連載タイトルについて
最初にこの連載のタイトルについて、話をさせてください。私のキャリアの中でゲームコンテンツやハードウェアとの関わりはすで四半世紀、25年を超えました。それはセガ(当時はセガ・エンタープライゼス)への転職がきっかけでした。
ゲーム、エンタメ産業としてのダイナミズムの魅力はそれまでに私が経験した音楽や映像産業をはるかに凌ぐもので、そのキャッシュフロー大きさや、トレンドの移り変わりは今も私を強く惹きつけます。そのカテゴリーの中、浮沈するコンテンツ、ハードウェア、さらにはそこに関わる企業体の盛衰も多く見てきました。
この流れの中で、その両方を俯瞰するスタンスとして浮かんだのは、数年前に見学することができた大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の国境線、つまり38度線です。この地帯は「非武装中立地帯(通称DMZ:demilitarized zone)」と呼ばれます。一見、平和を謳歌する首都ソウルから約90分、数十キロの地点には停戦状態にある2つ以上の国家の国境線が位置しています。私のコラムはその非武装地帯から双方のありかたを俯瞰するようなスタンスでみなさまにお届けできればと思い名づけました。よろしくお願いします。
2015年12月16日、そのニュースはネット上を駆け巡った
コナミデジタルエンタテインメント(以下、KDE)が有する「メタルギアソリッド」シリーズの開発者、小島秀夫監督が、株式会社ソニーコンピュータエンタテインメント(以下、SCE)とPlayStation4向けの「家庭用エンタテインメントシステム独占タイトル」として、自身が新たに設立した株式会社コジマプロダクション(以下、コジプロ)と契約したことを発表しました。
SCEのアンドリュー・ハウス社長自らがコメントを動画で発表し、そのシーンに小島氏を招き、コメントを述べてもらうという異例かつ最大限の歓迎の内容でした。このところSCEは、鈴木裕氏がKickStarterで立ち上げたクラウドファンディングの『シェンムーⅢ』へのバックアップ表明など、チャンレンジャブルな姿勢が頼もしい限りです。
この発表に至るまでに約半年ほどメディアを巻き込んでの情報が入り乱れました。声優の大塚明夫さんの「コジプロは解散させられてしまった」ツイート、コジプロ統合情報、初秋からの「メタルギアソリッドV ファントムペイン」のプロモーション活動、年末の「THE GAME AWARDS 2015」への小島氏の未参加が話題になってきました。
今回のコジプロ設立は小島氏にも、SCEにも、さらにはゲームファンにとっても大きなよろこびをもたらす結果になったのではないでしょうか。小島氏としても良くも悪くもKDEに背中を押されての起業となり、遅かれ早かれこのような形に収斂(しゅうれん)することだったのではないでしょうか。
さて、今回の小島氏の独立にはゲームというコンテンツへの想い入れがあったことは否定できません。小島氏もKDE在任時は経営陣の1人ですので、その点をじゅうぶんに鑑みた上でのことですが、企業である以上、収益を大きく上げることを前提にしています。
小島氏は自身が立ち上げた「メタル」シリーズでKDEに貢献し、それとともに「メタル」シリーズは大きなブランドコンテンツに育ちました。その新しい「わが子」を生み出すために多くの開発スタッフと開発資金を投入したことでしょう。
一方で、ガラケーベースで立ち上がったソーシャル系ゲームの隆盛を忘れてはいけません。
それはゲーム、エンタメというよりも、射幸心を煽る遊戯系のコンテンツスタンスで、その仕組みはゲームではなくシステムと呼ぶにふさわしいものだったのかもしれません。ちょうど私がKDEに在籍したときのことですが、2010年9月に導入、ヒットした『ドラゴンコレクション』がそれに当たります。数千万円程度の開発投資資金で、月次で数億から数十億円のリターンを生むそのシステムは、経営中枢にとっては大きな魅力でしょう。
当時、KDEは自社でオンラインゲームおよび携帯系ゲームポータルを開発することに注力をしていましたが、週次ベースの会議でも遅々として進展が得られないままでした。その状況の中、自社コンテンツとして「釣り★スタ」しかなかったグリー株式会社(以下、グリー)は、大手ゲームパブリッシャーからのコンテンツが喉から手が出るほどほしかったこともあり、KDEと提携を結びました。さらに、2010年6月に東証一部に鞍替えしたばかりのグリーマネーを使いテレビコマーシャルで訴求したことも絶大な効果を生み出しました。
現在はすでに、それらのソーシャル系ゲームは篩(ふる)いにかけられ、スーパーリッチなスマホベースのゲームにまで成長しました。しかし、それらは小島氏の考えるゲーム、エンタメとは大きく異なったということに他なりません。
KDEとしては投資対効果の実績を鑑みても、小島氏やそれ以前に退職をしていった優秀なクリエイターたちではなく、そのシステムをうまく構築して、それを運用できる「組織」と「システム」を会社として選択したということになります。
それらの時代の流れの中で、重厚長大とも取れる小島氏とその制作開発コンセプトは会社側にとってのプライオリティが変わったということに違いありません。すでに、ゲームがこの世に生まれて40年が経過しました。アップルやグーグルのポータルとしての勃興もこの数年のことです。おそらく、この先もバーチャルリアリティー技術、ハードウェア、クラウドテクノロジーなどゲームやスマートフォンなどのコンテンツを取り巻く環境は変わり続けることでしょう。
今回のコジプロとSCEとの発表も、PlayStation4向けの「家庭用エンタテインメントシステム独占タイトル」とのことなので、PlayStationVRでの展開も含んだものと思われます。
「まだだ……まだ終わっていない!」 小島氏の決断と、昨年の発表に至る調整と苦労をさらに進化したコンテンツという形で見られる日を心待ちにしたいと思います。