渦中の2人がゲームを取り巻く諸問題に切り込む
「eスポーツ」と「ゲーム依存」。以前からホットになりつつあった2つのキーワードが2018年も盛り上がっている。
今回の黒川塾では、2017年2月に開催された第46回から1年を経て、再びこの2つのテーマについて詳しい2人のゲストを交え、それぞれの展望と課題が語られた。
黒川塾(五十九)ゲスト
木曽崇氏:カジノ研究家/国際カジノ研究所所長
山本一郎氏:投資家/作家
木曽崇氏は、カジノ研究家という立場から、メディアのコラムやSNSを通じて、e-Sportsイベントに対して、景表法、風営法、刑法の賭博罪など、クリアしなければならない法制度があると警鐘を鳴らしていることで知られる。
さらに、JeSUの発足にあたっては「プロゲーマー制度」や「賞金問題」について舌鋒鋭く指摘したことで、話題となっている。
コラムニスト、コメンテーターなど多方面で活躍する山本一郎氏は、ゲーマーであることでも知られる。
e-Sportsの話題においても、世界最大級のe-Sports大会の日本開催「EVO Japan」の運営にも携わっており、e-Sportsにおける当事者の1人でもある。
高額賞金のe-Sports大会は開催可能
「e-Sports」は、2022年の杭州アジア大会で正式採用が発表され、先日の平昌五輪では、エキシビジョンとして五輪公認のe-Sports大会「2018 Intel Extreme Masters PyeongChang」が開催された。
その動きに応じるように、日本でもこれまで国内に3団体あったe-Sportsの関連団体が合併。「日本eスポーツ連合」(以下、JeSU)が発足した。
とはいえ、日本で高額の賞金が付与されるe-Sportsの大会を開くには、法整備がされていないということが問題となっている。
そのため、「法律的にグレーなイベント」というイメージが一人歩きしてしまい、スポンサーが集まりにくいのが現状だ。
賞金については、デジタルライターの岡安学氏が消費者庁への取材で「e-Sports大会の賞金は景表法に抵触するおそれがある『景品』ではなく、興行の出演者に支払われる『仕事の報酬』である」という見解が示され、クリアになりつつある。
しかし、この点についても山本氏は「景表法をクリアしたとしても、『仕事の報酬』として支払える賞金の上限が次なる課題になるのではないか」と懸念を示す。
これに対して消費者庁は「社会的な通念で認められる範囲」と明確な数値を示さなかったが、実際、海外の大会では、億を越える賞金が支払われることもあり、そのような高額な賞金を「1日の仕事の報酬」として認められるのだろうか。
山本氏は、期間を区切って自社のゲームのリーグ戦を運営し、プロスポーツ選手に払われる年棒と同じように、選手に報酬を支払う常設リーグの取り組みを提案。
その取り組みを安定して行うためには、メーカーによる運営がもっともクリーンだと両氏は考えを明かした。
筆者も、定期的に試合が組まれて、ファイトマネーを得られるほうが安定にもつながるため、ゲーマーサイドとしてもうれしいと思うのだが……。
e-Sports施設が摘発される可能性
続いて、e-Sports大会の会場についての課題について。e-Sportsの盛り上がりを受けて、国内にもe-Sportsの大会を目的とした施設ができはじめている。
しかし、木曽氏はこのe-Sports施設にも、法規制の地雷が埋まっており、少しでも誤るとゲームカフェ、ゲームバー、e-Sportsイベントホールが一斉に消える可能性があると話す。
その顕著な例として、今年4月に大阪にあるゲームバー3店舗が、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)から家庭用ゲームソフトの無許諾上映の指摘を受けて閉店したことがある。
日本の多くのゲームバー、ゲームカフェは、風営法に抵触していることがこの事件の背景に存在する。
日本ではゲームセンターなど、ゲーム機を設置している施設は風俗第五号営業の許可を取る必要があるが、多くの施設はさまざまな方便を使い、無認可で営業している。
木曽氏は、それらの施設の言い訳の例を3つ挙げ、それでも法に抵触する恐れがあると警鐘を鳴らす。
- ゲーム機は客の私物(預かり物)である
- インターネットカフェである
- あくまで会場は多目的の貸しホールであり、e-Sports大会は他の業者がゲーム機を持ち込んで開催しているものだ
1はゲームバーでよく使われる方便だが、「ゲームバー」という看板を掲げて販促をしてしまうと、ゲームを目的とした施設になるためアウト。
2は、PCゲームの大会を開く会場が使うもので「インターネット閲覧を主目的とするPCに、ゲームがインストールされていた」という説明だ。
しかし、これも1と同じく販促に「ゲーム」という看板を掲げてしまえば成立しなくなる。
3は、e-Sports大会を開く会場の多くで使われている言い訳であり、一見すると問題ないように聞こえるが、木曽氏によると、最も危険であるという。
これは、同様の手口で飲食店として営業許可を受けた会場に、他の業者がDJブースなどを設置しダンスイベントを開催したという名目で営業し、摘発された六本木のナイトクラブと酷似している。
つまり、同じ場所で開催され続けている限り、会場と主催者が別名義であっても同一と見なされるため、この言い訳も通用しない。
ちなみに同様の理由で、会場を借りてのe-Sportsイベントは、3日間以上、同一の会場で開くことができない。
ゲームシーンの盛り上がりに応じるようにゲームバーやe-Sports施設が、次々とできているが、法的な部分が曖昧なままに急ピッチで営業を開始してしまっているという施設も少なくない。
実際に、無認可でゲーム機を設置していたダーツバーが一斉摘発された例もあるため、いつ警察の捜査がゲーム施設に及んでもおかしくないのだ。
これらの問題をクリアにするためには、素直に風俗第五号営業の要件を満たして、認可を取るのがもっともシンプルな方法だと木曽氏は話す。
一方で、山本氏は、風俗第五号が適用された場合、ゲームセンターと同じく営業時間に制限が発生するという懸念を示した。
JeSUに期待されているのはロビー活動
たとえ賞金の問題がクリアになっても、e-Sportsに関わる問題はいまだ山積というのが現在の状態である。
ここまで話を聞いて、筆者が思うのは、現行の法の枠組みの中では、どんなに立ち回っても結局は詭弁をろうしているだけにすぎないということだ。
メーカーやユーザーからすれば「こういうガイドラインで開催すれば適法」という安心感を与えてほしい。
日本国内でe-Sportsの大会を安定して開催するためには、官民一体となった動きが必要だと両氏は語る。
そのため、JeSUに求められるのは、法整備を進めるためのロビー活動であり、国内での法整備、そして日本のゲームタイトルを五輪などでの採用に向けての働きかけだ。
そのほか、大会の配信についても、ゲームを配信するという行為には様々な権利者が複雑に絡んでくる。それこそ、メーカー側に近い位置に立っているJeSUが整備していく必要が生じてくる。
しかし、これらの活動は辛抱強く泥臭い活動が必要となるのは確か。そのため、JeSUの体制が整い、進んでいくことへの期待を寄せた。
ガチャ禁止に止まらないベルギーの法規制の影響
続いての話題は「ゲーム依存」。
今年1月にWHO(国際保健機関)から、ゲームによって日常生活が困難になる症状を「Gaming disorder(ゲーム障害/ゲーム症)」として、精神疾病に加える見通しであることが発表されている。
ゲーム依存といっても、借金をしてでもゲームに金を使ってしまう「課金依存」と、ゲーム内のコミュニティの居心地のよさからゲームをやめられなくなる「関係性依存」の2種類だ。
近年では、前者の「課金依存」の問題が、世界規模で重く見られ始めており、「ガチャ(ルートボックス)」への規制が叫ばれはじめている。
もとからEUでは、換金可能なゲームデータを有価でランダムで提供されるものを賭博とみなし規制するダッチレギュレーションが適用されてきた。
そのため、ユーザー間でアイテムの交換を禁じるなど、RMTが行えないようにゲーム側で対応すれば、EU内でのゲームの運営を行うことは可能だった。
しかし、4月25日にベルギーで、RMTの可否に関わらず、ルートボックスで提供することそのものが賭博とみなされるという警告が発せられた(ベルジャンレギュレーション)。
これは、換金性の有無に関わらず、ルートボックスを引くためにかけた金額が適正にユーザーに還元されなければならないという判断によるもので、ユーザーからすればありがたい話ではある。
しかし、これはルートボックス規制だけに留まる話ではないと山本氏は説明する。
このベルジャンレギュレーションでは、ゲーム内のデジタルデータに対して財産権(自由に利用・収益・処分)が認められなくなり、自由にゲームデータを動かせなくなる。
さらに、EUのユーザーの資産が他の地域に流出するのを防ぐため、EUユーザーと他の地域ユーザーを厳格に分ける必要が生じ、同一のサーバーに接続してゲームに参加した場合、罰せられる可能性もある。
ダッチレギュレーションとベルジャンレギュレーションのどちらが適用されるかは8月のEU議会で決まるが、ベルジャンレギュレーションが認められた場合、ゲーム運営側に多大な負担がかかることは避けられないのだ。
ネトゲ廃人と借金ガチャ
EUでは、ガチャ規制に端を発した問題がここまで重篤化してしまったが、日本も例外ではない。
ゲーム依存が精神疾病に加えられると、定義次第では日本のゲームユーザーの多くがゲーム依存と認定される可能性があり、その数値をもってゲーム規制が進む恐れがあるのだ。
一方で、山本氏によれば、ソーシャルゲームの場合、ユーザーのデータをトラッキングできるため、もっと明確に数字を把握できると説明する。
ゲーム依存と定義されるのは9〜10万人になると言われており、「課金依存」は7万人、「関係性依存」は、2万人と言われている。
かつて「ネトゲ廃人」と言われた後者の多くは、社会復帰を果たし、減っているという。
これを多いと見るか、少ないと見るかは人によって意見がわかれるが、この手の問題において、依存症を認めさせたい側は数字を大きめに見積もってくるパターンが常。
そして、大げさな数字を前に判断がぶれて、まさかというような法案が生まれてしまうことは、これまで何度も目にしてきた。
ゲームに依存するというのは、それだけそのゲームが面白いということでもあり、我々ゲーマーは「依存できるゲームを探したい!」と思っている側面もある。
しかし、そんな状況に安穏とせず、メーカー側も長く遊びすぎているユーザーに対して警告をするなどプロセスを経なければ、世論がどう傾くのかわからないと警戒せねばならないところだ。