『ペンタゴン・ペーパー/最高機密文書』
ストーリー
ときは1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省は、ベトナム戦争について客観的に調査し、それらを分析する文書を作成していた。
その最高機密文書には戦況の悪化が克明に記されていたが、政府内で隠ぺいされていた。それによって戦争の長期化に拍車がかかり、多くの若者が遠く離れた戦地に送り込まれ、汚泥と硝煙にまみれ命を落としていった。
隠ぺいされていた最高機密文書が流失し、ニューヨーク・タイムズがスクープするが、政府は国家の危機を招くとして差し止めを訴える。そして、その書類は地方紙に過ぎなかったワシントン・ポストに持ち込まれる。政府からのプレッシャー、経営陣を取り巻く不安、果たして正義と真実の声は国民に届くのか……。
スピルバーグは「今、撮るべき作品」として、トランプ大統領就任45日後に本作の製作を発表し、予定していた「他の作品」よりも先に撮影を敢行。政府によってジャーナリズムに規制がかけられ、何が真実で、何が正しいのかがわからなくなってきている現代に、「今」だからこそ伝えるべき作品として、強烈なメッセージを込め、この危機的状況に警鐘を鳴らす作品として取り組んだという。
スピルバーグ監督の新作映画『レディ・プレイヤー1』
根拠はないが、『ペンタゴン・ペーパー/最高機密文書』の制作エピソードに中にある「他の作品」よりも先に撮影を敢行という、「他の作品」は『レディ・プレイヤー1』ではないだろうか。
『レディ・プレイヤー1』の原作は、アーネスト・クライン著作による『ゲームウォーズ』で、日本ではSBクリエイティブから、2014年に上下巻で出版されている。しかし、発売当時はまったく話題にならず、出版企画担当者は社内的には厳しい立場になったと聞いている。
ゲームなのか、アニメなのか、バーチャルリアリティなのか……。実際に小説を読んでみないと、その面白さは伝わりにくかったろう。さらには、これだけあらゆるコンテンツ関係のキャラクターを小説中に取り込んだ作品を映像化ができるとは、誰も想像しなかったのかもしれない。
『ATARI GAME OVER』が製作脚本のキッカケ
『ゲームウォーズ』原作者のアーネスト・クラインは、ゲーム、アニメ、などのコンテンツへの愛情と知見がハンパない。『レディ・プレイヤー1』映画化にあたっては、アタリ崩壊の引き金になったといわれているゲームソフト『E.T.』発掘のドキュメント映画『ATARI GAME OVER』(アタリ ゲームオーバー)製作プロデューサーで監督のザック・ペンが、撮影の際にアーネスト・クラインを取材したのがキッカケだという。
『ATARI GAME OVER』の日本版は私が権利を購入して発売した作品。ぜひこの機会に観ていただければ幸いだ。
余談になるが、『ATARI GAME OVER』の中でアーネスト・クラインは自身が保有するデロリアンに乗り、ニューメキシコにある『E.T.』のゲームソフトが地中深く埋められている最終処分場に登場し、『E.T.』発掘に立ち会うシーンも収録されている。
VRゲームワールドに隠された秘密のアイテムを探せ
『レディ・プレイヤー1』の物語は2045年、オハイオ州コロンバス。トレーラーを積み上げた集合住宅「スタック」に住むウェイド・オーウェン・ワッツの日常は、ジェームス・ハリデーの創り上げたVRワールド「オアシス」とともにある。
ゲーム内リアルワールド「オアシス」には、すべてが存在する。
ウェイドの1日は、VRヘッドマウンドディスプレイ、VRグローブ、さらに本格的に体感するときはVRフルスーツを着込んで「オアシス」にダイブインする。このオアシスを巡る冒険が『レディ・プレイヤー1』である。
ウェイドを始めとして1人1人がオアシス内のプレイヤーとなり、その世界を体感する。いわばパーソナルなアバターとして「オアシス」の中で別人格を持ち、生活する。
しかし、「オアシス」の開発者ジェームス・ハリデーが死去し、ネット上に遺言が公開される。
「全世界へ告ぐ、私はこのVRワールド〈オアシス〉の創設者だ。遺言を発表する。〈オアシス〉に眠る3つの謎を説いた者に、全財産56兆円(2,400億ドル相当)と、この世界のすべてを授けよう」--ジェームス・ハリデー
いうなれば、ゲーム開発者が「自分の開発したゲーム内に秘密のアイテムを置いてきたので、プレイヤーのみんなでそれを探してね。それを見つけたらゲームの権利と会社をあげるよ」というものだ。秘密のアイテムを探すために必要なカギが3つ、そのすべてを手にしたものがすべての権利を手にすることができる。
当然ながら、純粋にゲームとしてその秘密のアイテムを探すプレイヤーと、手段を選ばずすべての権利を手に入れようとする悪のチート軍団のバトルがこの『レディ・プレイヤー1』の見どころである。
そして、それぞれが使うオアシス内にアバターこそが、日本が世界に誇るゲームキャラクター、アニメキャラクターである。一例を挙げればガンダム、メカゴジラ、『ストⅡ』のリュウ、春麗などのゲームキャラクターだ。
もちろん、日本だけではなく世界中(とは言っても、アメリカ系がほとんどだが)のキャラクターやバットモービルやバックトザフューチャー仕様のデロリアン、『AKIRA』の金田風バイクなどが登場する。
主人公ウェイドと、それを支えるオアシス内の仲間たち、そして悪のチート軍団に対抗する反乱軍との共同戦線などVRではない人と人のリアルのつながりもテーマとして描かれる。
ネタバレは避けておくが、やはりアーネスト・クラインのゲーム趣味を反映したクライマックスが用意されている。ゲームの中の「イースターエッグを探せ」……アタリのゲームに詳しい人ならば、すぐわかるかもしれない。そう、ゲームの中に開発者の名前を密かに隠した開発者とそのゲームがヒントだ。
余計なお世話かも知れないが、映画館では最後のロールテロップが終わるまで席を立たないでほしい。スマホを見るなんてもってのほか、そんなヤツは映画を観るなと……。最後のロールテロップにはアドバイザーには「マシ・オカ」もいるし、世界中の協力したコンテンツパブリッシャーのクレジットも観れるのだ(じっくり観るには、ちょっとスピードが速いけど)。
確実に実現するVRワールド
新作のファンタジー映画やエイリアンなどをテーマにした作品が公開されるたびに思うことだが、実はそれらのテーマは本当に真実で、しかしそのままニュースとして伝えると、世界中がパニックになるので、映画と言うメディアを通してソフトに伝えているのではないかと思うことがある。
例えば、スピルバーグ監督作品ならば『未知との遭遇』『E.T.』、さらには『宇宙戦争』など、もちろん、実際に宇宙人と接近遭遇があったとか、エイリアンがいたとか、襲来があったとかという戯言を言うつもりはないが、だがその中に真実が少し散りばめられているのではないだろうか。まあ、考え過ぎかもしれないけど……。
『レディ・プレイヤー1』で描かれたようなVRワールドは、おそらく数年後には実現するだろう。実際の生活や人生とは違う、もう1つのアバターとしての自分生活や人生を送ることができることになる。
すでに「オンラインゲーム」内で知り合って結婚したなんて話もある。ネットの中、ゲームのコミュニティの中にこそ、友だちがいるという読者の方もいるかもしれない。
とはいえ、映画のラストでは、やはり現実社会における友情や信頼が物語の重要なポイント、アバターを脱ぎ捨て年齢性別、人種を越えてともに苦難を乗り越えることになる。
さて、読者諸君Are you ready? Ready Player 1。
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