意外に慌ただしいモバイル業界の9月
例年9月は、ドイツのベルリンで欧州最大の家電展示会である「IFA 2015」が開催され、秋冬商戦へ向けた各社のスマートフォンのフラッグシップモデルが発表される。最近ではサムスンがGALAXY Noteシリーズ、ソニーモバイルがXperiaシリーズの新製品をIFAに合わせて発表し、注目を集めている。今年はサムスンがひと足早く、8月にGalaxy Note 5とGalaxy S6 edge+を発表したが、ソニーモバイルはXperia Z5シリーズを発表した。
そして、9月といえば、Appleが例年新しいiPhoneを発表することもあり、数週間前から業界内がいろいろと騒がしくなる。次期iPhoneがどういう商品なのかという興味もさることながら、国内では各携帯電話事業者が販売するため、発売に合わせ、どのような販売施策やイベント、キャンペーンを実施するのかも話題になる。今年もauの「スーパーカケホ」を皮切りに、各社が新しい料金プランを打ち出し、話題をなっている。
大画面スマートフォンが定着したグローバル市場
では、今年のIFA 2015ではどんな製品が注目を集めたのだろうか。すでに、IFA 2015のレポートはさまざまなメディアに掲載されているので、ここでは詳しく説明しないが、まず、注目を集めたのがソニーのXperia Z5シリーズだ。
Xperiaシリーズといえば、国内では2015年夏モデルで「Xperia Z4」が発売されたばかりだが、今回は5.5インチの4Kディスプレイを搭載した「Xperia Z5 Premium」、5.2インチでフルHD対応の「Xperia Z5」、4.6インチでHD対応の「Xperia Z5 Compact」の3モデルを発表した。いずれのモデルも国内向けに発売されることが予想されており、秋冬商戦でも注目を集めそうな存在だ。
Xperiaがディスプレイの仕様が異なる3機種をフラッグシップモデルとして発表してきた背景には、グローバル市場全体として、コンパクトモデルだけでなく、大画面のスマートフォンが定着してきたことが挙げられる。グローバル市場では2011年9月に発表された初代GALAXY Note以降、写真や動画などを迫力ある大画面で楽しみたいという意向から、大画面スマートフォンが着実に人気を伸ばしてきている。大画面であるがゆえにボディサイズに余裕ができ、大容量バッテリーを搭載しやすいというメリットもある。
また、中国をはじめ、アジア圏でも大画面スマートフォンが人気を得ているため、中国メーカーもこの市場に注力している。たとえば、HuaweiはIFA 2015に合わせて開催されたプレスカンファレンスにおいて、5.5インチのSuperAMOLED(有機ELディスプレイ)を搭載した「Mate S」、同サイズのフルHD対応液晶ディスプレイを搭載した「G8」を発表した。どちらもボディ幅は75~76mm程度と少し大きめだが、指紋センサーを背面に内蔵し、7mm台の薄さを実現するなど、スリムで扱いやすい形状にまとめ上げている。
Motorolaのモバイル事業を傘下に収めたLenovoは、中国やアジア圏を中心にLenovoブランドのスマートフォンも展開している。今回のIFA 2015ではプレスカンファレンスにおいて、スマートフォンとタブレットの中間的な『ファブレット』に位置付けられる「PHAB Plus」という新製品を発表した。6.8インチのフルHD対応IPS液晶ディスプレイを搭載し、幅96.6mm、高さ186.6mm、厚さ7.6mm、重さ229gというサイズだが、Lenovoとしてはユーザーがビデオ視聴をはじめ、通話以外の用途に70%近い時間を費やしていることから、こうしたモデルを開発したという。
国内でも5インチ台のディスプレイを搭載したスマートフォンは販売されているが、携帯性を重視し、片手で持てる4インチ台のモデルも根強い人気を保っている。今後、5インチオーバーのディスプレイを搭載した大画面スマートフォンが国内市場でも定着していくのかが注目される。
新しいAppleTVが秘めた可能性
IFA 2015に続き、9月9日には米国サンフランシスコでAppleが発表会を開催し、iPhone 6s/6s PlusやiPad Proなど、新製品のフルラインアップを発表した。当然のことながら、国内外の市場では新しいiPhoneである「iPhone 6s」「iPhone 6s Plus」が注目を集めたわけだが、実は今回の発表で最も注目すべきは「AppleTV」だ。
モバイル業界ではこの7~8年、主役がケータイからスマートフォンへ移行し、市場もドラスティックに変化を遂げたが、実は今年1月に開催されたInternational CES以降、テレビやエンターテインメントの世界でもこれと同じような変革が起きるだろうと見ている。新しいAppleTVは、その流れを後押しする製品といえそうなのだ。
今回発表されたAppleTVは、従来モデルのコンセプトを受け継ぎながら、プラットフォームをiOSベースにすることで、自由にアプリなどをインストールできる環境を実現している。いわば、スマートフォンに近い仕様のセットトップボックスに仕上げられたわけだ。Googleも同様のセットトップボックスとして、「Nexus Player」を販売しており、Google Playで提供される映像や音楽などのコンテンツをテレビで楽しめるようにしている。
現在、日本国内では、アメリカで高い人気を得ている定額映像配信サービス「Netflix」が上陸したことで、映像配信サービスに注目が集まっているが、こうしたサービスはどちらかといえば、スマートフォンやタブレットで利用するものと捉えられがちである。しかし、家庭のテレビにAppleTVやNexus Playerのようなセットトップボックスが接続されれば、これらのサービスが大画面でも楽しめるようになるわけだ。
ちなみに、現行のAppleTVでもNetflixやHuluは利用できるが、国内ではNTTドコモが提供する「dTV」をはじめ、auの「ビデオパス」、ソフトバンクがエイベックスと共に提供する「UULA」、TSUTAYAの「TSUTAYA TV」、国内ではいち早く映像配信サービスを手がけた「U-NEXT」など、国内の携帯電話事業者やサービス事業者が映像配信サービスを提供している。残念ながら、現行のAppleTVはこれらのサービスに対応しておらず、スマートフォンで利用するか、NTTドコモの「dTVターミナル」などの別の機器を利用する必要がある。しかし、新しいAppleTVのプラットフォームがiOSと同じようにオープンで提供されるのであれば、こうした他のサービスもアプリの形で提供できるようになり、映像配信サービスの主戦場はスマートフォンから家庭用テレビに拡大することになりそうだ。
また、ゲームの世界も影響を受けることになるかもしれない。これまでゲームと言えば、国内ではPlayStationやWii、ニンテンドー3DSといった専用ゲーム機が人気を集めてきたが、ここ数年はスマートフォンのソーシャルゲームなどが高い人気を得ており、少子高齢化の影響もあって、専用ゲーム機の市場は縮小する傾向にあるといわれている。そのため、これまでスマートフォンや他社との提携には消極的だった任天堂もDeNAと提携することで、新しい市場を開拓しようとしている。そんな状況において、iOSベースのプラットフォームを採用した新しいAppleTVが登場するとなれば、スマートフォン向けにゲームなどを供給してきたソフトウェアベンダーも当然、参入することを検討してくるはずだ。現時点ではまだAppleTVにどれだけのゲームコンテンツが提供されるのかはわからないが、各社の今後の取り組みが注目される。