バーチャルリアリティ(以下、VR)をエンタテインメント系でリードするのは業務用、つまりゲームセンター=アーケード、さらには徐々にその店舗数を拡大しつつあるVR体験専門施設であることは読者のみなさんも同意のことだろう。
一方の家庭用VRコンテンツは、ハードウェアを保有する個人が一定の時間を費やして楽しみたいというコンテンツ=体験の提供がまだじゅうぶんできていない。加えて、ハードウェアの接続準備などの使い勝手の面倒さも普及促進を阻害する要素で、「出したもの、使ったものは片付けをしなければならない」点も足かせになっているのではないだろうか。
その点、VR専門施設は、「行って、装着して、体験して、終わり」で、自分で片づける必要もない。面白ければ面白い、つまらなければつまらないという感想や思い出体験で完結する。その点で、VRはアーケードでというスタイルが徐々に定着しつつあるように思われる。
一般社団法人ロケーションベースVR協会とは何か?
先に挙げたVR体験専門施設をリードし「VR ZONE SHINJUKU」を展開運営するバンダイナムコエンターテインメントは、3 月1日から、一部のVRアクティビティの対象年齢を7歳以上へ改定すると発表した。
従来は児童へのVRゴーグルを使用する際に懸念される健康障害を背景に、VRアクティビティの対象年齢を個別に13歳以上と定めていたが(別途、身長制限あり)、ロケーションベースVR協会により施行されたVRコンテンツの利用年齢に関するガイドラインに沿う形で、VRアクティビティの対象体験年齢を7歳以上に改定した。
では、このロケーションベースVR協会とは何であろうか?
2017年7 月18 日に発足、正式名称は「一般社団法人 ロケーションベースVR協会」である。インディーズ系VRコンテンツとして有名な「Hashilus」の開発を主導した安藤晃弘氏が代表理事を務める社団法人だ。ロケーションベース(※)と銘打ったのは、ゲームセンター=アーケード、VR体験専門施設を中心にしたVRコンテンツの普及、市場の開拓などを行い、産業経済の発展に寄与していくことを目的としているからだろう。
※:協会によると、「ロケーションベースVRとは、ヘッドマウントディスプレイによるVR映像と体感型ハードウェア機器・ アトラクションなどを連動させ、リアルな体験を提供する施設型VRコンテンツ」という
一般公開されている資料では、
- ロケーションベースVRに関する安全性の研究、その規格化及びガイドラインの策定
- 「13 歳問題」(13 歳未満は一律VR体験を禁止すべきか、という問題)に関する研究
- 風営法に関する諸問題への対処
- エコシステムの形成、ロケーションベースVR製品の標準化や新技術の評価
- アワードなどのイベント開催
- その他の各種課題への対処
となっている。
上記に挙げた各種課題を、社団法人の活動目的としている。これらの課題や解決がなされれば、VRエンタテインメントの取り巻く環境は改善することだろう。ただし、ある種の権益団体にならないようにゲーム・エンタテインメント産業として健全な発展を望むものだ。
VR体験年齢層の拡大は商機拡大ゆえか?
そして、前述した「VR ZONE SHINJUKU」から少し遅れること数週間後の3月20日、「世界初の子供向けVRゲーム」と銘打ったアーケード用VRゲーム2機種が、イオンファンタジーとグリーの共同開発により3月中旬から導入され、その発表会が開催された。
今回は『VRぶっとび!バズーカ』『VRどっかん!ブロック』というVRゲームがの導入された。
どちらのVRゲームも対象年齢は3歳以上となっており、特徴は従来型の複眼VRデバイスの体験ではなく、単眼のVRデバイスを用いたものになっている。ゆえに厳密にVRかどうかというよりは、360°視野角のゲームエンタテインメントと位置付けた方が適切かも知れない。
イオンファンタジーとグリーの共同開発は、ややマッチングの違和感を覚える部分もあるが、イオンファンタジーは日本国内に約200店舗の家族向けアミューズメント施設「モーリーファンタジー」を擁しており、児童向けコンテンツの充実を図る目的がある。
グリーは、従来のソーシャルゲームビジネスからの脱却を図っており、家庭用ゲーム、業務用ゲームなど広範なエンタテインメントビジネスへの舵を切る展開となり、双方にとってプラスの展開と言えるものだ。コンテンツ面に関しては、私もアドバイザーに加わったゲームである。
体験層の拡大に懸念はないのか?
バンダイナムコエンターテインメントの一部VRアクティビティの対象体験年齢が7歳に引き下げられ、イオンファンタジーとグリーの共同開発の子供向けのVRゲームは3歳からの対象が可能という位置づけの背景となっているのは、先に触れた、ロケーションベースVR協会が本年1月にリリースした「両眼立体視機器を使用した施設型VRコンテンツの利用年齢に関するガイドライン」によるものと思われる。
これは、ロケーションベースVR協会の活動の一環として、VRコンテンツの利用年齢に関するガイドラインについて、ワーキンググループを立ち上げて協議した結果だという。
同ワーキンググループにおいては、ロケーションベースVRにおける、13歳未満の子供の立体視の発達への影響について、ロケーション事業者が係員によって使用時間および頻度を管理することを前提に、現在の水準に照らした医学的見地を踏まえた上で、有識者において検討を重ねた結果、保護者の同意を前提とし、一定の休憩取得及び既存疾患の有無などを考慮したガイドラインを制定したもの。
参考のために、私もそれらのコピーを入手して通読してみたが、専門的な知識やそれらを表す専門用語が多く、完全な理解を得ることはできなかった。また、それぞれのガイドライン策定に用いられた資料自体の制作、策定年度が古く、そのあたりはVRと言うよりも映像製作におけるガイドラインという印象だ。
VRは、まだエンタテインメントとしてもハードウェア開発としても発展途上にある。家庭用VRヘッドセットとコンテンツを牽引するPlaystaiton VRも対象年齢は12歳以上で、12歳未満の子供はVRヘッドセットを使用不可という訴求している。
とはいえ、各家庭に入ってしまったデバイスは善意と良識のもとでしか管理はできないだろう。使用する側のモラルにそれらは委ねられる。
今回は、一定の管理の元で運営されるVRアクティビティ、ゲーム体験の低年齢対象化が認められたが、ロケーションベースVRとしては、公式サイトにあるように、その都度論議していく予定とのことだ。
IT・エンタテインメント業種では、未来のため、人々のライフスタイルのイノベーションのためなら「どんどんやれ」とか「やったもの勝ち」「あとで直せばいい」というなワーク(経営)スタイルをよく見かけるが、それらが加速した結果、Uberの自動運転車がアリゾナ州で交通死亡事故を起こしてしまった。これによって、北米トヨタが自動運転の実験を中断する事態にまで発展している。
まずは「やってみる」という姿勢はいつの時代も重要だが、どこかで歯止めが利かなくなるような事態に陥ることもある。ある種の過信と欺瞞がそこに芽生える。
VRエンタテインメントも、まだまだ検証が必要なレベルを脱していない。ロケーションベースVR協会のみならず、体験者である我々も新しいVR体験とエンタテインメントを正しく育成するために、今後の更新や改定を注意深く見ていかなければならない。
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