静かにスタートした今年のiPhone商戦
静かなスタートとなった今回のiPhone発売の背景には、くつかの要因があるが、まず最初に挙げられるのが販売方法を予約中心に切り替えたことだ。これまでiPhoneは、他のスマートフォンを販売するときと違い、当初は各携帯電話会社の販売店が予約を取ることができなかった。発売前は入荷台数もわからないため、販売店にとってはある意味、『売れるけど、扱いにくい端末』という側面もあった。そのため、iPhoneを少しでも早くほしい人は、とにかく発売日に店頭に並ぶしかなく、それが一連のiPhone発売日行列につながっていた。
もともと、日本人は行列を作りやすいといわれ、コンピューター業界で言えば、Windows 95などの深夜販売に始まり、ゲーム業界でも新型ゲーム機やゲームソフトの発売日にも行列ができていたが、iPhoneの発売日の行列は、また少し異質なものだったといえる。
というのも他の商品と違い、iPhoneは各携帯電話事業者との契約をともなうため、どうしても対面販売に時間がかかってしまう。しかも、iPhoneが国内で発売された最初の数年は、ちょうどケータイからスマートフォンへの移行期にあったため、データの引き継ぎやオプションサービスの解約など、それまでの機種変更などの手続きよりも確実に時間がかかっていた。
これに加え、昨年は明らかに海外への転売目的と思われる他国の人々が並び、数十人の仲間を途中に割り込ませたりして、行儀よく並んでいる人たちとの間で小競り合いを起こしてしまった。全世界でほぼ共通仕様の製品が販売されているiPhoneならではの現象ともいえたが、昨年は警察が出動したり、転売業者が路上で現金買い取りを行なうなど、かなり異様な雰囲気の発売日になってしまっていた。
こうした状況を受け、今年は各携帯電話会社がオンラインでの事前予約を積極的に受け付ける形を取り、発売日には基本的に並ばない、もしくは並ばせないという施策を採った。予約システムそのものはこれまでもiPadの発売などで提供されていたが、主力商品のiPhoneを事前予約による販売に切り替えたことで、発売日の店頭はどこも大きな騒ぎもなかった。
ただ、各携帯電話会社としてはある程度、発売日を盛り上げたいという意向もあり、各社ともテレビCMに出演する俳優やタレント、芸能人などを呼び、発売記念イベントを催していた。今年はあいにく発売日当日が雨だったうえ、メディア関係者もNTTドコモのドコモショップ有楽町店、auのau SHINJUKU、ソフトバンクのソフトバンクショップ銀座店、アップルのアップルストア表参道とアップルストア銀座などに拡散したため、こちらもそれほど大きな混乱が起きなかったようだ。
日本のユーザーはコンパクトサイズがお好き?
国内では9月25日に発売されたiPhone 6s/6s Plusだが、売れ行きはどうなのだろうか。まず、アップルからは発売後3日間で、全世界で1,300万台以上が販売されたことが明らかにされている。ただ、今回は中国が最初の発売国に含まれているため、この影響によるところが大きいという指摘もある。国内での販売については何も実績が明らかにされていないが、業界関係者によると、昨年のiPhone 6/6 Plusよりも好調なすべり出しであり、予約も着実に捌けているという。
ところで、今回発表されたiPhoneは、従来モデルに引き続き、4.7インチディスプレイを搭載した「iPhone 6s」、5.5インチディスプレイを搭載した「iPhone 6s Plus」の2機種から構成されており、容量は16GB、64GB、128GBのモデルがラインアップされている。これらのうち、どのモデルが売れ筋なのかが気になるところだが、やはり、国内では4.7インチディスプレイを搭載したiPhone 6sの売れ行きが好調なようだ
もともと、従来モデルのiPhone 6とiPhone 6 Plusでは7対3から8対2程度の比率でiPhone 6の方が人気が高いといわれていたが、今回は発売当初、iPhone 6s Plusの入荷が少なく、入荷の多いiPhone 6sが順調に売り上げを伸ばしているという。前回の記事ではグローバル市場でのディスプレイサイズのトレンドに触れたが、やはり、日本のユーザーは大画面よりも持ちやすさを重視する傾向にあり、それがiPhoneの2モデルにもしっかりと反映された格好だ。
また、ボディカラーについては、従来のゴールド、シルバー、スペースグレイに加え、新たにローズゴールドが追加された。目新しさでローズゴールドに注目が集まっているものの、見方によってはピンクっぽさが強調されてしまうこともあり、男性ユーザーを中心に敬遠する人もいるようだ。ただ、iPhoneの場合、現実的には多くのユーザーはiPhoneにカバーを装着するため、ボディカラーにはあまり執着しないという指摘もある。
また、iPhoneはNTTドコモ、au、ソフトバンク、そしてSIMフリー版をアップル自身が販売しているがが、この時期になると、各携帯電話会社はモバイルネットワークの優位性を積極的にアピールする。これはiPhoneという同じハードウェアを各社が扱っているため、違もっとも大きな相違点となるネットワークで差別化を図ろうという意図だ。NTTドコモは国内最速となる受信時最大262.5MbpsのPREMIUM 4Gをアピールする一方、auは受信時最大225Mbpsの4G LTEに加え、受信時最大220MbpsのUQコミュニケーションズのWiMAX 2+も利用可能にすることで、ダブルで200Mbpsオーバーの環境を実現している。ソフトバンクはわずかに数値が劣るものの、受信時最大187.5MbpsのSoftBank 4G LTE、AXGP方式を採用した受信時最大165MbpsのSoftBank 4Gが利用可能だ。いずれも数値は理論値の最大でしかないため、実際にこの速度で通信ができるわけではないが、あまり混雑していないところであれば、50Mbpsオーバーを記録することも珍しくない。
ネットワークと同じように、各社の思惑が見え隠れしているのが販売価格だ。今回のiPhone 6s/6s Plusはアップルが直接、希望小売価格のままSIMフリー版を販売しているが、各携帯電話会社が扱うiPhone 6s/6s Plusは個別に価格が設定され、各携帯電話会社で購入したときに適用される月額割引(NTTドコモの「月々サポート」など)により、実質販売価格はさらに違っている。
各社の販売価格を比べてみると、auがSIMフリー版とほぼ同じ価格を設定しているのに対し、ソフトバンクは7,000円~1万円程度、高い価格が設定されている。NTTドコモは最も安く、なぜかiPhone 6sの16GBモデル以外は同じ価格が設定されているが、月々サポートの金額が調整され、実質価格は各社とも数百円程度の違いしかない。NTTドコモがいずれのiPhoneも10万円を切る価格に設定したのは、10万円を超えると、分割払い(割賦)で販売するとき、支払可能見込額調査と呼ばれる審査を行なう必要があり、その手間を省きたかったという思惑がある。現に、10万円を超える価格を設定したソフトバンクでは、審査が通らず、iPhone 6s/6s Plusを買えなかったという事例も報告されている。
2008年の国内初登場以来、着実に国内市場に浸透してきたiPhone。ライバルであるAndroidスマートフォンの完成度が高められ、競争も激しくなりそうな気配だが、話題性と安定した人気は相変わらずだ。これからも国内市場での反応に注目していきたい。