[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第70回: e-Sportsの未来のために今やることは……オリンピック種目採用が最終目標ではない

雑誌、新聞、ラジオ、テレビ、そして私が隔週で連載しているゲーム系ニュースメディア、Appliv Gamesなど、すべてのメディアには締切りがある、生執筆というのはちょっと聞いたことがないが、生放送であればその場で起こる出来事を次々と放送すれば対応は可能だ。しかし、よほどドラマチックな出来事が起こらない限り、視聴者の心を掴むことはできないだろう。

2012年から私が企画し、主宰する黒川塾はすでに6年目、63回目を迎えるに至った。毎回そのときどきのタイムリーなテーマで、テーマに即した識者を招聘して開催するものだ。企画書、ゲストへの打診、会場手配、プレスリリース作成と発信、ドリンクや軽食の手配など、思いつくことの大半は自分でやっている。

そして、今回の黒川塾のテーマは、「海外eスポーツ事情とeスポーツの未来に向けて」。

ゲストは、日本にe-Sportsという言葉や文化が浸透していないころ、スウェーデンを始めとするヨーロッパのe-Sports戦線に果敢にチャレンジを重ね、『Counter-Strike 1.6』のレジェンドプレイヤーとなったnoppo(ノッポ)こと谷口純也氏、現在はエヌビディア合同会社にてe-Sportsエバンジェリストとして活躍しており、世界と日本のe-Sportsを語る上での生き字引的な存在だ。

IEF 2008大会参加時の中国武漢20歳

そして、日本はもちろんのこと、従前から海外のe-Sports戦線に照準を合わせ、アジアを中心に現地でのチーム組成、育成、強化に取り組んできたプロゲーミングチームDeToNator代表の江尻勝氏。日本のe-Sportsのいいところも悪いところも、世界のそれもじゅうぶんに知り尽くし、プレイヤー目線はもちろんのこと、マネージメント目線からの思考も備えた知将といっても差し支えないだろう。

2018年5月台湾プロリーグDeToNator Overwatch優勝チーム

そして最後のゲストは、日本では珍しいカジノ研究家としてe-Sports市場、遊技機系市場などに対しては数々の適切な提言を行い、是正を促すアクションを重ねてきた、貴重かつ希少な存在である木曾崇氏を招いて開催するものだ。

2018年4月26日開催の黒川塾59 「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」より

当然ながら、現時点では、9月19日(水)当日にどのような話が展開されるのか予測がつかない。

なぜならば、黒川塾にはシナリオもなければ、事前に根回し的なミーティングもない。私が「このテーマで、この日程で、この場所でやりたいのですが、いかがでしょうか?」とメールやメッセンジャーでオファーし、あとは当日までノーコミュニケーションというケースがほとんどだからだ。

それは、登壇するゲストがそれぞれのプロフェッショナルだからできるという背景もある。こちらも、相応の事前知識や勉強をした上でないと対応できないケースがほとんどで、付け焼刃ではできない。このあたりの開催経緯のことは置いておくとして、今回の黒川塾63で取り上げるテーマは以下のようなものだ。

  1. 日本と海外のe-Sports文化の違い:その成り立ちの背景から現在に至るもの
  2. 海外でe-Sportsプレイヤー戦うときに求められるもの:このあたりは江尻氏、谷口氏ならでは知見があることだろう
  3. e-Sportsプレイヤーのモチベーションの話し:名誉、地位、金
  4. e-Sportsはどこを目指すべきなのか:アジア大会のデモンストレーション競技として開催された「ウイイレ2018」競技で初参加、金メダル獲得の快挙をどのように今後活かすのか?
  5. e-Sportsはオリンピックを目指すものか:各コンテンツの権利関係、コンテンツ内容が常にフラットな条件下での戦いになるのか?

などのテーマが今の時点で思い浮かぶ。

原稿を書いている時点では、9月19日(水)の開催までに時間的な猶予があるので、開催までの期間、ゲストにうかがいたいことは私の方で煮詰めておくことにする。

とはいえ、現時点で毎日のようにe-Sportsに関するニュースが踊る。これも致し方ないことだろう。なぜなら、ビデオゲーム関連で他に社会に問えるようなニュースがないからだ。存在するのは、スマホゲームのアップデート情報、イベントばかりで、さほど変わりは映えしないからだろう。

ちょうど原稿を仕上げようとしていたのだが、IOC・国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長の発言として、

「我々(IOC)は、オリンピックのプログラムに暴力や差別を助長する競技が入ることはありえません」

「我々(IOC)の観点からいうと、(e-Sports)オリンピックの価値観に矛盾しており受け入れることはできません」

「もちろん、すべての格闘競技は実際の対人戦をもとにしています。しかし、スポーツはその文明的な表現となっています。もしあなたが、誰かを殺すようなゲームを持っていたとして、それを我々のオリンピックの価値観と並べることはできません」

としている。指摘はごもっとも……ただ、ここまで明らかな発言がなかっただけにe-Sportsを盛り上げようとしている関係者にとってはちょっとした驚きだったに違いない。

※出展元記事:GamesIndustry.biz IOC会長:オリンピックにe-Sportsはいらない。「Killer Games」は暴力を助長するから

とはいえ、これらの発言でe-Sportsオリンピックへの夢が潰(つい)えたと考えるのも早計だ。それ以前に、解決をしなければいけない問題も数多くある。

それは「暴力」や「差別」以前に、ビデオゲームが誰のものかという問題である。

すでに木曽氏もブログで指摘しているが、オリンピックそのものが「権利」の塊(かたまり)のようなもので、そこに各社のビデオゲームという権利の塊が融合することは難しい。最終的には誰かが、ビデオゲームの権利を放棄できるのかという問題が横たわる。その誰かはいうまでもなく大手パブリッシャーである。

さらにe-Sportsプレイヤーの間では常識だが、それぞれのビデオゲームのパブリッシャーによるチューニングがある。これは年間を通した大会のさなかにあっても、ゲームの不具合調整やバランス調整がパブリッシャー側で随時行われることだ。一般的なスポーツでの例えが難しいが、毎試合ごとにルールが異なる野球で全チーム(選手)が平等で戦えるか……というニュアンスに近い。

これらはビデオゲームのオリンピック採用化への、ほんの1マイルに過ぎないが、みなさんもよろしければ黒川塾63に参加して先に挙げたゲストの生の声を聴いて見てはいかがだろうか。一期一会、すべては貴方自身に係っている。

私の個人的な意見としては、日本は日本のままで成長してくれればいいと思う。無理に「国際基準」に合せなくてもいい。

それよりも、コンテンツを所有する各パブリッシャーや管理団体のJeSUにおいては、野良だろうが公式大会だろうが、「良識」と「向上心」のあるイベント主催のオーガナイザーたちに、もっと自由度与えて、コミュニティーの育成や大会運営の促進に力を注ぐべきではないだろうか。

そのようにして、今以上に、日本のe-Sportsシーンに熱気が絶えることなく、ビデオゲームのプレイヤーが増えること、そして素晴らしいプレイヤーとプレイスタイルが確立すれば、そう遠くないいつか、IOCから「いっしょにやらせてもらえないですかね」と来るはずだ。

締切りはあれども、その終わりはない。我々、人類の反映が続く限り、4年に一度のオリンピックがなくなることはないからだ。


読者のみなさまへ

70回を重ねた「ゲーム非武装地帯」は今回を持ちまして終了いたします。長らくのご愛読、ご愛顧を賜わりありがとうございました。

編集部のみなさまにも感謝を申し上げます。ありがとうございました。

またどこかで違う形でみなさまとお会いできることを楽しみにしております。みなさまの益々のご健勝を祈念しつつお別れの言葉といたします。

エンタテインメント・コンサルタント
ジャーナリスト 黒川文雄