着実に浸透してきた「格安スマホ」
ほんの数年前まで、国内では販売されているSIMフリースマートフォンは数えるほどしかなかったが、今や国内外のメーカーがMVNO各社などを通じて、各商戦期に合わせて最新モデルを投入し、家電量販店には各携帯電話会社のコーナーと並んで、SIMフリースマートフォンのコーナーが常設され、さまざまなメーカーのモデルを選ぶことができる。
そんなSIMフリースマートフォンの市場だが、ここに来て、少しずつ変化の兆しが見えてはじめている。
改めて説明するまでもないが、ここ数年、SIMフリースマートフォンが注目を集めたのは、MVNO各社がNTTドコモ、au、ソフトバンク(ワイモバイルを含む)という主要3携帯電話事業者(以下、主要3社)社よりも割安な料金で利用できる「格安スマホ」と呼ばれるサービスを提供したためだ。
料金プランはMVNO各社によって異なるが、最近の状況を見ると、主要3社で5分以内の国内通話が定額で利用できる料金プランに、3GBのデータ定額を組み合わせ、月々の利用料金が約5,000~6,000円になる。
これに対し、MVNO各社のプランは通話料こそ、30秒あたり20円の従量課金になるものの、3GB程度のデータ定額を含んだプランで、月額2,000円以下のものが主流となっている。
もっとも、MVNO各社を利用した場合、昼休みや夕方以降など、トラフィックが多い時間帯にデータ通信の速度が極端に遅くなってしまうことがある上、主要3社のように、全国に独自店舗を持たないため、サポート体制などにも違いがある。
それでも月々で3,000~4,000円程度の差額は大きいと考え、格安スマホに乗り換えるユーザーは着実に増えつつある。
主要3社モデルよりも割高な「格安スマホ」
通信速度やサポート体制に課題があるといわれているものの、MVNO各社のサービスはうまく割安感を演出できている。しかし、主要3社との比較で、明確に違いが見えているのが端末、つまり、SIMフリースマートフォンだ。
現在、MVNO各社は主要3社と同じように、国内外の端末メーカーからSIMフリースマートフォンを調達し、SIMカードと共に販売している。
NTTドコモのネットワークを借り受けているMVNOであれば、基本的にNTTドコモのスマートフォンがそのまま利用できるが、フィーチャーフォンからの乗り換えユーザーなども増えてきており、MVNO各社が扱うSIMフリースマートフォンの売れ行きも順調だという。
ただ、MVNO各社が扱うSIMフリースマートフォンは、主要3社が扱う国内外メーカーのスマートフォンと比べ、スペックなどが抑えられたものが多く、価格も安いものが2万円前後、高いものでも5万円以下のものが主流となっている。
これに対し、主要3社が販売するスマートフォンは、国内外のメーカーのフラッグシップモデルをトップに据え、少しスペックを抑えた価格帯のモデルまで、豊富なラインアップを展開している。
これに加え、主要3社は端末の購入から2年間、毎月2,000円前後の月額割引サービスが提供されているため、ユーザーの実質的な負担額はグッと抑えられている。
たとえば、今夏に登場したソニーモバイルの「Xperia X Performance」は、NTTドコモで一括購入した場合、支払い額は約9万円だが、毎月2,000円前後の割引を24回受けられるため、実質負担額は5万円を切るところまで抑えられる。
また、NTTドコモが2016年夏モデルとして販売する富士通製の「arrows SV F-03H」は、フィーチャーフォンからの移行ユーザーも意識したミッドレンジのモデルで、一括購入時の価格は6万円を少し超える程度だ。
しかし、月額1,750円の月々サポートが24回受けられるため、実質負担額は2万円程度まで抑えられる。
このarrows SV F-03Hとほぼ同じスペックのモデルは、MVNO各社向けに「arrows M03」として供給されており、一括購入時の価格は3万2,800円に設定され、NTTドコモで購入したときの実質負担額よりも割高になっている。
つまり、主要3社で購入した場合、NTTドコモの「月々サポート」、auの「毎月割」、ソフトバンクの「月月サポート」という月額割引サービスが提供されているため、オープンマーケットで販売されている同等のスペックのモデルよりも実質負担額が低く抑えられている。
MVNO各社としては、前述のように、多少スペックを抑えてでも2万~5万円程度のモデルをラインアップせざるを得なかったわけだ。
ちなみに、パソコンなどの例を見てもわかるように、一般的に国内市場はハイスペック・ハイクオリティを求める傾向が強いとされており、これまでも主要3社のラインアップは各社のフラッグシップモデルが圧倒的に高いシェアを獲得してきた。
そのため、当初はMVNO各社の安価なモデルが「あまり売れないのでは?」と危惧されていた。
ところが、格安スマホを求めるユーザーは端末の価格も重視する傾向が強い上、主要3社の販売価格も総務省の「0円販売禁止」の指導で高くなってきたこともあり、着実に売れているという。
中でもHuawei「P9 lite」やASUS「Zenfone GO」「Zenfone 2 Laser」などは、必要十分のスペックを備えながら、2~3万円程度で購入できることもあり、安定した人気を得ている。
また、MVNOによっては、特定のモデルや発売からある程度の期間を経たモデルについて、回線契約を伴う購入に限り、1万円程度の値引いて販売するような動きも出てきており、今まで以上に格安スマホを買いやすい状況が整いつつある。
「格安」じゃない市場に挑むSIMフリースマートフォン
月額割引サービスによって、実質負担額が抑えられた主要3社のスマートフォンに対抗するため、多少スペックを抑えてでも安価なモデルをラインアップしてきたMVNO各社だが、この秋、国内外のメーカーから少し違う価格帯のモデルが発表され、注目を集めている。
まず、Lenovoグループ傘下となったモトローラは、今年6月にアメリカで開催された自社イベントで発表していたフラッグシップモデル「Moto Z」を国内向けに投入することを発表した。
Moto Zは、SoC(CPU)にSnapdragon 820を採用し、64GBのストレージを搭載した最上位モデルは9万円を超える価格が設定されている。32GBのストレージを搭載したモデルでも6万円弱という価格設定だ。
SoCにSnapdragon 625を搭載するなど、少しスペックを抑えた「Moto Z Play」もラインアップされているが、こちらは約6万円に価格が設定されている。
Moto ZとMoto Z Playは両機種とも、背面に「Moto Mods」と呼ばれるプロジェクターや光学10倍ズームカメラといった拡張モジュールを「合体」できるユニークな構造を採用しており、機能的な新しさも注目される。
国内のSIMフリースマートフォン市場で、Huaweiとトップ争いをくり広げるASUSは、新しい世代の「Zenfone 3」シリーズを国内向けに発表した。
Zenfone 3シリーズにはディスプレイサイズやSoC、カメラなどの違いにより、3種類のモデルがラインアップされている。
最上位モデルの「Zenfone 3 Deluxe(ZS570KL)」は、SoCにSnapdragon 821を採用し、6GB RAMと256GBのストレージ、5.7インチフルHDディスプレイを搭載して、9万円台半ばの価格が設定されている。
Snapdragon 625を採用し、4GB RAMと64GBのストレージに、5.5インチフルHDディスプレイを搭載した「Zenfone 3 Deluxe(ZS550KL)」は6万円程度と、いずれのモデルも従来モデルよりも少し高い価格帯に位置付けられる。
こうした高価格帯モデルのラインアップについて、ASUSのジョニー・シー会長は発表会後の囲み取材において、「日本市場はパソコンなどでもハイスペックで高品質のものが求められてきた。Zenfone 3 Deluxeはその期待に応えるモデルだ」と強い意気込みを見せていた。
また、これまで「ZTE BLADE」シリーズなどで、リーズナブルなモデルをMVNO各社に供給してきたZTEも「ZTE AXON 7」を発表したが、Snapdragon 820を採用し、5.5インチWQHDディスプレイを搭載して、約6万円という価格を設定している。
さらに、同じ価格帯のSIMフリースマートフォンとしては、すでに6月からHuaweiが「P9」を約6万円で販売しており、ライカとの協業で実現したデュアルレンズ搭載カメラなども高い評価を受け、人気モデルとして好調な売れ行きを記録している。
これらの例を見てもわかるように、いずれのモデルもこれまでの格安スマホの主流だった1万円台や3万円前後の価格帯ではなく、主要3社のフラッグシップモデルの実質価格と変わらない6万円前後、iPhone 7/7 Plusとも並ぶ約9万円前後のハイスペックなSIMフリースマートフォンが登場してきた格好だ。
これまで国内では主要3社による独特の販売方法によって、携帯電話やスマートフォンの価格があまり意識されない傾向だったが、今後、それぞれの機種のスペックや機能に応じた多様な価格帯のSIMフリースマートフォンが受け入れられていくのかどうかが注目される。