最高品質にして贅沢な作りのテンプレ。深淵なる名作『ブラックローズサスペクツ』【山本一郎のスマホ情報見聞録】

山本一郎です。ゴールデンウィークは子供を連れてあっちこっちお出かけしていたわけですよ。移動時間に待ち時間、すべてにおいて大活躍してくれたのがポケモンGOと愛するソシャゲたちでありまして、ああ、ゲームが好きでよかったなと心から思う日々であります。

で、今回取り上げるのは『ブラックローズサスペクツ(Black Rose Suspects)』なのですが、これがね、超豪華なんですよ。

キャラデザといいグラフィックといい音楽といい声優といい、いやー、お金かかってますね。こういうところ、純粋にすごいと思いますよ。それでいて、あんまりゴテゴテしてないし、世界観の組み上げ方はとても丁寧で、作り手としてのセンスはとても高いと感じます。

製作元はサイバーエージェント系のPixel Fishなんですが、世界観に抱きしめられながら大人がのんびり遊ぶには最高の素材なんじゃないかと思います、ブラックローズサスペクツ。

ゲームとしては、ソーシャルゲームにおけるテンプレ詰め合わせです。これって「バルキリーコネクトみたいに作ってよ」「おかのした」みたいな流れでできたんじゃないかと思うぐらいに、定番ソシャゲの要素を切り出して煮詰めたような感じであります。

そこへ開発期間やゲームリリースの時期が迫ってきたので完成途上でバグバグだけどとりあえずリリースしてしまいました的なシチュエーションが社内で繰り広げられていたのではないかと感じるんですよね。

ものすごくガワは最高品質で仕上がってる感じなんですけど、ゲームの中身やバランスは明らかに未完成で、これ、テストプレイあんまりしてないよね。

ソーシャルゲームにするためにたくさん用意したキャラクター、本編では当たり前のように脇役ばかりであって、序盤に冴えないセールスマンがしょぼい事件の犯人に疑われて一瞬盛り上がるんですけど、その後はこれといって出番なしとか、最高です。

っていうか、現在第2章まで公開しているものの、第1章をほとんど使って若い女の子姉妹が運営する土産物屋にクレーマー登場とかいうシナリオで引っ張るものだから、世界観がいきなり台無しになっているあたりが素敵なんですよね。ほかにいうべきことがあるだろう的な。

その分、後半に入ってようやくブラックローズサスペクツが追い求めたい重厚なシナリオ展開が開始するわけなんですけど、大きな陰謀の割に本線となる群像劇があっちこっちに飛んでしまうので、問題の全容を理解するのに少し時間がかかります。

おまけに、各キャラクターの持っているサブの読み物がシナリオと必ずしも連動していないので「ああ、作り手としては裏シナリオとか『一方、そのころ』みたいなものを企画でやりたかったのに手が回らなかったんだろうなあ」と感じさせるわけなんです。

ある意味で、陰謀のスケールの大きさや取り巻くシチュエーションは、本来ブラックローズサスペクツが描こうとしている老舗ホテルとアメリカ西海岸というステージには収まりきらないネタなんですよ。

だって、陰謀を暴く中心にホテルで働くメイドのババァが噂話で核心突こうとしたり、いい奴風のカメラマンが特ダネを追うのに犯罪組織で知り合ったあやしい風体の女性からの情報一本でがんばったりするんですよ。

それを訳アリのホテル探偵が野良犬のように調べまわるのは「らしくて、とてもいい」んです。で、遺伝子によって人を選別し、いろんな動物を組み合わせるキメラが徘徊するぞってのは使い古されてはいるけど面白いモチーフだと思います。実際、そういうの起きたら怖いじゃないですか。ぜひ、ホテル探偵には解決していただきたい。

で、ゆっくりと真相に迫っていくホテル探偵、その横で、老舗ホテルに勤める少年少女が特殊能力に目覚めます。街中をすでにうろうろしているキメラ相手にワーワーキャーキャーいいながら大戦闘してるんです。大丈夫なのかお前ら。警察呼べ警察。
そんなもん、人目に触れて目立つに決まってるじゃないですか。

だって、ローソンの店員みたいな服着た青髪の女の子がでっかいハサミ振り回して、パンダの顔に昆虫の胴体したキメラのみなさんと血みどろの戦いを街中やビーチで繰り広げているんですよ。

なんですか。この絶望的な治安の悪化。見て見ぬふりする大人たち。戦ってるのは能力に目覚めたホテル従業員ばかりというのはいかがなものかと思うわけです。いいぞもっとやれ。

筋トレ大好きカメラマンも政治家が絡む大陰謀のスクープを目指す前に、目の前で戦っているキメラそのものを写真に収めて「こんな奴がロサンゼルスで大繁殖しています」って報じた方がよほどスクープだと思うんですよね、人死んでるし。

そういう事件ももみ消すロス市警察も能無しの集まりみたいでじれったいです。出てくる女の子も(イリーナ以外)、戦うならお前らもっと筋トレしろ。1日おきにハーフスクワット30回3セットやってから戦場にこいというレベルなんですよね。

そういうツッコミどころ満載でも、序盤の犯罪組織によるクレーマー話ひっぱり事件以外は面白いシナリオだと思うんですよ。レイドの仕組みがゴミでも、ゴールド余りまくりでも、目をつぶれるレベル。そんなにのめり込まず、課金しないならね。

こういうブラックローズサスペクツの惜しい状況を見ていると、やはりキャラクター数を数多く用意したり、プレイヤーに課金を求めるようなソーシャルゲームの世界に、しっかりとした荘厳な舞台装置や、長編小説仕立ての本格的なシナリオというのはおそらく相性が悪いのではないかと思うんですよ。

ゲームシステム上、課金のためにもキャラ数を稼がなければならない。本編にそんなにたくさんの美談美女のキャラクター用意して、善玉キャラを全員それなりに活躍させようとしたら、そりゃシナリオが破綻してしまいます。

良質なシナリオを見せたいならゲームシステム側が工夫するべきだし、ゲームシステムで美少女だ高レアリティだアリーナバトルだと用意したいなら、壮大な陰謀シナリオにちょい役しか出ないキャラが薄っぺらくなってしまうのは仕方がない。

プレイアブルなキャラクター死なせるわけにもいかないし、善玉風のキャラクターがカードになってなかったら「どうせ後半にキメラにでもされるんだろ」ぐらいに思っちゃうのは仕方がないと思うんですよね。

キャラ数を無暗に増やした上で、レアリティをSSR、SR、R、Nと分けてるもんだから、排出確率の渋いSSRを限界突破させて凸ることができず、育てたいキャラが運よくガチャで手に入らなければ一気に冷めるわけですよ。

「このキャラ好きだからガチャで出るまで金かけて回す」層にフィットする作り方をするのか、「このキャラ好きだけどSRも凸らないので5凸Rでガマンする」ようにしてしまうのか、まあ難しいところなんですが。

札束で殴り合っていただくように、アリーナのガチ勢で採算を合わせたいなら、それこそ5凸SSRありきかもしれないけど、そういう稼ぎ方でやる以上は無課金微課金野良勢もいっしょに盛り上がってないとガチ勢もドヤ顔できません。

ゴールデンウィークのイベントダンジョンが1日1時間ずつ2回で閉まっちゃうような仕様にしてはいけないと思うんですよ。

これが、例えばキャラクターをピンで活躍させるような『龍が如く』とか、オープンワールド系の『Grand Theft Auto』や『Elder Scrolls』なら、どうにかなったんじゃないかと思うんですよ。あるいは、古いけど『銀河英雄伝説』みたいな群像劇ありきの作品ならば、作品を読ませることを主体にしたシナリオはできたかもしれない。

一方で、キャラクター数の多い『艦これ』がアニメで凄いことになったのと同様、当たったソーシャルゲームがその多キャラゆえの「プレイヤーを楽しませるためには全員出演させて活躍しなければ」というは層が、かえってコンテンツを残念な方向に向かわせてしまうのかもしれません。

ほんと、ブラックローズサスペクツについては「ここまできちんと作ってるのに、無茶しやがって」と思うところ大なのですけれども、作品の方向性としてノベルス作品や映像系にはもってこいだと思うので、うまく軌道修正させながら着地してほしいなあと。

いやほんと、ホテルを取り巻く世界観とか、陰謀全体の構造はかなりちゃんとした本格的なミステリーなんですよ。単にソシャゲには向いてないだろってだけで。普通に3DSやPS4でちゃんと広告宣伝して本格ミステリーだとして売れば、当たる企画だと思うんですけどね。どうしてソシャゲにしちゃったんだろう。

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