[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第50回: 丸山茂雄に訊く……独特な世界観の消滅と均質化の時代を生きること

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11月前半に「テクノロジーとナレッジの均質化が生み出すコンテンツ」というコラムをこちらに書かせていただいた。もし、まだお読みいただけてなければ先にそちらを参照いただきたい。簡単に言えば、技術が進化し、知識が平準化し、すべての人が平等にその恩恵を受けた場合は、生まれてくるコンテンツやプロダクツは均質化するというものだ。そして、日本は、東京オリンピックを迎える2020年にはその爛熟期を迎えると予測している。

コンテンツ界の巨人ともいえる丸さん

世間一般、そして個人的に「テクノロジーとナレッジの均質化」は歓迎すべきことであり、いいことだと思う。これからの少子高齢化社会においては、それらのテクノロジーに代表される自動化、AI化が促進されることになるだろう。

しかし、一方で先に述べたように世の必然としてのさまざまな均質化が生まれていると思う。だが、それは時代の中で逆行することはできないだろうし、その流れの中でどのように考え、生きて行くかを模索しなければならないだろう。

先日、20代後半から私が尊敬している丸山茂雄氏(愛称:丸さん)と久しぶりにお話をする機会を得た。

20代の私は、アポロン音楽工業というレコード会社に所属しており、そこでレコード店舗への営業を3年、本社でレコーディングディレクターを2年経験。その当時、丸さんはオリジナルコンフィデンス(現在はオリコン)という音楽業界専門の中でしか見ることのできない、輝くアイコンのような存在だった。ちなみに今も私の中で、その位置づけは変わっていない。

中でも記憶に鮮烈だったのは、オリジナルコンフィデンス年末年始の特別号において「来年の自社の展望」というテーマで各社の幹部がインタビューに答える特集があった。当時40歳代前半だったと思われる丸さんは、ソニー創業者の盛田昭夫さんを思わせる白髪が印象的で、当時のCBSソニーの来期戦略を語っていた。

ごぞんじのことだろうが、丸さんはエピック・ソニーの創始者であり、ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)取締役会長、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)代表取締役社長などを歴任したコンテンツ界の巨人と言ってもいい。

常にリアルを映し出す丸さんの言葉

お会いする前に、「昔の話はしないよ」と言われていたが、音楽産業の今の凋落ぶりとゲーム産業のこれからの展望を丸さんに人生の先輩として訊いてみたかった。

「時代は変わった。もちろんいい方向に変わったこともあるけど、全体的に言えばすべてがフラット化した。昔はいいバンドが地方にいても、東京に出てくるというのはけっこうな決断だった。

有名なところでは九州がそうだ。福岡の天神には『照和』っていうライブハウスがあって、チューリップ、甲斐バンド、THE MODS、海援隊などを輩出したところだよ。彼らが東京に出るというのはずいぶんと大きな決断だったと思うよ。そして、売れるためには東京に出なければいけなかった……。そういう時代だったんだよ。そうしなければ売れない、もしくは売れる可能性が低い。今みたいにインターネットの動画サイトなんてなかったからね」

確かにあの時代に動画配信サイトがあり、クリエイティビティが高ければ、地元で有名なスターということでクチコミが拡がり、地域のスターとしてもじゅうぶんに活躍ができたことだろう。そして機が熟せば東京でメジャーデビューというスタイルが成り立ったことだろう。

「でも今はさ、東京から博多なんて飛行機で2時間くらいだろ。

そりゃ、いつでも行き来できるよな。でも、情報が遮断されていた時代だから生まれるものがあるんだよ。その土地土地で行き来がなかったわけだよ。

せいぜいがんばっても、大阪から東京へ上京するくらいだったんだ。

でも、そういう独特な当時の状況や価値観が音楽や歌詞に反映されていて、それが共感を生んだわけだ。

だけど、90年代になると、そういう交通手段や環境的な障害がなくなってしまったんだよ。つまり、文化の違いを音楽とか歌詞で埋めることができなくなったと思う。それに伴って、『のし上がってやる』みたいな上昇志向も薄れたよね。つまり、均質化が日本の音楽も含めて産業も停滞期に入ったんじゃないかと思うんだ。情報の均質化は雑誌、テレビで、さらにはネットがそれを大きく促進したよね

今は、すべての人にチャンスが均等になり、情報は均質化したと思う。

どんな時代も個性化を叫ぶが、どの時代も自分はみんなと同じように群れたくないという人がいる。

生物学上の法則はわからないけど、人口の中で一定の割合はいるよね。どこから出るかはわからないけど、いるよね。そういう人たちが新しいものを作るというのは今もあるんじゃないかな」

音楽市場は、私が新卒として入社したときと市場環境や産業構造は変わって来なかった。

変わらないからこそ、そこに新しい可能性をアップルは見出したのだろう。ゲームも産業構造やゲームの基本的なセオリーは変わらなかったが、スマートフォンというデバイスがゲームに関わるライフスタイルを大きく変えた。

均質、均一化は歓迎すべきことだろう。誰しも可能性を否定されることなくチャレンジができる環境を作り出した。いい事例は、美術系の大学生が1人で作った斬新なインディーズゲームコンテンツが世界で数多くダウンロードされるという現実も私たちは目にした。

そして、クリエイティブという側面で考えれば、時代が提供する均質や均一化に安住することは避けなければならないだろう。

「今の日本の経営者は自分たちの世代さえよければいいと思っているし、『逃げ切れる』と思っている人たちばかりなんだと思うよ。次の世代のことなんか考えてないよね」

丸さんの言葉は常にリアルを映し出している。

日本と世界の距離も大きく縮まった。総じて均質と均一化を避けて通れない時代になった今こそ新しいモノゴトへの挑戦を怠ってはならない。