新しいモバイルのカタチ
2015年の市場全体の動向としては、国内でスマートフォンの普及が50%を超え、モバイル業界全体で見ても完全にスマートフォンが主役の時代に入ったといえるだろう。これは単純に普及台数が多いというだけでなく、普段の生活の中で見かけるサービスの多くもスマートフォンを前提にしたものが増えており、人々の生活にしっかりと浸透してきたという印象だ。
ただ、その一方で従来型の携帯電話、フィーチャーフォンの置かれる状況の厳しさが浮彫りになってきた。「今さら、ガラケーなんて……」と考えるかもしれないが、スマートフォンが50%超まで普及したとはいえ、残りの50%弱はフィーチャーフォンを持っているわけで、この人たちが今後、スマートフォンに緩やかに移行していくとしてもすべての人が移行するとは考えにくく、おそらく数十%はフィーチャーフォンが残ると見られている。
ところが、昨年あたりからフィーチャーフォンを構成する部品の調達やソフトウェアの保守などが難しくなり、コンテンツプロバイダもスマートフォンへシフトしたため、フィーチャーフォンの存続が難しい状況になりつつある。
こうした状況に対応するため、2015年に各携帯電話会社はAndroidプラットフォームをベースにしたフィーチャーフォンを開発し、市場に送り出してきた。auが1月に発表した「AQUOS K SHF31」がその代表格だが、Androidプラットフォームを採用しながら、スマートフォンのようなバックグラウンド通信を抑え、アプリも自由に追加できないようにするなど、フィーチャーフォンしか使ったことがないユーザーでも安心して使えるようにしつつ、4G LTEやWi-Fiに対応するなど、実用的な機能も充実させている。
その後、NTTドコモやソフトバンク、ワイモバイルもAndroidプラットフォームを採用したフィーチャーフォンを発表している。フィーチャーフォン復権を報じるメディアもあるが、旧来のフィーチャーフォンはほぼ終焉を迎えつつあり、今後はこうしたAndroidベースのフィーチャーフォンがニーズを支えることになり、新しいモバイルの市場を形成することになりそうだ。
ハイスペック指向から実用性指向へ
2015年も各社からさまざまなスマートフォンが登場し、市場をにぎわせた。技術的な新機能はHuawei Mate S(グローバル版)やiPhone 6s/6s Plusなどに採用された圧力センサー内蔵ディスプレイ(感圧対応ディスプレイ)などが挙げられるが、それ以外ではこれまでの機能をバージョンアップするのみで、あまり斬新な機能はなかったという印象だ。
ただ、これまでにも搭載されながら、今年採用例が増え、2016年以降は標準的な機能として定着しそうなのが、指紋認証センサーをはじめとする生体認証だ。指紋認証センサーはiPhone 5sや富士通製端末などで採用され、国内ではおなじみの機能だが、2015年はNTTドコモが富士通製「ARROWS NX F-04G」で世界初の虹彩認証を搭載したり、グローバル向けに発表された海外メーカーのモデルで指紋センサーや眼球認証などを採用するモデルが増えてきている。これに加え、NTTドコモはGoogleやクアルコムなどが参加する業界団体「FIDO Alliance」の標準規格を採用し、最新機種では生体認証でMy docomoへログインしたり、決済サービスのケータイ払いに対応させている。今後、スマートフォンがさまざまなサービスと連携していくうえで、こうした個人認証は欠かせないものになると見られており、その意味でも生体認証は今後、必須機能として各機種に搭載されていくことになりそうだ。
端末そのもののスペックについては、ある程度、完成の域に達したといわれているが、今年はチップセット(CPU)で、いろいろな議論が巻き起こった年でもあった。スマートフォンのチップセットではクアルコムが圧倒的なシェアを持ち、各社とも最新のチップを最新のハイエンドモデルに搭載してきたが、各社の2015年夏モデルに採用されたクアルコム製SnapDragon 810 MSM8994は高負荷時に発熱が多くなることが話題になった。元々、チップセットが高負荷時に熱くなるのは当たり前のことだが、機種によって、チップセットの実装が異なるため、他機種よりも発熱が顕著になるモデルがあり、それが人気機種だったこともあり、ネット上でもかなり話題になった。ちなみに、この騒動では同じチップセットを搭載しながら、安定志向で実装したメーカーもあり、端末メーカーの開発に対する考え方の違いも浮彫りになった格好だ。
こうした事情もあり、ユーザーの嗜好も少し変わりそうな気配が見えてきた。チップセットのパフォーマンスが向上することは望ましいが、今回の発熱のように、実用性に問題が起きることは誰もが好ましくないと考えている。特に、スマートフォンは他製品に比べ、利用する時間が長い上、電話というライフラインでもあるため、できることなら安定して、長時間利用できるモデルの方が望ましいと考えるユーザーが少しずつ増えてきた印象だ。かつてのパソコンのような「スペック至上主義」は一部のマニアに限られるようになり、実用性指向のユーザーが増えつつあるようだ。
チップセットと並んで、スマートフォンのスペックでもう1つ気になるのがディスプレイだ。対角サイズでは相変わらず、5インチ前後のコンパクトなモデルが好まれる傾向にあるが、シャープ製端末のEDGESTデザインやフレームレスデザインに代表されるように、各社とも狭額縁のモデルを開発しており、5.5インチ前後の大画面ディスプレイを搭載しつつ、ある程度、携帯性も考慮したモデルが登場し、着実に支持を拡げている。特に、ゲームや映像、電子書籍などのコンテンツを楽しむユーザーにとっては、気になる動向だろう。
ディスプレイの解像度については、主流がフルHDであることに変わりはないが、auのLGエレクトロニクス製「isai vivid LGV32」、NTTドコモとau、ソフトバンクのサムスン電子製「Galaxy S6 edge」、NTTドコモの富士通製「arrows NX F-02H」など、WQHD/QHDクラスのディスプレイを搭載するモデルも増えてきた。さらに、NTTドコモのソニーモバイル製「Xperia Z5 Premium」のように、4K相当の解像度を実現するディスプレイを搭載したモデルも登場した。高解像度になり、文字や映像が美しく表示できることは非常に魅力的だが、まだコンテンツがじゅうぶんにそろっていない状況である上、高解像度化は電力消費も大きくなってしまうため、WQHD/QHD以上のディスプレイを搭載したモデルはハイエンドモデルの一部の機種に限られている。今後、電力消費と対応コンテンツの課題が解消されてくれば、ハイエンドモデルはWQHD/QHD以上のディスプレイが主力になるかもしれない。逆に、HD対応ディスプレイはフルHD対応のコンテンツが増えてきていることを考慮すると少し厳しい状況で、今後はエントリーモデルを中心に展開されることになるかもしれない。
またしても官製不況?
さて、今年のモバイル業界を振り返る上で、どうしても避けられないのが前回も取り上げた「携帯電話料金タスクフォース」だろう。12月16日には総務省で指針が示され、「月額5,000円を切るプランの導入」「MNPや機種変更時の多額のキャッシュバック」などを解消する方向性が示された。各携帯電話会社からはまだ何もアナウンスされていないため、ユーザーとしては今後の動向を見守るしかないが、2016年以降は端末購入時の負担が増えることは必至で、状況によってはまたしても「官製不況」を招いてしまうかもしれない。総務省としてはライトユーザーに配慮したとしているが、徐々に市場に認知されてきたMVNO各社の影響も大きいと予想されており、今後のモバイル業界を大きく左右する動向になるかもしれない。