イラストと音楽で描き出すまといのウラオモテ
これまでの2回のインタビューは、それぞれのロールの基準となるヒーローとしてNHN PlayArtがデザインを行ったものだった。
今回、話を聞くのは、筆者も普段使っているガンナーのヒーロー「深川まとい」。
アヤカシ
キャラクターデザインから、クリエーターが参加したヒーローは、どのようにして誕生したのだろうか。
そして、絵師とVOCALOIDプロデューサー(ボカロP)によって、どのようにヒーローが形成されていったのだろうか。
今回は、キャラクターデザインを担当した絵師の鈴ノ助と、テーマソングを担当したボカロPのbuzzGに話をうかがった。
透き通るような美しい絵でPVを彩る絵師の鈴ノ助
キャラクターデザインを担当した鈴之助は、ニコニコ動画のVOCALOID-PV(ボカロPV)のイラストを数多く手がける人気絵師。
そんなニコニコ動画を代表する人気絵師のひとりとなった彼女だが、ボカロPVの世界と出会う前は音楽系の2次創作の活動を行っていたという。
ニコニコ動画で活動を始めたきっかけについて「別の絵描きさんから、ボカロの存在を教えてもらい『面白そう! 私も動画を作ってみたい』と思ったのが始まりです」と振り返る。
そこから、PIAPRO(※1)への投稿を開始。イラストを見てくれた人から声がかかるようになり、そこから自身でも動画を作るようになったという。
※1 PIAPRO:クリプトン・フューチャー・メディアが運営するコンテンツ投稿サイト。イラストや音楽などを投稿でき、投稿された創作物はニコニコ動画などに投稿する作品の素材として使用できるのが大きな特徴
そして、ひとしずくP、やま△といっしょにファンタジーを舞台とした大作『Synchronicity ~巡る世界のレクイエム~』シリーズを発表。
第1章「君を捜す空」は、現在90万再生を超えるなど、大ヒットを記録した。
そのほか、悪ノP(mothy)の小説「悪ノ娘 緑のヴィーゲンリート」にイラストで参加するなど活躍の幅を広げている。
君を捜す空(Synchronicity ~巡る世界のレクイエム~より)
ミスルトウ~転生の宿り木~(ミスルトウ~神々の宿り木~より)
「元気ッ娘」深川まといの誕生
ゲームのキャラクターデザインをするのは『#コンパス』が初めてと話す鈴ノ助。
依頼を受けた当時のことを「スマホで、3Dキャラクターのアクションゲームができると聞いたものの、どんなことをやるのかわかりませんでした」と話す。
当時は、まだ開発途中の段階で、プロトタイプのようなものもなく、企画書などの資料しかなかった。
開発から伝えられた設定は「大筒を抱えた 見習い花火職人」「亡き師匠を超えるべく 日々修行中」といった簡単な情報だけ。
「実は最初、まといちゃんは幼い設定だったんです」と当時の裏話を明かす。
しかし、開発とやり取りをしていくなかで、年齢設定が上がっていき、鈴ノ助のなかに「元気ッ娘枠」というイメージができたのだという。
「スポーティーな感じだろうなと次第にイメージが固まっていきました」
そこから活発さを表すために、髪型をポニーテールにするなど、服装も動きやすそうなものになっていった。
3Dになってゲーム内で動くというのが、普段のイラストと大きく異なる。そのことについて苦労はあったのだろうか。
「ゲーム内で再現したときに、ゴチャゴチャしてしまうので刺しゅうなど細かい表現を使えません。
衣装は、花火師ということで和服や袴など和の衣装をモチーフに、描かせていただいたのですが、いかにシンプルでかわいらしくするかというバランスに苦労しました」
しかし、鈴ノ助には、ゲームでまといを使ってもらうことを想像して、1つの仕掛けを施していた。
自身もプライベートでゲームを遊ぶほうだという彼女が着目したのは、キャラクターの背中。
「まといちゃんを使っているプレイヤーが一番目にする部分って、彼女の背中だと思うんです。
なので、自分が動かしているときに、動きに合わせて動いてくれるものが背中にあれば楽しくなるかなと思って、背中に、お相撲さんの化粧まわしをイメージした綱をつけたんです」
「衣装のバリエーションのチャイナ服も、3Dで表現したときに映えるように、思い切りスリットを入れています」
鈴ノ助さんによると、衣装のバリエーションもクリエーターのアイデアで決まっているという。
「まといちゃんの衣装は全部で6パターンくらい案を出しました。
ゲーム内にあるチャイナドレスとコスプレ以外にも、チアガールやスーパーマン風のもの、メイド服もあったかな」
エモーショナルなボカロロックの作曲者buzzG
まといのデザインができたところで、テーマソングを担当したbuzzGの出番となる。
※2 エモ:ハードコアロックの1ジャンル。メロディアスで感情的な音楽性と、心情を吐露するような歌詞が特徴。海外のバンドでは、Jimmy Eat WorldやWeezerなどが有名
Mermaid
もとはロックバンドのボーカルギターを務めていたbuzzGは、音楽で一旗揚げるために上京するも、さまざまな事情からバンドはあえなく解散してしまう。
「バンドをやめてから、1~2年ぐらい暇を持て余していたんです」と当時を振り返る。
そんなときに、友人が初音ミクの楽曲を投稿していたのを見たのが、niconicoで投稿をはじめたきっかけだった。
「ギターだけあったので、パソコンやDAW(※3)を買って、DTMをはじめました。友人が初音ミクを使っていたので、自分は違うのがいいと思い、Megpoidを選びました」
※3 DAW:Digital Audio Workstationの略。デジタルで音声の録音、編集、ミキシングを行えるソフトのこと
そして、2009年8月に「LAST YEAR」で投稿者デビュー。2作目「赤い雨」は、「Megpoid歌わせてみた祭」で特別賞を受賞。
2011年にはアルバム「Symphony」を発表しメジャーデビュー。2ndアルバム「祭囃子」では、LUNA SEAのドラマー真矢と共演。2016年には「しわ」が100万再生を達成した。
しわ
その音楽性のルーツを聞いてみると、J-POPをベースに洋楽ロックを肉付けしていったものだという。
「もともとJ-POPが好きだったのですが、そのあと、Green DayやThe Offspring、Limp Bizkitなど、海外のロックバンドを聞いていました。それらの音楽が今の自分につながっています」
ギターとベースは生演奏を収録し、ドラムは打ち込むのがbuzzGの収録スタイル。ベースを担当するのは、10代の頃からの友人だという中村圭さん(※4)。
※4 中村圭:buzzGの楽曲の多くに参加しているベーシスト。ナオト・インティライミ、岡崎体育など多くのアーティストとも共演する実力派
まといのテーマソング「アヤカシ」でも、イントロからズンズンとカッコいいベース演奏で存在感を発揮している。
「彼のことは、keiちゃんって呼んでいるんですが、東京に出てきてから3年くらい彼の家に居候させてもらっていました。
僕もベースを弾けたんですが、彼のほうがうまいので、『一緒に住んでいるなら弾いてもらおうかな』とお願いしたのが現在も続いています」
テーマ曲「アヤカシ」が描くまといの裏側
buzzGさんもゲームの仕事は、『#コンパス』が初めて。
スマホのゲームをあまりプレイしてこなかったこともあり、最初に話を聞いたときは、自分の曲がどういうところで流れるのか想像できなかったという。
「何もわからないという状況でしたが、『面白そう!!』というのが第一印象でした」と当時を振り返る。
制作にあたって、開発から渡されたのは、鈴ノ助さんが描いたデザインと、数行の資料。そして、「和楽器を取り入れた和風の曲」というオーダーだった。
そこで、スケールに和音階(※5)を使用。イントロに尺八の音色を入れ、和のテイストを取り入れていったという。
※5 和音階:民謡、演歌などで使用される音階で、ヨナ抜き音階とニロ抜き音階がある。ファとシが無い、ドレミソラの5音で構成されているのが特徴
弾き語りで歌のイメージを作ってから、オケ(※6)を入れていくのが、buzzGの作曲スタイル。「アヤカシ」も、メロディーから入り、ギターリフ、オケという順で作られたという。
※6 オケ:歌唱曲のなかで、ボーカル以外のパート(伴奏)のこと
「鈴ノ助さんのビジュアルイメージがあったので、作りやすかった」と話すbuzzG。
しかし、鈴ノ助が「元気ッ娘」として描き出したまといにしては、曲調がハードロックすぎるのではないだろうか。
「僕の深川まといの印象は、見た目は明るいけれど、実はいろいろと背負っているんじゃないか、というものでした」
師匠である祖父を亡くし、若くして花火師という危険な仕事をしているということを考えると、そのまま元気な曲は考えられなかった。
「自分は、まといには明るさだけでなく、こういう一面もあるんだよ、というのを表現したかった」と曲調の意図を明かした。
そこで気になってくるのが歌詞。「アヤカシ」の歌詞には、深川まといのイメージとは異なる言葉が並ぶ。
例えば1番のサビ。まといというよりも桜華忠臣がぴったりような気もするが……。
殺しても 化かしても この心消せないのなら
歪な生命の進化の意味を受け入れてよ
buzzGによると、歌詞のテーマは『人と違うものを持って生まれてしまった者の戦い』だという。
「曲はまといをイメージしたものですが、歌詞は『#コンパス』に登場するまといというよりも、スピンオフや並行世界のイメージソングような位置づけですね」
キャラクターデザインのイラストから、離れていくように曲や歌詞を展開していくことで、キャラクターに深みが与えられていくという状態は、以前インタビューしたリリカと同様だ。
まといの場合は、歌詞をパラレルワールドにしてしまうことで、音楽を聞いたユーザーが想像を膨らませることで、さらに世界が広がっていくような仕掛けが施されている。
アヤカシ
「花火少女」から「深川まとい」へ
こうして、2人のクリエーターによって形作られていった深川まとい。ゲーム内で動くその姿を見て、「狙ったとおりになった」と鈴ノ助は満足げな表情を見せる。
「実はリリースされるまで、まといちゃんの名前を知らなかったんです」
彼女によると、開発段階では「花火少女」というコードネームで呼ばれており、ちゃんとした名前がなかったのだという。
今までただの絵でしかなかった「花火少女」が、3Dモデルになり、「深川まとい」という名が与えられ、音楽と声が入ったことで「ああ、生きてる!」と実感がわいてきたと鈴ノ助は語る
テーマソング「アヤカシ」について「まといちゃんってこんな子だったんだと気づかされました。いつも笑顔だけど、人知れず裏では泣いていることもあるのかな」と、暖かいまなざしを向ける。
最後に、ふたりにまといを使うユーザーに向けてメッセージをいただいた。
「まといちゃんに対しては、親戚の女の子を見ているような気持ちです。『#コンパス』を遊んでいる人から『まといにやられた』とか聞くと、内心ニヤリとしてしまいます(笑)。
ぜひ、みなさんの手でかわいがって、楽しんで遊んでください」と明かす。
buzzGは「昔、ゲームを遊んでいて、ゲーム中のBGMに『カッコイイ!!』とテンションが上がったことを思いながら曲を書きました。
バトル中に『アヤカシ』を聞いた人が同じようにドキドキワクワクしながら遊んでくれればうれしいです」と思いをはせた。
ふたりのクリエーターの手によって生み出された深川まとい。今後、彼女が、どのような活躍をするのかは、『#コンパス』ユーザーたちの手に委ねられた。
(C) NHN PlayArt Corp.
(C) DWANGO Co., Ltd.