[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第55回: JeSU発足に思うこと(前編)

4年ごとのスポーツの祭典オリンピック。この原稿を書いている今も韓国平昌で冬季オリンピックが開催中だ。記憶に新しい夏季オリンピックは、2016年ブラジルのリオデジャネイロで開催されたが、開催日直前までスタジアムや関連施設の工事の遅延、中心地の犯罪率の高さなどが報道された。おそらく、さまざまな支障や事件はあったにせよ、世界が注目する中で無事開催され、無事に閉幕した。しかし、当時のオリンピック関連室はすでに廃墟然と化したものもあるというが、何かを推進する力とそれに注力した人々がおり、その結果としてオリンピックレコード(記録)が残り、そして選手(人)はそれを塗り替えるために不断の努力を重ねることだろう。

現在の日本のeスポーツを取り巻く環境は、発展途上だと思う。

eスポーツという呼称は大袈裟だが、もともとはそれぞれのゲームコンテンツのプレイヤーや各地のコミュニティーから発生したものだ。それらのルーツは、私がセガに在職した1990年代の前半に遡ることだろう。

各ゲームセンターに腕自慢のプレイヤーがいて、そのプレイヤーたちを一堂に集めてローカルチャンピオン、またはワンナイトチャンピオンを決するというのが当時の流行りだったと思う。それが正常進化し、さらには2000年代に入りネットワークゲームが作り上げたものが現在のeスポーツにつながっていると思う。

ここに至る途中のタームは少し端折るが、10年ほど前から海外からのトレンドとしてプロゲーマー、eスポーツという名称が 海外を中心に一般的な呼称になってきた。

それに応じて、「日本eスポーツ協会(JeSPA:2015年発足)」「e-sports促進機構(2015年発足)」「日本eスポーツ連盟(JeSF:2016年発足)」が、それぞれの主義主張のもと設立され運営、現在に至ったものだ。

そして、2018年2月1日、これら3つの団体を統合(以降は個別活動は終了)して設立された団体が「一般社団法人日本eスポーツ連合」(JeSU:Japan esports Union)だ。この発表会に参加し、会見を進む中で私が疑問に思ったことがあり、最後に用意された時間で質疑応答もすることができた。しかし、短時間であったために、その疑問のすべてクリアになったわけではない。

2月1日に開催された一般社団法人 日本eスポーツ連合発足発表会にて登壇した理事たち。JeSU副会長のGzブレイン代表取締役社長浜村弘一氏(右から3人目)、JeSU会長のセガホールディングス代表取締役社長岡村秀樹氏(左から4人目)

以下に、この会見で私が行った質問と回答の要旨を記録しておく。

--プロゲーマーライセンス認定にはお金がかかるのか。そして、JeSUはその収益を基にした運営団体になるのか?

JeSU:プロゲーマーライセンス認定費用は、個人情報やそれらを管理する実務があるので、コストとしてわずかばかりの金額をいただくことなる。また、社団法人という組織から社員が必要という前提で、それらの金銭をいただくことを収益となる。

--JeSUが認定する以外にも、大きなeスポーツの大会はすでに存在しているが、それらはJeSU認定されないと大会として認められないか?

JeSU:それぞれが一定の条件を満たせば認定の大会として承認することになる。条件とは遵法、安全性などさきほど挙げたような条件を守っていただければ大会認定はできる。

--海外パブリッシャー作品のプロゲーマーを日本サイドで認定するのは違うような気がする。原則、本国や該当するパブリッシャーが認定するべきではないだろうか?

JeSU:それぞれのIPホルダーが許諾すればプロゲーマーライセンスの認定発行を行う。

以上が、私が当日に行った質問とそれに対する回答であった。

質問に回答する会長の岡村秀樹氏

2つめと3つめに関しては、こちらの質問の主旨と異なる回答であったが、時間も限られた中で、真摯に対応いただけたことは感謝を申し上げたい。

若干捕捉になるが、2つめ質問の主旨は、すでに日本で開催され、実績があるRAGEやEVOなどの大会をJeSUとしてどのように捉えているのかという点が質問の主旨であった。つまり、極論すれば、JeSU認定以外の大会は「野良」大会なのかということであったが、おそらくJeSUが今後、各主催者と調整と協調を行うことで収斂していくことが理想形だろう。

とはいえ、それぞれがすでに独立した形で運営され、一定以上の成功を収めている中で、JeSUの大会認定というものがどれほどのバリューがあるのかというのは懐疑的だ。

3つめの質問に関しても、日本で海外IPのプロゲーマーライセンス認定はナンセンスではないだろうかという私の個人的な疑問からのものだ。

それぞれのお国柄もあり、各IPホルダーの考えが異なることを前提にすれば、今はまだ検討課題だが、これらも今後徐々に調整され解決していくのではないだろうか。

さて、このプロゲーマーライセンスと、このeスポーツを称されるエンタテインメントの未来の可能性はまだ始まったばかりだ。

未来の可能性として語られている「オリンピック正式種目」ということに関して、私は非常に危ういものではないかと考えている。

「遠距離の片思い」的なものを感じる……「遠距離恋愛」ではない。

いったん決まったことを元に戻すことは難しい。これらすべてはゲームとその周辺のエンタテインメントの未来のため、これらの枠組みとその周辺で奔走するスタッフの方々の努力の結晶として認知されていくことが理想だろう。

ビデオゲームそのものをeスポーツとしてスポーツの範疇に取り入れることの難しさはこれから先もゲームコンテンツの特性、そのルール、開催国事情などさまざまなハードルが待ち受けることだろう。

今はまだその歴史は始まったばかりだ。

しかし、すべてが未来永劫続くものでもない、生命流転、生存の法則の中で時代の変化のなかで変わるモノこそ、生きながらえるということだ。

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