来たる5G回線とは?(前編)各イベントで体験した実証実験【第50回: 西川善司のモバイルテックアラカルト】

6月は台湾でのCOMPUTEX、ロサンゼルスでのE3と連続で海外取材が続きまして、日本にあまりいなかったこともあって、また少し間が空いてしまいました。今回のテーマは、以前から編集部から要望されていた「第5世代移動通信環境」(以下、5G)の話題。ゲームファンにとっても恩恵の多い技術ですので、注目してもらえればと思います。

ゲームファンにとっての5Gの恩恵

難しい話は後回しにして、ゲーマーにとって気になる「5Gがゲームファンにどんな恩恵をもたらしてくれるのか?」についての話を先にしましょう。

2018年1月にNTTドコモは、バンダイナムコの人気3D格闘ゲームの最新作『鉄拳7』を2台のWindowsパソコン上で動作させ、1プレイヤー側は5G回線(無線)、2プレイヤー側は光回線(有線)を利用してインターネットに接続して、互いに対戦させるデモを披露しました。

公開された5Gオンライン対戦システムのイメージ

光回線プレイヤー(2P)側のパソコンは、普通の1Gbpsのイーサネットアダプタで直接インターネットに接続されている状態でした。

対する5G回線側(1P)のプレイヤーのパソコンも、有線LAN接続で5G回線移動端末テスト機に接続され、その通信データはこの機械に備え付けられたアンテナから発信されているような仕組みでした。そして、これを同じブース内にある5G回線基地局テスト機が受信し、これをインターネットへ流し、光回線プレイヤーがこれを受け取るという構図です。

左側の機械が基地局で、右側の機械はいわば5G通信モジュールである。向かい合う白い直方体がアンテナ。無線通信はわずか1m前後で向かい合うこのアンテナ間だけではあるが、一度データは電波として送出され、これをさらに受信側で復号している

このときのデモシステムでは、無線伝送は4×4のMIMO(送受ともにアンテナは4本ずつ)によって行われ、安定した10Gbpsの通信が実現できているとのことでした。

実際に筆者は5G回線側でこのデモシステムでプレイさせてもらったのですが、確かに有線LAN接続とプレイ感覚はほとんど変わらない印象でした。

5G回線を使った『鉄拳7』インターネット通信対戦を楽しむ筆者

「遅延が1ms未満」「理論通信速度10Gbps」ということになると、現在の光回線のスペックに優るとも劣りません。実際、NTTドコモの担当者も「5G回線時代になれば、携帯電話回線を使って格闘ゲーム、音楽ゲームが不満なくプレイできるようになるだけでなく、クラウド側で頭部の動きまでをリアルタイム追従させたVRコンテンツ配信までを行えるようになると思います」と自信を見せていました。

「5Gは低遅延で通信性能が上がるだけ」ともいわれますが、これまでは据え置き型のゲーム機やパソコンでしか楽しめなかった高度なオンラインゲームが楽しめるようになりますし、もしかするとこの5Gの特質とモバイル端末の機動性を組み合わせた、まったく新しいモバイルゲーミングの楽しみ方が創出される可能性もあります。

5Gで実現される3つの通信性能

では次に、そもそも論として「5Gとはなにか?」について簡単に解説していこうかと思います。

次世代携帯電話ネットワークとして開発されている5G回線では、新技術の活用と導入により、以下の3つの特徴が実現される見込みです。

  1. 安定した同時端末接続回線

  2. 理論性能値最大10Gbps以上の超高速通信

  3. 1ms未満の超低遅延通信

大手通信事業3社の現在の5Gプロジェクトのイメージロゴ

「安定した同時端末接続回線」は、現在の4Gで課題となっているユーザー密集状況下での安定した接続と通信維持を実現するものになります。

通信事業者各社は、2020年の東京オリンピック会場の大群衆が詰めかけた競技場における安定したユーザー間通信を実現させたり、災害時などの混雑時にも安定した情報提供を行うことを目的として(1)は特に重視しているようです。

「理論性能値最大10Gbps以上の超高速通信」と「1ms未満の超低遅延通信」は、次世代通信の性能要件としては一般ユーザーにもわかりやすいものだと思います。

理論性能値最大10Gbps以上の超高速通信は、以前よりも短時間で大容量のデータを送れるようになるということです。ロードマップ的には20Gbps以上の伝送帯域を目指しているというから相当なものです。

1ms未満の超低遅延通信は、以前よりもさらにリアルタイム性の高い用途に移動体通信を応用するために待ち望まれてきた5G特有の要求性能です。現在、この超低遅延性能はIoTや自動運転技術はもちろん、VR対応映像のリアルタイムネット配信という新コンテンツの提供実現においても欠かせない要素として期待されています。

5Gを支える基礎技術

続いて5Gはどのような基礎技術によって実現されているのか、そのあたりを見ていきましょう。

無線通信回線をある1つの伝送路として考えた場合、これを大勢で多目的に共有しながら活用してきたのが3G以前までの考え方です。

4Gからは「MU-MIMO」(Multiple-User Multiple-Input and Multiple-Output)と呼ばれる技術を用いて、同一周波数帯内での実効データ伝送速度を最大化を行っています。

5Gでは、このMU-MIMOの考え方の多重性を拡張します。MIMOは、最近の無線ルーター製品でもなじみ深いキーワードですよね。

MIMOの動作概念。MIMOは複数アンテナでデータを送受できるようにして仮想的に通信路を拡大する技術。MIMOは最近のWiFiルーター製品にはよく搭載されている機能である

MIMOは同一の電波の周波数帯においても、複数のアンテナを用い、送りたいデータをアンテナの数分だけ分割して各アンテナから同時送受する仕組みです。そんなことをすると混信してしまいそうですが、複数アンテナの各アンテナから送出されるデータ同士には強い相関関係があるように工夫してあるため、受信側で数学的に分離することができます。この仕組みを応用して仮想的に伝送路を拡大するのがMIMOです。

そしてMU-MIMOは、MIMOを複数ユーザーで利用できるように拡張したもので、MIMOで仮想的に拡大された伝送路を、通信中は各ユーザーがこれを自分だけの回線として独占利用させるようにするものです。

MU-MIMOの動作概念。MIMOで仮想的に拡大された通信路を複数ユーザーで効率よく利用する仕組みがMU-MIMOである

また、5Gでは伝送データの種別によって伝送路を切り分けたり、より高周波数の電波帯も利用することで伝送路の拡大を狙います。なお、低遅延は伝送帯域の拡大に合わせた通信パケットの最適化によって実現されます。

詳細を省いて、5Gを簡単にまとめると以上のような感じです。次回は「ニコニコ超会議2018」で行われていた5G回線の実証実験について解説したいと思います。

5G回線を用いた4台の4Kカメラによる映像のリアルタイム配信実験や、時速300kmで走る日産GT-Rを用いて行われた高速移動環境下における5G回線の安定性検証の話題をお届けします!