時代とともに変化してきたデータ通信回線
こうした学割を中心とした春商戦は、スマートフォンや携帯電話の新規契約が中心だと考えられがちだが、もう1つ注目されるのがデータ通信回線の需要だ。
たとえば、大学に進学し、一人暮らしを始めたり、異動などで単身赴任や他の地域に引っ越したりすると、自宅に通信手段が必要になってくる。
古くは、一人暮らしを始めるイミングで、電話回線を敷設して、ADSLを契約したり、マンションやアパートの光回線を契約するといった形が多かったが、近年は各携帯電話会社のモバイルWi-Fiルーターなどでインターネット接続を済ませるという人も多く見受けられた。
最近ではスマートフォンでインターネットを利用し、パソコンは必要なときだけ、スマートフォンのテザリングで何とか乗り切ってしまうというユーザーも少なくない。
各社の通信制限の緩和
前回、このコラムで触れた携帯電話各社の数十GBクラスの大容量プランは、まさにこうしたニーズにうってつけのプランといえるだろう。
ただ、当然のことながら、各社の料金プランには、月々に利用できるデータ通信量に限りがあり、これを超えてしまうと、通信速度が大幅に制限されてしまう。
たとえば、5GBのプランを契約した場合、5GBを超えると、通信速度が1/1000以下(通常時150Mbpsの場合)の128kbpsに制限される。1GBあたり1000円程度の追加料金を支払えば、元の速度に戻すことができるが、128kbpsではメールなどを確認する程度の使い方しかできなくなってしまう。
また、こうした通信速度の制限には、月々の料金プランに合わせたもののほかに、直近のデータ通信量が一時的に増えたときも制限を受ける。
俗に「3日で1GB制限」として知られており、直近の3日間で1GBを超える通信を利用すると、混雑しているエリアで通信速度が抑えられたり、一定時間、通信速度を制限されるといった措置がとられてきた。
ただ、現在はこうした制限は緩和され、NTTドコモは2014年末にLTE(Xi)対応エリアが拡充されたことに伴い、3日間で1GBの通信制限を撤廃している。ただし、Xi契約でもFOMA(3G)端末で利用する場合は制限される。
その後、auとソフトバンクも「3日で1GB制限」を緩和、もしくは一部を撤廃し、従来に比べると、利用しやすい環境が整いつつある。
UQ WiMAXが発表した通信制限の見直し
一方、モバイルWi-Fiルーターによるデータ通信サービスを提供するUQコミュニケーションズのUQ WiMAXは、この通信制限について、思わぬ形で翻弄されてきた。
UQ WiMAXは元々、WiMAX方式によるデータ通信サービスを提供し、実質的に無制限で利用できたことから、一人暮らしユーザーなどの固定インターネット回線の置き換えとしても広く利用されてきた。
BWA帯域の2.5GHz帯の追加割り当てを受け、2013年10月からは新たに「WiMAX 2+」と呼ばれる方式によるサービスを開始したが、この際、データ通信量の無制限を月間7GBまでに制限したが(移行措置として2年間は無制限)、これが予想以上にユーザーに不評だった。
2015年4月にはトラフィック増に伴い、「3日間で3GB」の制限を導入したが、このときにはUQ WiMAX本来の「ノーリミット」のメリットが失われたとして、かなり批判を受けた。
3日間で3GBという制限はあるものの、制限中でもYouTube動画を標準画質(360p)で視聴できるレベルが確保されていたにも関わらず、ユーザーにはあまり評価されず、こうした批判を受ける形で、2015年7月には制限中でもYouTube動画をHD画質(720p)で視聴できるレベルまで制限を暫定的に緩和する措置をとった。
そして、昨年12月、UQ WiMAXの通信制限の大幅な見直しが発表された。
今回の制限緩和では直近の利用の制限は「3日間で10GB」まで拡大し、制限されたときの実効速度も1Mbps程度になることが明らかにされた。
制限される時間帯も従来は終日制限だったところを今回はモバイルネットワークが最も混雑する18:00から翌2:00ごろまでに緩和されている。実際の適用開始は2月2日からで、1月30日から2月1日の3日間の利用状況によって、該当ユーザーは制限されることになる。
実際の利用環境での評価は2月以降になるため、まだ現時点では何ともいえない状況にあるが、MVNO各社の使い放題プランでの通信速度が概ね数百kbps程度であることを考慮すると、今回のUQ WiMAXの制限緩和はMVNO各社の使い放題プラン以上に快適に利用できる環境が整うことになる。
もっとも、MVNO各社のプランは主にスマートフォンでの利用が想定されているのに対し、UQ WiMAXはモバイルWi-Fiルーターで運用し、その下にPCやタブレットなど、ある程度、トラフィックの多いデバイスが接続されるため、一概に比較できない面もある。
ユーザーにしてみれば、毎月数千円もの料金を支払っているのだから、「使い放題を実現してほしい」「もっと制限を緩和してほしい」という声が聞こえてきそうだが、モバイルネットワークは「電波」という限られたリソースを利用する上、ネットワークを公平に利用するという観点からも制限をかけざるを得ないのが実状だ。
UQコミュニケーションズによれば、現在のユーザー分布を見ると、数%のヘビーユーザーの利用が全体のトラフィックの1/3を占めており、こうしたユーザーがネットワークの利用が多いピークの時間帯に大量のデータ通信を行なうため、そのためにネットワーク設備を増強しなければならない状況にあるという。
仮に、通信量制限を緩和し、数%のヘビーユーザーのニーズに応えようとすると、ネットワーク設備をさらに増強しなければならず、結果的に現在の月額4,380円という料金体系を見直すことになり、多くのユーザーにとって、負担増になってしまうそうだ。
逆に、最大通信速度を少しだけ抑え、利用できるデータ通信量を増やし、さらに制限を緩和するというアプローチも考えられそうだが、現在のモバイルネットワークは通信を高速化することで、ネットワークのトラフィックを早く捌き、無線ネットワークの空きを確保し、次々とトラフィックを捌いていく仕様のため、中程度の通信速度に制限するという手法には、あまり効率的ではないといわれている。
モバイルネットワークは「電波」という限られたリソースで運用されているため、光ファイバなどの固定インターネット回線に比べると、どうしても制限を設定せざるを得ないが、ユーザーもそういったモバイルネットワークの特性を理解しつつ、目先の数値や料金だけに惑わされず、本当に安定して、快適に利用できるネットワーク環境をじっくりと見極めていく必要がありそうだ。