グローバルモデルと日本仕様モデル
かつて、日本の携帯電話市場は独自の進化を遂げた特殊性から「ガラパゴス」などと評されることもあったが、スマートフォンが普及して以降、世界中のメーカーが日本市場に参入し、今後もまだ多くのメーカーが参入を狙っていると言われる。
国内で販売される海外メーカーのスマートフォンは、大きく分けて2つのパターンで製品化されている。1つはグローバルモデルをほぼそのまま販売しているもの、もう1つはグローバルモデルをベースにワンセグやおサイフケータイなどの日本仕様を取り込んだモデルだ。前者の代表格と言えば、やはり、iPhoneで、最新のiPhone 6/6 PlusについてはSIMロックの有無や対応周波数などを除けば、基本仕様はほぼ共通となっている。この他にも、MVNOが盛り上がってきたことで急速に増えてきたオープンマーケット向けのSIMフリー端末も、グローバル向けや海外向けの製品をほぼそのまま日本市場に投入しているケースが多いようだ。とは言え、日本での利用に法的な問題がないように、技術基準適合認定を受けた状態で販売されている。
これに対し、グローバルモデルをベースにしながら、日本仕様を取り込んだり、日本独自モデルとして開発されたモデルも存在する。たとえば、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社が扱っている「Galaxy S6 edge」は、グローバルモデルをベースに、ワンセグやおサイフケータイなどの日本仕様を搭載している。ただ、Galaxyシリーズのように、全世界で販売されるモデルの場合、ひと口に「グローバルモデル」といっても国と地域によって、複数のモデルが存在し、実際にはその内の1つをベースに、日本向けモデルが開発されている。具体的には、韓国向けモデルがワンセグと同じようなデジタル放送チューナーを搭載していることもあり、日本向けはこれをベースに開発され、部品の共通化などが図られているようだ。台湾のHTCが日本向けに供給するモデルなどもグローバルモデルをベースにしながら、日本向けモデルが開発されている。
少し変わった例としては、LGエレクトロニクスがau向けに供給する「isai vivid LGV32」が挙げられる。このモデルは2015年4月、同社がグローバル向けに発表したフラッグシップモデル「LG G4」をベースに開発されているが、CPUやディスプレイなどのスペックこそ共通であるものの、外装などの仕様が大きく異なる。LG G4は背面カバーに革製を採用した個性的なデザインであるのに対し、isai vivid LGV32は従来のisai VL LGV31などのデザインを踏襲し、防水防じんにも対応するなど、ボディ周りはまったく別物のとなっている。グローバルモデルをベースにしているが、最終製品としては日本向けのまったくのオリジナルモデルを創り出すことに成功しているわけだ。auとしてはLGエレクトロニクスのグローバル向けのフラッグシップモデルをベースにしながら、auでしか買えないモデルを創り出すことができ、LGエレクトロニクスとしてもグローバルモデルとの基本部分の共通化により、製造コストを抑えつつ、auのラインアップに採用されることで、安定したビジネスが期待できるという目論見があるようだ。
市場の変化にともなって、投入されないフラッグシップも
こうした各メーカーや携帯電話各社の工夫によって、日本でもグローバルモデルとほぼ同じ製品が利用できる環境が作られてきたが、日本のスマートフォン市場の環境が変わってきたこともあり、ここに来て、グローバル向けのフラッグシップモデルであるにも関わらず、日本向けには投入されないということが起きている。
たとえば、2015年4月、Huaweiはロンドンでプレスイベントを開催し、同社のフラッグシップモデル「Huawei P8」を発表したが、残念ながら現時点で日本向けには販売されておらず、日本向けにはディスプレイのスペックなどを抑えた「Huawei P8lite」というモデルがMVNO事業者やオープンマーケット向けのSIMフリー端末として、供給されるに留まっている。価格が抑えられているというメリットはあるものの、スペックもミッドレンジのレベルに抑えられているため、物足りないという声も聞かれる。
また、2015年8月13日にはサムスンがニューヨークでイベントを開催し、同社のフラッグシップモデル「Galaxy Note 5」と「Galaxy S6 edge+」という2機種を発表したが、発表会場の説明員は「今のところ、両モデルとも日本市場向けには投入されない」とコメントしていた。Galaxy Noteシリーズと言えば、Sペンによる手書き入力と大画面ディスプレイにより、国内でも初代モデルから着実に人気を拡げ、2014年には秋冬モデルとして、NTTドコモとauから「GALAXY NOTE Edge」が発売されていたが、国内向けには当面、後継モデルが存在しない状況になりそうだ。
同時発表のGalaxy S6 edge+は現行機種のGalaxy S6 edgeよりもディスプレイをひと回り大きい5.7インチにしたモデルで、スペック的にはGalaxy Note 5の兄弟モデルのような構成で開発されている。昨年のGALAXY S5は国内で売れ行きが今ひとつだったといわれているが、2015年4月発売のGalaxy S6 edgeは前述のように、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社が揃って扱っていることもあり、売れ行きも順調だという。そのモデルよりもさらにワンランク上のフラッグシップモデルとなれば、ハイスペック指向の強い日本市場向きという捉え方もできそうだが、残念ながら今回は投入が見送られるようだ。
こうした状況が生まれてきた背景には、国内ではスマートフォンが市場の60%近くまで普及し、今後はよりエントリーに近いユーザー層を狙うか、既存ユーザーの買替え需要が中心となるため、ハイスペックモデルよりも普及価格帯のモデルが売れるとみられていることが挙げられる。同時に、日本の市場特性として、ハイスペックモデルは特定機種に人気が集まりやすく、バリエーションモデルを投入してもなかなか市場が拡大しにくいという観測もあるようだ。さらに、各社のフラッグシップモデルはハイスペック化や高機能化が進んだことで、全般的に価格が高くなり、円安の影響もあって製品によっては10万円を超えてしまい、ユーザーがなかなか手を出しにくいという声も多い。
今後もスマートフォンの普及や拡大は進むだろうが、端末のトレンドは必ずしもスペックやベンチマークテストの結果ばかりを追う状況ではなく、そろそろ流れが変わるタイミングに来ているのかもしれない。秋冬モデル以降の各社の動向が注目される。