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モバイル向けインタラクティブストーリーを産んだピクセルベリーの過去と野望【NDC18】

2017年にネクソンのグループ会社となったPixelberry Studios(以下、ピクセルベリー)。NDC18では、同社のCEOであるオリバー・ミャオ氏によるセッションの取材、およびインタビューをすることができたので、その模様をお届けしよう。

波乱万丈なピクセルベリーの生い立ち

『Choices: Stories You Play』(以下、Choices)とは、2016年にリリースされたモバイル向けインタラクティブストーリージャンルと呼ばれるジャンルのゲーム。あまり聞き覚えのないジャンルと感じるかもしれないが、ビジュアルノベルのようなゲーム性と言えばイメージしやすいだろう。

この手のジャンルのゲームでは、西洋圏でトップクラスの地位を確立しており、アメリカのセールスランキングで上位25位以内に入ることもある人気作だ。

ロマンスやアドベンチャーなど、さまざまなジャンルのストーリーから、ユーザーは好きなものを選んで読み進めていくことができる。若い女性がメインターゲットで、毎週新しいコンテンツを追加していることも特徴だ

ストーリーを進めていくと選択肢が現れ、選んだものによってストーリーが変化するという、まさに日本でもなじみ深いビジュアルノベルに近いゲーム性だ。

基本プレイは無料だが、有料で選択できる特別な選択肢が存在し、ストーリーに魅力を感じているユーザーが課金をしているという。

「『Choices: Stories You Play』のポストモーテム」と題された本セッションでは、ピクセルベリーがChoicesをどのようにして生み出したのか、その過程でのチームの失敗や成功体験が語られた。

ピクセルベリー CEO オリバー・ミャオ

ミャオ氏がゲームビジネスの世界に足を踏み入れたのは18年前の2000年のこと。

出身校であるスタンフォード大学時代の友人とともに会社を立ち上げたのだが、思うようにいかずに事業をたたもうとしていたところ、携帯電話向けゲームの契約を獲得し事業を継続。

そして、2004年にChoicesのようなモバイル向けストーリージャンルゲーム『Surviving High School』の開発に乗り出し成功を収めることができたという。

その結果、当時の会社はヴィヴェンディ・ゲームズの傘下に入ることになったのだが、ヴィヴェンディ・ゲームズは2007年にアクティビジョンと合併。当時のアクティビジョンはモバイルゲームについては否定的な戦略をとっていたため、エレクトロニック・アーツに売却される。

エレクトロニック・アーツに売却された後は、iOS向けSurviving High Schoolの開発に着手。

その際、ミャオ氏は無料でストーリーを提供することを役員に提案したのだが、当時のモバイルゲームは有料タイトルがビジネス的に成功していたこともあり、その提案を受け入れてもらえなかったという。

見逃したストーリーを課金するモデルや、部分的に有料化するなど、いくつかのビジネスモデルを提案したがGOサインはもらえず、苦悩の末に思いついたのが、課金することで次の週に追加されるストーリーを先に楽しめるという仕組みだ。

役員との折衝を繰り返し、スタッフを解雇されてしまうなどの悲しい出来事も乗り越え、Surviving High Schoolをリリースして好成績を収めたのだが、その後、最終的にはすべてのスタッフが解雇されてしまう。

そこでミャオ氏が立ち上げたのが、ピクセルベリーというわけだ。

もともとはフィーチャーフォン向けタイトルであったものをスマホ向けに改良して、Surviving High Schoolはヒットを収める。しかし、エレクトロニック・アーツから絶対的な信頼を得ることはできなかったという

ピクセルベリーとして最初にリリースした『High School Story』はアメリカのセールスランキングで10位、その次にリリースした『Hollywood U』は100位以内にランクインするなど、好成績を収めていき、2016年にChoicesをリリースした。

以上がChoicesをリリースするまでのヒストリーなのだが、ミャオ氏はなぜインタラクティブストーリージャンルにこだわっているのかという問いに対し、さまざまなメディアの要素を持ち合わせている点を挙げた。

本のように読み手の想像を掻き立て、ゲームのようにインタラクティブで、テレビ番組のように毎週新しいコンテンツを楽しめる、といった特徴を併せ持つ新しいエンターテインメントであると考えているのだ。

インタラクティブストーリーを新しいメディアのフォーマットとして確立することが、今後のミャオ氏の目標だという。

ピクセルベリーがネクソングループに入った理由は?

ピクセルベリーは、2017年にネクソングループに加わることになったのだが、北米でビジネス的に成功を収めていたこともあり、他の企業からもオファーがあったとのこと。

その中でネクソンに決めたのには、3つの理由があるとミャオ氏は語る。

1つ目は、ネクソンで働く人々が、頭が良くて強い意志を持っているということ。それでいて、この先何年も一緒に働きたい感じさせる人柄も感じたのだという。

ミャオ氏の野望である新しいメディアを作り上げるには、10年から20年はかかると試算しており、長く一緒に働けることは重要な条件となるようだ。

2つ目は、ネクソンが『メイプルストーリー』や『アラド戦記』などの長期運営タイトルをいくつも保持していることだ。長期的に売り上げを伸ばすためのノウハウをネクソンから学びたいとのこと。

そして、将来的にChoicesをアジアでリリースすることを見据えていることから、ネクソンがグローバルカンパニーであるという点が3つ目の理由であるという。

インタラクティブストーリー誕生秘話

インタラクティブストーリーを新しいメディアに育てることを目標としているミャオ氏だが、そもそもなぜこのジャンルのゲームを作ろうとしたのか、処女作であるSurviving High Schoolはどういったことから着想して開発されたのか聞いてみた。

2004年当時、北米においてモバイルゲームの競争が高まっていた頃、多額の投資を得た大きな企業に対抗するには、他とは違ったことをすべきだと考えた。

そこでミャオ氏が差別化のために出したアイデアは、ゲームの内容が人間であれば誰でも同じように感じられるユニバーサルな内容であること。つまりは、Surviving High Schoolのテーマである高校生活だ。

中学生以下であれば高校生への憧れ、すでに卒業した大人であれば、高校時代にやりたかったけどできなかったことが、ゲームの中で体験できるので、さまざまな人にとって興味深いテーマなのだという。

最初は高校生活をテーマにしたRPGを考えていたのだが、開発を進めるにつれ、高校生活の肝は戦いではなくストーリーであると気付き、インタラクティブストーリーゲーム『Surviving High School』が誕生。見事、成功を収め、現在もこのジャンルのゲームを作り続けているとのことだ。

残念ながら、ピクセルベリーのタイトルは、日本向けにはリリースされていないが、前述のとおり、将来的にはアジア市場へ進出することを目指しており、ネクソンのグループ企業となった理由の1つでもある。

日本はビジュアルノベルなどのアドベンチャーゲームが受け入れられてきた歴史があるだけに、今後の動向は注目しておきたいところだ。