの擬人化コンテンツの中で、どれほどの作品が権利関係者に許諾を取得しているのかはグレーゾーンかつ、不可触な案件になるのかもしれない。
ちなみに今回は触れないが、過去にはそのような事例で問題になったケースもある。
『社にほへと』は何が問題だったのか
『社にほへと』は、DMM GAMESがパブリッシャーのコンテンツ(実際の開発会社は別と思われる)で、実在する神社を擬人化し、擬人化キャラクター「社巫女(しゃみこ)」が対戦するゲームだ。
事前登録の段階でおみくじにおいては「大吉」や「凶」などの運付けが行われていたことなどが懸念材料になったという。一番の問題は、さきほども挙げたとおり、本来、許諾確認を取るべき神社たちに対してアクションを起こしてなかっという点だろう。
PCゲームやスマホゲーム系には、導入しながらバグチェックを兼ねてコンテンツのブラッシュアップをしていくことも1つのあり方という選択肢としてあるが、実際のところは神社側と交渉を重ねていたのかもしれない。
ちなみに、3月中旬から始まった事前登録は1ヵ月で10万人に達したという発表もあったため、どこかのご当地というよりも、もっと広範な日本全体の神社をカバーできるというユーザー側の思惑もあっただろう。
「ウチの近所の神社も擬人化されるかも?」という淡い期待感というものである。そんなこと考えると事前登録も最終的な数字はもっと伸びたはずである。
失ったものは大きい?
『社にほへと』の総開発予算は、私個人の想像レベルに過ぎないが、3億円から5億円程度ではないかと考えている。起用している声優陣も豪華で、開発を請け負ったスタッフやクリエイターも過去に著名な作品に携った経歴を持つ。
それが導入を待たずしてクローズすることは、収支上大きなダメージであることは間違いない。同時に、権利関係のクリアなどの大人の事情はまったく関係なく、導入を待っていたファン候補者たちの期待に背いたことも失った信用として大きなものがある。
DMM GAMESでは、ブライブが開発したオンラインゲーム『カオスサーガ』において、スクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジー』に登場するキャラクターを丸パクリしたことで、著作権侵害と謝罪、そしてゲームサービスの終了を8月にアナウンスしたばかりだった。
『社にほへと』の最後の案内は、「正式サービスを行うためのクオリティーの確保と、お客さまへの安定的なサービスの提供に支障があると最終的に判断した」というものだ。
冒頭の『ラブライブ』のように、いい形で双方がメリットを享受できれば、このような展開は地域活性とコミュニティの醸成や産業活性にまで結びつけることができる事案だろう。
しかし、交渉の手間など面倒なことも多いと思う。パブリッシャー側、つまり供給する側がその部分の労苦を担うことでしか、それは解決しないし、実現はしない。
今回の『社にほへと』の頓挫と失敗の顛末は、ユーザー側にとっては「またか」程度の軽い反応で終わればいいが、パブリッシャー側においては、これらを反省材料として、エンタテインメントの環境が厳しい中での新しいチャレンジを期待している。
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