サービスとしてのWindowsが始動
2015年7月29日、マイクロソフトのパソコン向けOS「Windows」の最新版「Windows 10」が公開された。Windowsといえば、1995年に発売された「Windows 95」以降、発売日に深夜販売のイベントが催されたり、パソコンの買い換え特需を生み出すなど、さまざまな話題を振りまいてきた。近年はパソコンのコモディティ化が進み、発売日のお祭り騒ぎは自作PCユーザーなど、一部に限られるものとなり、社会的にも発売日が騒がれることは少なくなっている。スマートフォン全盛となった現状を鑑みると、もはや「Windows」は仕事のツールの1つでしかなく、普段の生活にはそれほど大きな影響を及ぼさないと考える人もいるだろう。しかし、今回のWindows 10はこれからのスマートフォンやモバイル環境を大きく変えるきっかけになるかもしれない。
まず、今回のWindows 10はこれまでのWindowsと提供方法を含め、まったく異なっている。従来のWindowsは発売日にパッケージが店頭に並び、DVDなどのメディアからインストールする形を取ってきた。これに対し、今回のWindows 10では2015年7月29日から1年間限定で、Windows 7/8/8.1が動作するパソコンに対し、無償でアップグレードを提供する。しかも、Windows Updateと同じように、インターネットからダウンロードする形でアップグレードする。DSP版と呼ばれるPCパーツにバンドルするパッケージも販売されるが、基本的には既存のWindows 7/8/8.1が動作するパソコンをアップグレードし、店頭に並ぶパソコンもWindows 10がインストールされたものに順次、置き換わっていく。
マイクロソフトはこれまでパソコンなどにインストールされるWindowsのライセンス数で売り上げを立てるビジネスを展開してきたが、今回は期間限定ではあるものの、『無償』でアップグレードできるようにしている。マイクロソフトのビジネスの在り方を根底から覆すような取り組みだが、実は同社は「Windows as a Service」を掲げ、Windowsを単なるOSという製品ではなく、サービスとしてのWindowsに変えていこうとしており、今回のWindows 10はまさにその第一歩に位置付けられている。Windowsのライセンス数を稼ぐことに注力するのではなく、サービスとしてのWindowsをはじめ、Office 365やOneDriveなどのサービスでビジネスを組み立てていこうというわけだ。
ユニバーサルアプリとContinuum機能
実際の製品としてのWindows 10としては、Windows 7以前で支持されていたスタートメニューが復活する一方、よりセキュリティなどを強化したブラウザ「Microsoft Edge」を搭載するなど、これまでのWindowsの集大成をベースに、次世代へ向けた機能を構成する内容になっている。なかでも注目すべきはアプリの扱いだろう。
パソコンのWindowsには、いくつかのアプリのプラットフォームが存在する。たとえば、Windows 7以前から利用されていたアプリは「Win32アプリ」「Classic Windowsアプリ」などと呼ばれ、今回のWindows 10では「Windowsデスクトップアプリ」として扱われている。Windows 8/8.1ではこれに代わり、スタート画面で利用する「Windowsストアアプリ」が登場し、パソコンだけでなく、タブレットでも利用できるタッチパネル対応のユーザーインターフェイスが採用されていた。
これらに対し、新たにWindows 10で採用されたのが「ユニバーサルアプリ」だ。このユニバーサルアプリはパソコンだけでなく、タブレットでも同じように利用でき、今秋にも登場するスマートフォン向けプラットフォーム「Windows 10 Mobile」をはじめ、ヘッドマウント型ディスプレイ「Microsoft HoloLenz」など、他のWindows 10プラットフォームでもそのまま動作させることが可能だ。これまでマイクロソフトはスマートフォン向けに「Windows Phone」を提供してきたが、対応アプリが増えず、iOSやAndroidプラットフォームに遅れを取ってきたが、Windows 10向けにユニバーサルアプリが順調に増えていけば、Windows 10 Mobileが動作するスマートフォンでも同じように、数多くのアプリが利用できるようになるわけだ。
とは言うものの、すでにiOSやAndroidプラットフォームには数多くのアプリが提供されているため、開発者がそれらをWindows向けにユニバーサルアプリとして移植してくれない限り、Windows 10 Mobileのアプリ環境は改善されない。そこで、マイクロソフトは開発者向けに、iOSやAndroidプラットフォーム向けのアプリをわずかな修正で簡単に移植できる開発環境を提供している。移植したアプリはWindowsプラットフォームの「ストア」を通じて公開することができ、海外ではすでにいくつかの人気ゲームが移植されているという。すべてのiOSアプリとAndroidアプリが動作するわけではないが、開発者にとってはかなり移植しやすい環境が整ったといえそうだ。
そして、Windows 10で新たに搭載された「Continuum」という機能を組み合わせると、ユーザーにとっても魅力的な環境を実現することが可能だ。ContinuumはWindows 10がインストールされたデバイスに、モニターやキーボード、マウスなどを接続すると、それぞれに適したモードに切り替わるという機能で、最も身近なところで例を挙げると、Surfaceシリーズのような2 in 1スタイルのパソコンでは、キーボードを接続すれば、デスクトップモードで動作し、キーボードを外せば、スタート画面を利用したタブレットモードに切り替わる。
これをWindows 10 Mobileの環境に当てはめると、Windows 10 Mobileがインストールされたスマートフォンにディスプレイやキーボードを接続すれば、Windows 10が動作するパソコンとほぼ同じような環境を実現できることになる。これまで、ビジネスシーンでは外出時にも仕事ができるように、パソコンを持ち歩くことが当たり前だったが、ユニバーサルアプリが充実し、Continuumを使えるようになれば、Windows 10 Mobileが動作するスマートフォンで、さまざまな業務をこなせるようになるわけだ。
Window 10 Mobileの展望
大きなポテンシャルを持つWindows 10の環境だが、最終的にカギを握るのはデバイス、つまり、スマートフォンそのものだ。国内では残念ながら、auが2011年に発売した「Windows Phone IS12T」以降、Windows Phoneの新モデルが途絶えており、マイクロソフトがNOKIAから買収した「Lumia」シリーズが選べる海外市場と違い、Windows Phoneがほぼ存在しない状況が続いていた。
そんな中、ようやく2015年6月にマウスコンピューターからWindows Phone 8.1 Updateを搭載した「MADOSMA Q501」という新機種が発売され、注目を集めている。Androidスマートフォンのようなおサイフケータイやワンセグといった機能は搭載されていないが、SIMロックフリーでLTEネットワークに対応しており、主要MVNO各社の設定も登録済みの状態で出荷されている。販売も好調なすべり出しを見せており、Windows 10 Mobile公開時にアップグレードできることが明らかにされている。
また、FREETELブランドでスマートフォンや通信サービスを展開するプラスワン・マーケティングは、Windows 10 Mobileを搭載した「KATANA 01」と「KATANA 02」という2モデルを2015年6月に発表しており、Windows 10 Mobileの正式リリースを待って、販売を開始する予定だ。この他にもWindowsパソコンを販売するメーカーを中心に、数社がWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの開発を検討していると言われている。Windows 10 Mobile搭載スマートフォンについては、法人向けの需要が高いとされるが、Windows 10の普及と共に、アプリやサービスの環境が充実してくれば、Windows 10 Mobileは個人ユーザーにとっても魅力的なプラットフォームになってくるかもしれない。
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