ノホタンのメガネの奥に秘められた正体に迫る
二枚刃チェーンソーによる多段攻撃で、多くの敵を葬ってきたヒーロー「双挽乃保」。
倒したと思ったら、あとに残されたチェーンソー爆弾で道連れにされたなんて経験をした人も多いだろう。
女子高生とチェーンソーという組み合わせがなぜ生まれたのだろうか。そして、なぜノホタンは戦っているのか、その内面に迫った。
キレキャリオン
チェーンソーは林Pの趣味!?
ノホタンは、アタッカーのロール第1号として誕生したヒーロー。そのため、キャラクターデザインもNHN PlayArt社内で行われた。
林Pは「かわいい女子高生がチェーンソーを持っていたら面白いな、というイメージからスタートしました」とノホタン誕生について明かす。
まだ、開発初期で、デザイン先行で進められていたこともあり、チェーンソーという武器が先に決まり、そこから連続攻撃のアタッカーというようにゲーム内の動きも決まったという。
「チェーンソー」と「女子高生」という組み合わせから、怖いセリフを言ったと思えば、かわいい発言をするなど「二面性」を意識した性格付けを行ったという。
「ゲームでチェーンソーが武器に選べたら、必ず使う」というチェーンソー愛を持つ林P。
二枚刃にしたり、爆発させたりとチェーンソーを使った遊びの要素を追加していったという。
なお、以前のインタビューで、スキルカードに描かれている学園が、ノホタンが通っている学校という設定が明かされている。
チェーンソーを持っているようなノホタンは、ちゃんと学園生活が送れているのか心配。そのことをズバリ林Pに聞いてみた。
「カードの絵柄のように、乃保が通っている学園はどこか『スゴイ』人が集まっている学校という設定です。
なので、チェーンソーを持っている女の子がいても受け入れられているんじゃないかな(笑)」
新進気鋭の作曲家ポリスピカデリー
ノホタンの音楽を担当したポリスピカデリーは、2015年9月にONE(オネ)による楽曲「プロトタイプ宣言」でデビューした作曲家。
実際に人間が歌っていると錯覚してしまうような自然な歌声と、クオリティの高いバンドサウンドのオケでニコニコのボカロファンの度肝を抜いた。
プロトタイプ宣言
彼が音楽活動をはじめたのは中学時代。兄弟の影響で聞いたロックをきっかけに、ギターを弾き始めた。
その後、バンド活動などを経て、作曲やDTMの技術を身に着けていき、2015年5月ごろからポリスピカデリーの名でWeb上で自身の楽曲を公開しはじめたという。
最初は、インスト曲の発表を行ってきた彼だったが、ある日、音楽雑誌で初音ミク特集を目にする。
もとからVOCALOIDの存在は知っていた彼だったが、雑誌の特集を読むうちに、自分でもVOCALOID楽曲を作ってみようと思いたつ。
そして、調べていくうちに入門として調声のしやすさに定評がある音声合成ソフトウェア「CeVIO(※1)」のONEの存在を知ったという。
※1 CeVIO:名古屋工業大学が開発した「MMDAgent」から発展したプロジェクト。会話と歌声の両方の作成が可能で、録音した声をつなぐVOCALOIDなどと異なり、人間が声を出す過程をシミュレートした音声作りが特徴。読み方はチェビオ
そして、4曲目では「UTAU(※2)」の闇音レンリを起用した「曖昧さ回避」を発表。
※2 UTAU:飴屋/菖蒲が公開している音声合成ソフト。実質フリーで利用可能で、自分や他人の50音を録音して、自由に音声ライブラリに登録できるため、有志による無数のライブラリが存在する。
曖昧さ回避
闇音レンリの起用は「デモとして投稿されていた曲を聞いて、この音源を使ってみたい!」と思ったことがきっかけだという。
ここでも見事な調声技術を発揮。「曖昧さ回避」はニコニコ動画のVOCALOIDジャンルでランキング2位。続いて発表した「Cynic」は1位に輝く。
生身の人間が歌っているとしか思えない楽曲には「伝説のレンリマスター」のタグがつけられた。
Cynic
ポリスピカデリーの、まるで人間が歌っている調声にはひとつの特徴がある。
6作目「Suger Guitar」をヘッドホンで聞いてみてほしい。
Suger Guitar
ボーカルが歌詞の区切り区切りで息継ぎ(ブレス)をしているのが聞こえるはず。
本来、人工の歌声に呼吸は必要ない。
この意図についてポリスピカデリーは、「あくまで錯覚だが、ブレスが入ることで、歌に気持ちがこもる」と話す。
同じ「アー♪」という歌声でも、「(スーッ)アー♪」という呼吸音を入れることで、感情がこもっているように聞こえる。
ポリスピカデリーによると、感情を込めた歌い方が苦手なVOCALOIDに、気持ちをこめるための手法なのだという。
なお、ブレス音は、音源付属のブレス素材を歌声の前後に直接入れており、その工夫が「本当は人が歌っているんじゃないか?」と錯覚するようなポリスピカデリーの音楽を生み出しているのだ。
初・初音ミク作品は時間との戦いだった
そんなポリスピカデリーが『#コンパス』のテーマソングの作曲にあたって、開発から渡されたのは双挽乃保のイラストとキーアイテムだったという。
「彼女のメガネ、実は目が良すぎるのを抑えるための逆補正メガネなんですよ」とポリスピカデリーは裏設定を明かす。
最初の打ち合わせでは、「ゲームやキャラクターによらず、普段の投稿曲のノリでも良い」「チェーンソーやメガネなどのアイテムを連想させる歌詞を入れてもいい」というようなことが伝えられた。
「開発中のゲームの動画を見せていただいて、バトルに合うロックでいくことに決めました」
そんなポリスピカデリーだったが、『#コンパス』の依頼を受けた時点では、厳密な意味ではまだボカロPではなかった。
初音ミク、KAITO、GUMI、IA、さとうささら、ONE、重音テト、闇音レンリ……現在、ニコニコ動画のVOCALOIDカテゴリには、多彩な音声ライブラリの楽曲が投稿されている。
これらのなかで厳密にVOCALOIDと呼ばれるのは、ヤマハが開発した音楽合成技術によるライブラリのみで、「ボカロP」とはこれらの歌声を使って楽曲を発表している投稿者を指す。
そのため、ONEと闇音レンリの楽曲しか投稿していないポリスピカデリーは、まだボカロPではなかった。
『#コンパス』の依頼を受けたのは、2016年8月。ちょうど初音ミクV4Xの発売時期が近付いている頃だった。
「初音ミクでの楽曲を作るなら、このタイミングしかない」そう思ったポリスピカデリーは、双挽乃保のテーマソングのボーカルを初音ミクを起用することを決断した。
しかし、初音ミクV4Xの発売日は8月31日。その1週間後に、テーマソングのデモの提出しなければならない。
「初めて使うソフトだったので、オケだけ先に作って、ドキドキしながら初音ミクの発売を待っていました」と当時を振り返る。
CeVIO、UTAU、VOCALOIDという3つのソフトについて、聞いてみた。
ポリスピカデリーによると、CeVIOは作曲者があまりいじる必要がなく、そのままベタに打ち込んでもきれいに歌ってくれる優秀なソフトである反面、調整してもそれほど変化がないという。
UTAUは、CeVIOとは逆に何も調整しないとひどい歌声になってしまうほか、元がフリーのソフトのため、操作を覚えるために、いろいろと調べなければならない。
しかし、丁寧に調整していけば、見違えるような美しい歌声が出せるソフトでもある。
そして、VOCALOIDは、製品として扱いやすさを持ちながら、作曲者が調整できる余地をわざと残している。
ボカロP同士で調声技術の情報を共有するなど、カスタマイズする楽しさもあり「奥が深いソフト」とポリスピカデリーは評する。
初めての初音ミクの調声に苦闘しながらも、無事、ファーストデモが完成した。
コンセプトについて、ポリスピカデリーは「スマートフォンで遊ぶゲームなので、あまり細かい歌詞よりも、聞いていて耳に残るような曲と歌詞にしようと思った」と作詞作曲の意図を明かす。
サビは、聞く人に印象を残すというため、意味の無い単語を繰り返すことを狙った。
「ファーストデモの段階では、サビは『Get It Out』って歌っていたんですよ」
最初は、「ゲリラッゲリラッ」と繰り返すサビであったが、響きの重さがぬぐえなかった。
そこで、「斬れ Carry On Carryalion」という造語を交えた歌詞を作成。チェーンソーに絡めた「ギャリギャリに刻んで」といった歌詞も相まって、切れ味のある歌詞が誕生した。
キレキャリオン
ポリスピカデリーに、「双挽乃保」に抱いているイメージを聞いてみた。
「彼女のテーマソングを作るときに思い浮かんだのは、自分で好き好んで切り刻んでいるわけではなく、何か重たい運命によって、斬り続けなければならないヒロインという像でした。
ノホタンは寂しがり屋なんだろうなとも思います。なので、ユーザーのみなさん、ぜひ彼女を使ってあげてください」
声優・近藤玲奈に聞くノホタン像
これまでは、キャラクターデザインを担当した絵師やテーマソングを作曲したボカロPにインタビューをしてきた。
しかし、ヒーローを形作るうえで欠かせない要素がもうひとつある。それは、ヒーローの「声」だ。
今回、ノホタンの声を演じた近藤玲奈さんに、どのようなイメージで彼女の声を演じたのか話を伺った。
まず、近藤玲奈さんも『#コンパス』を遊んでいるプレイヤーでもある。まずはそんな彼女のプレイスタイルについて聞いてみた。
「一番、よく使うヒーローはもちろんノホタンです。たまに気分転換で、ガンナーで遊びたいときはリリカを使うことが多いです」
バトルアリーナもプレイするが、妹と一緒にカスタムバトルで対戦を楽しむことが多いという。妹と一緒にプレイする姿を想像するとほほえましい。
「妹は小学生なのですが、大人から子どもまで一緒に遊べるのが『#コンパス』の魅力です。
ヒーローも個性的ですし、ボカロPの豪華な作曲陣による音楽もステキです。いつもバトルをしていて、気持ちも盛り上がります」と『#コンパス』の魅力を話す。
VOCALOIDファンという近藤さんに、「キレキャリオン」の感想をうかがった。
「VOCALOID楽曲が大好きだったので、自分が演じたヒーローにテーマソングがつくなんて夢のようです。
ポリスピカデリーさんは以前から聞いていたのですが、初音ミクで初めての曲はとても新鮮でした。
サビの盛り上がりがステキで、カラオケでもいつも歌わせていただいてます!」
そして、彼女にノホタンを演じた時の第一印象を聞いてみた。
「イラストだけを見たときは、学級委員長のようなクラスの優等生のようなキャラクターかなと思っていたのですが、セリフの台本を見たときに驚愕しました」
収録時に教えられた設定は、台本とイラストくらいだった。「あとの設定は、『デレないヤンデレ』というくらいしか教えてもらえなかったんです(笑)」と当時を振り返る。
「台本に、『早口で話す』と書いてあったのですが、複雑なセリフを一息でしゃべるのは大変でした。
最初、低めの声で怖い感じのキャラクターかなと思ったのですが、『ガチで怖いので、もう少しかわいい声でお願いします』と言われてしまいました(笑)」
そこで、怖いとカワイイのちょうどよい落としどころを探るようにしながら、現在のノホタンのボイスは吹き込まれていった。
「どのセリフも印象的なのですが、『私のこと好きなの?そんなのおかしくない?でもうれしい』というセリフがかわいらしくて好きです」
最後に『#コンパス』ユーザーに向けて一言いただいた。
「ノホタンは、一言で表すとヤンデレではなくて、ヤンカワ(病んでる&カワイイ)です。
物騒で、いつもチェーンソーで脅されているかもしれませんが、使いやすくてかわいい子なので、使ってあげてください!」
近藤さんのプレイは「∞(まるまる)推し」をチェック!
今回、近藤さんの話を伺うため、NHN PlayArt社内で収録されている「コットン太郎のゲーム×エンタメ『∞(まるまる)推し』」の収録現場にお邪魔させていただいた。
近藤さんのほか、ゲストにはアメリカザリガニ平井さん、声優の山下まみさんを迎え、ユーザーと『#コンパス』の対戦をプレイ。
その腕前は生放送のアーカイブをチェックしてほしい!
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