CGとVRの世界にもっと変化を! 3人の業界人によるトークセッション
この対談のテーマは「CGとVRの現在と未来」。今年注目を集めているバーチャルリアリティ(VR)と、最新のCG技術がエンターテインメントの世界をどう変えていくかという討論が行われた。
CGとはいかなる研究分野なのか?
トークは、「そもそもコンピューターグラフィックスとはいかなる研究分野なのか?」という議題からスタート。
その歴史はまず、電気工学者・数学者のクロード・シャノン氏が「情報は圧縮できる」という事実を発見したとことから始まる。
同氏はアラン・チューリング氏やジョン・フォン・ノイマン氏らとともにコンピューター技術の基礎を作り上げた人物として知られている。
さらに、同氏の弟子であるアイヴァン・サザーランド氏が「インタラクティブコンピューター」と「ヘッドマウントディスプレイ」という2大発明を行い、現在の発展へとつながっている。
このあたりは、大学で西田氏の講義を受けているかのようだった。
なお、サザーランド氏の弟子として、マウスやマルチウィンドウ、オブジェクト指向を発明したアラン・ケイ氏、Pixarを創業したエド・キャトルム氏、Adobeを創業したジョン・ワーノック氏、シリコングラフィックスを創業したジム・クラーク氏などがいる。
橋本氏は、もともと人口知能の勉強をしていたが、1987年に当時のスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社したのを機にCGを扱うようになったとのこと。
プレイステーションで、ティラノサウルスが動くデモを作ったことが印象に残っているそうだ。
西田氏は大学3年生のときに、広島大学工学部で中前栄八郎教授の研究室の門をたたいたのがきっかけ。
当時はモニターがなく、プロッターと呼ばれるプリンターの一種で線を書いていたそうだ。
卒業論文を提出した際には「絵を描いて遊んでいるなんてけしからん!」といわれたというエピソードも。以来、45年以上にわたってCGを研究しているという。
樋口氏がCGを映画に取り入れたのは1991年くらいのこと。日本はフィルムからデジタルへ、再びフィルムへという工程を行うためのノウハウが立ち遅れていて、最初は「ペイントボックス」という機器で加工を行っていたと当時を振り返った。
ちなみにこのときの作品は、DVDなどのソフト化が行われていない幻の映画『ほしをつぐもの』。
主演のビートたけし氏がくしゃみをして、一瞬だけオオカミに変身するシーンでCGが使われたとのことだ。樋口氏は「このエピソードを話すのはこれが初めて」と語っていた。
「誰もやってくれなかったので、フォトショップ的なツールで1枚ずつCG加工した」と話す樋口氏。
「ガメラ」が火を吐くシーンや空を飛ぶシーンは、3DCGとのデジタルコンポジット合成なのだそうだ
「最近はCGを捨てようとしている?」と司会の清水氏に問われ、「特撮はホームグラウンドだけれど、それはそれ」と答える樋口氏。
『シン・ゴジラ』でもCGで表現しているシーンが多く、CGではできない部分、手間が掛かる部分は特撮で処理を行っているとのこと。
会場では『シン・ゴジラ』の映像も紹介された。
このPVが出来た段階ではCGパートにあまりOKが出ておらず、苦労したという樋口氏。「これって圧縮されたもの?」と、CGうんぬんよりも陰になった細部の色がつぶれてしまっていることが気になっている様子だった。
いわく「解像感はあるけれど、色が極端になっている」そうだ。
「今の映画製作でCGの制作期間は?」という問いには、樋口氏は「映画は生ものなので、公開までの期間が短い」と答え、非常にスケジュールが厳しいことを明かしてくれた。
ちなみに、樋口監督や山崎監督の場合は公開までの期間が8~10カ月。それでも長いといわれてしまうことがあり、最近ではインドの会社に外注するなどの分散化を進めているとのことだった。
制作期間の話から、今度は映画『ファイナルファンタジー』の話題に。
橋本氏によれば、スタジオの立ち上げから始めたので6年もの期間を費やしたそうだ。当時の制作スタジオはハワイにあったのだが、その理由は、ハリウッドのスタッフと日本のスタッフが協力するのに適していたからだとか。
車の運転ができない、英語ができないスタッフが多く、苦肉の策だったという。
CGの利用は映像だけに限らない!
橋本氏によれば、現実の映像データと作成したCGデータの重ね合わせが、これからのCGの課題になるという。
表現としてのCGのアウトプットは研究しつくされていて、リアルタイムでのすり合わせが求められていく傾向にある。
新しい技術が生まれれば、新しい映像が作られる。今までにできなかった面白いことができるのは、エンジニアとして快感を覚えると語っていた。
なお、『ファイナルファンタジーVII』の当時は、使えるメモリが2MBしかなく、それがいちばんのネックになって当初の構想よりも大幅にスケールダウンしたと苦労話を聞かせてくれた。
樋口氏は最近、CGならではの表現に興味を持っているという。
いわく「ぐるって1周して、自然でない映像が気になる。いかにもCGくさい、デジタルならではの映像に今は魅力を感じる」との弁。
以前、アニメ『戦闘メカ ザブングル』のプラモデルのCM映像を制作した際のエピソードを紹介し、「CGっぽいワイヤーフレームを特撮で試してみたが、アップになると針金だとわかってしまって失敗だった」と話した。
何でも、CG上のワイヤーフレームは奥も手前も線の太さが均一となっており、そこが現実の映像と大きく異なる点なのだそうだ。
「融通が利かなくて不自由だけれど、そこがCGのよさ。本物そっくりなら本物でいい。最近では惑星の軌道を計算してCGで表現している映像があって、太陽を追いかけて惑星がらせんを描いてい移動するところが印象的だった」と説明した。
これについて橋本氏は「ワイヤーフレームは、人間が見ても頭の中で情報をうまく処理できない不自然なもの。ポリゴンのほうがなじみやすいはず」と述べた。
面白いことに、西田氏が講義で生徒にワイヤーフレームの映像を見せると「物の向こう側が見える、すごく高度なCG」といわれることがあるそうだ。
西田氏はもともと数学が嫌いでCG研究の道を選んだが、「とんだ勘違いだった」。しかし。結果として、現在のCGは芸術の一部であり、自信がジャズバンドの経験があることから、感性がなじむと語ってくれた。
CGは映画やゲームに使われると同時に、科学分野の基礎を支えていると話す西田氏。大学の講義ではレオナルド・ダ・ビンチの話からスタートし、芸術と科学の両立が復活しつつあること、CGは科学の進歩における大事な要素であることを説明しているそうだ。
西田氏の研究室ではCGの応用として、ある形を指定するとレゴブロックの設計図を自動で作ってくれる研究も行われている。
その発展系として、コンピューターの計算に基づいてガラスを削り、光の屈折で影絵のような表現も実現できるようになっているという。これは、遠近両用メガネのレンズなどにも応用されている。
これには樋口氏が大いに興味を抱いたようで、「ちょっと後で詳しく教えてください」と話していた。新たな特撮技法のヒントになる可能性もあるのだろうか?
樋口氏は、スケールの違うミニチュア制作にはすでにCGの技術が活用されているといい、マテリアルやオブジェクトに向かってCGの技術が進歩していくかもしれないと語った。
現実の映像とCGを組み合わせるときには、レンズの違いがネックになると話す樋口氏。「今はごまかしごまかしで完成させているが、その部分も新たな技術でカバーしてほしい」と話していた。
橋本氏はこれについて、「技術的には難しくないが、非常に時間が掛かる」と語った。その問題を解決するには、NVIDIAの今後の研究の進展に期待が掛かってくるだろう。
VRの魅力は? ヘッドマウントディスプレイには問題も
話題はVR技術に移っていく。
Oculusをはじめとするヘッドマウントディスプレイやスマートフォンの普及によって、誰でもVRの世界を体験できるようになったことはとてもいいと話す西田氏。
CGはVRの一部と思われがちだが、逆にCGの宣伝をしてくれるいい道具だと考えているとのこと。
また、業務でVRを担当する橋本氏は「VRは頭の動きをインプットして映像を変えられるのが大きい。新しいインプットによって何ができるかを考えると、これまでにない可能性を感じる」と力説した。
樋口氏は「バーチャルボーイの時代から買っている(笑)」と話しつつ、当時から何も変わっていない部分があると述べた。
それば、ゴーグルのフチが汚れてしまうこと。このために敬遠する人も少なくないので、「もっとパーソナルなものにならないと、先に進めないとモンモンとしている」と話していた。
西田氏も、技術的にはあまり発展していないことを認め、「もっと変化がほしい」と不満を述べた。
しかし、橋本氏は「安く小さくなって、誰もが手に入れられるようになってきた。これからはマーケットが広がり、投資も喚起される」と、新たな可能性に期待を寄せていた。
橋本氏は「CGもまだまだやることがたくさんある。若い人にがんばって研究してもらいたい」と語り、最後の締めとした。
さら西田氏が続き、「CGの研究は飽和期でヒーローになることは難しい。しかし、それはほかの研究分野も同じ。楽しい人生を送るにはワクワクする分野、すなわちCGを研究するのがいい」と、にこやかにトークを締めくくった。
ニコニコ超会議2016 開催概要
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