【法林岳之のFall in place】第14回: きちんと理解しておきたいMVNOのカラクリ

ここ1~2年、急速に増えてきたMVNO。携帯電話事業者のネットワークを借りながら、割安な料金で音声通話やデータ通信のサービスを提供し、着実に支持を拡げている。昨年の総務省の携帯電話料金タスクフォースでもMVNOが取り上げられ、今まで以上に注目を集めている。しかし、MVNOについてはまだまだ理解されていない部分も多く、利用も一部のユーザーに限られているのが実状だ。今回はなぜ割安な料金でサービスが提供できるのかなど、MVNOのカラクリについて、説明しよう。

携帯電話会社のネットワークを借りるMVNO

改めて説明するまでもないが、MVNOは「Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)」の略だ。何が『仮想』なのかというと、自らは携帯電話サービスのための設備を持たず、既存のNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク(ワイモバイルを含む)の3社から回線を借り受けて、音声通話やデータ通信のサービスを提供しているためだ。ちなみに、回線設備を持つ既存の携帯電話事業者は、MVNOと対比する形で、「MNO(Mobile Network Operator)」とも呼ばれる。

こうしたMVNOはつい最近、始まったものではなく、これまでもさまざまな形でサービスが提供されてきた。たとえば、携帯電話ネットワークとGPSの位置情報サービスを利用した「ココセコム」(セコム)、遠隔地に暮らす家族に利用状況を知らせて安否を確認する電気ポット「みまもりホットライン」(象印マホービン)、通信機能を利用して、常に最新の地図情報や従来情報を知らせるカーナビ「エアーナビ」(パイオニア)などが知られている。当初のMVNOサービスはこうした専用端末などを利用した特定用途向けのものが中心だった。

また、2007年に携帯電話事業に新規参入したイー・モバイル(現在のワイモバイル)、2009年にWiMAXサービスを開始したUQコミュニケーションズは、いずれもモバイルデータ通信サービスを自社ブランドで提供しながら、大手ISPや家電量販店などとも提携し、他の企業のブランドでも積極的にサービスを展開してきた。これも一種のMVNOサービスだが、端末もサービス内容も基本的には回線を持つ通信事業者と同じものが使われており、モバイルデータ通信サービスのOEMのような形で提供されてきた。

これらに対し、現在、市場で拡大しつつあるのが「格安スマホ」「格安SIM」などと呼ばれるMVNOだ。ここ数年、増えてきたMVNOサービスは、前述の専用サービス向けやOEM的なMVNOサービスと違い、各携帯電話事業者から携帯電話ネットワークの設備(帯域)を借り受け、それを一般ユーザーや企業ユーザーなどに販売するという形を採っている。提供するサービス内容も音声サービスやデータ通信サービスがあり、端末もMVNO各社が独自に調達したものを販売したり、市場に流通するSIMフリー端末を利用できるようにしており、既存の携帯電話サービスからのMNPも受け付けている。つまり、これまで利用してきたスマートフォンや携帯電話をそのまま置き換える形のMVNOサービスとして、提供されているわけだ。

帯域の扱い方はMVNOの腕の見せどころ

ここ1~2年で急速に増えてきたMVNOサービスだが、各社の料金体系やサービス内容を見てみると、少しずつ違いがある。たとえば、あるMVNOは通信速度やデータ通信量を制限しているのに、別のMVNOはデータ通信量が無制限だったり、通信速度も端末とネットワークの最大値が得られることを謳い文句にしている例もある。どうして、こういう違いが生まれてくるのだろうか。

MVNO各社は各携帯電話会社から設備を借りているが、この設備とは具体的に基地局などを個別に借りているということではなく、ネットワーク上で利用できる帯域のことを指す。周波数の話でも「帯域」という言葉は使うが、これとは別で、ネットワーク上で一定時間に送受信できるデータ通信量を意味している。ちょうど道路の幅のようなものだと考えれば、わかりやすいだろう。

たとえば、ISPなどがMVNOサービスを提供する場合、NTTドコモとMVNOの契約を結び、NTTドコモのネットワークと自社のISPとしてのネットワークを接続する。このとき、NTTドコモのネットワークとどれくらいの帯域で接続するのかによって、MVNOがNTTドコモに支払う料金が変わってくる。多くのユーザーが快適に使えるように、広い帯域を契約することもできるが、NTTドコモに支払う料金が増えるため、事業としての収益性は悪くなる。効率性を重視し、帯域を抑えて契約すれば、NTTドコモに支払う料金を節約できるが、多くのユーザーが使うと、相対的に通信速度は低下してしまう。

つまり、MVNO各社としてはNTTドコモと契約した帯域をいかに効率よく運用していくかが腕の見せどころになってくる。たとえば、あるMVNOは通信速度を制限することで、データ通信量の制限がないプランを提供したり、別のMVNOは1ヵ月に利用できるデータ通信量を料金プランで決めておく代わりに、普段の通信速度は制限しないといった設計にするわけだ。このコントロールがうまく機能しないと、利用が多い朝の通勤時間帯、昼休み前後、夕方の帰宅時間帯などに、一度に多くのユーザーが使い、一時的に帯域が不足して、データ通信が極端に遅くなってしまうといったことが起きる。毎月のデータ通信量の無制限を謳うMVNOもあるが、実際にMNOと同じように端末とネットワークの最大速度で利用できるわけではないのが実状だ。

ただ、すべてのユーザーが毎月、フルにデータ通信量を使い切るわけではないため、余ったデータ通信量を翌月にくり越せるようにしたり、同一名義で複数のSIMカードを発行し、シェアできるようなプランを提供するなど、料金プランでさまざまな工夫をすることで、ユーザーの多様なニーズに応えようとしている。

見落としがちな端末の対応周波数

各携帯電話会社のネットワークを借り受け、割安な料金プランでサービスを提供するMVNO各社だが、市場の反応を見ていると、「料金が安い=つながらない」といったイメージをもたれがちだ。前述のように、帯域が制限されているため、時間帯によって、データ通信の速度が低下することは考えられるが、エリアや電波の強さはどうなのだろうか。

昨年の総務省の携帯電話料金タスクフォースにおいて、ある有識者から「MNOからMVNOに乗り換えたら、MNOのときに使えていた地下鉄の駅で、スマートフォンが使えなくなった。MVNOのエリアを充実させていく必要がある」という主旨の発言があった。いかにもありそうな話だが、モバイル業界の関係者の間では「ちょっと的外れでは?」という指摘があった。

現在、各社が提供するMVNOサービスは、そのほとんどがNTTドコモのネットワークを利用しており、auのネットワークを利用するMVNOは数社、ソフトバンクのネットワークを利用するMVNOは数えるほどしか存在しない。つまり、MNOから格安SIMのMVNOに乗り換えても利用するネットワークはNTTドコモのままというケースが多い。この場合、基本的に利用できるエリアそのものに差はないはずなのだ。くり返しになるが、MVNOはMNOと同じ基地局、同じネットワークを利用しているため、電波の届く範囲はまったく同じだ。NTTドコモのネットワークを借り受けたMVNOであれば、NTTドコモと同じエリアで利用でき、電波の届き方も変わらない。

では、MNOとMVNOで、エリアや電波の届き方はまったく変わらないのかというと、実は違いがある。その1つが端末の仕様だ。MNOとMVNOで同じネットワーク、同じ端末を利用しているのであれば、基本的にはエリアも電波の強さも変わらない。しかし、MNOからMVNOに乗り換えたとき、SIMフリー端末を利用することが多く、SIMフリー端末が対応する周波数(Band)が異なるため、エリアも電波の強さに違いが出てくることがある。

たとえば、NTTドコモが販売するXperia Z5 SO-01Hは、NTTドコモのネットワークの内、LTEのBand28(700MHz)、Band19(800MHz)、Band21(1.5GHz)、Band3(1.7GHz)、バンド1(2.0GHz)、3G(W-CDMA)のBand VI/XIX(800MHz)とBand I(2.0GHz)をサポートしている。これに対し、国内で販売されたあるSIMフリー端末は、NTTドコモのネットワークの内、LTEのBand3(1.7GHz)、バンド1(2.0GHz)、3GのBand VI/XIX(800MHz)とBand I(2.0GHz)をサポートしていたため、3Gでのつながり方はかわらないものの、LTEについては一部のエリアで圏外になるということが起きてしまった。

NTTドコモが販売するXperia Z5 SO-01H

こうした状況を踏まえ、最近ではMVNO各社が扱うSIMフリーのスマートフォンでは、NTTドコモのネットワークで快適に利用できるように、LTEのBand19(800MHz)を追加サポートするなどの調整をしている製品が増えている。ただし、調整された機種でもNTTドコモのネットワークのすべてに対応しているわけではなく、グローバル向けモデルをベースにしている機種の場合、ほぼ日本でしか利用されていないBand21(1.5GHz)などはサポートされないことが多い。

また、なかなか明確に数値で表わすことは難しいが、NTTドコモが販売する端末はいずれもNTTドコモのネットワークに正しく接続できるように最適化されているが、SIMフリー端末には国内の各携帯電話事業者のネットワークに接続できることを確認しているものの、必ずしも最適化されていないことがある。たとえば、実際の利用シーンでは移動中に基地局から基地局に切り替わるハンドオーバーに少し時間がかかったり、圏外からエリア内に復帰したときに接続までに若干のタイムラグが起きることもある。実用上、支障になるほどの違いではないが、まったく同じではないことを知っておくことも大切だ。

MVNOサービスは今後、さらに利用が拡大することが期待されているが、上手に活用するにはユーザー自身がその特徴や違いをきちんと理解しておくことも大切だ。