[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第65回: 中華ゲームの勃興と失速する日本ゲーム

今年も6月12~14日まで、ロサンゼルスでE3が開催された。すでに新しいコンテンツの情報や、新しいハードウェアのスペックなど数多くの報道がなされている。多種多様な発表があったが、2018年もすでに折り返し、2019年にかけてもゲーム産業の話題には事欠かないといえるだろう。

見て、感じて、触ってみなければわからないモノとは

私は、今年のE3へは参加できなかったが、今夏はアジアのゲーム系展示会に注目をしている。

8月3~6日に、中国の上海市で開催予定のChinaJoy、同じく8月8、9日の2日間で台湾の台北開催予定のTaipei Game Developers Forumに参加する予定だ。

アジア系のゲームショウには、韓国の釜山で開催されるG-STAR、シンガポールでのAFAなどを見学したことがあるが、中国本土で開催されるイベントに参加することは初めて。

なぜ、この2つの展示会をハシゴ(上海から入国して、そのまま台湾に移動する予定)することにしたのか。それは、このところ発展が著しい中国本土と台湾のゲームマーケット事情、およびそこで開発されるコンテンツの実態を少しでも見ておきたいというのが理由だ。ChinaJoyはすでに東京ゲームショウを上回る規模と動員を実現している。

総合すれば、中国開発の元、日本で展開される中国系スマホゲームの可能性を実地で見て、感じて、触ってみたいということだ。

好調な中国系スマホゲーム

すでにみなさんもご存じのように、中国で開発され、同国内で展開の後に、日本でもローカライズされて好評を博しているスマホゲームがある。

ちょっと前までは、韓国製のオンラインゲームやスマホゲームが導入され、こちらも多くのユーザーを獲得してきたが、最近は今まで以上に中国(俗にいう中華)系が台頭してきているといってもいい。

遡ると、2015年から配信されているテンセント傘下のCoolFactoryの『戦艦帝国』のヒットがあり、2018年にはゲームカテゴリー全体の中で20位にランク入りを果たした。

そして、最近では『アズールレーン』だろう。『艦これ』の商標である「艦娘」を無断でゲーム広告のキャッチワードに使用したとして、DMMゲームズとの間で物議をかもしたこともある。

『アズールレーン』は開発段階から日本展開を意識していたもの思われ、日本人の人気声優を起用したり、ゲームシステムなども日本のスマホゲームのいいとこ取りの感も否めない。中国での展開開始は2017年5月25日。一方、日本展開は、日本法人を立ち上げた後、9月14日から配信をしている。

ちなみに、このコンテンツのバックアップには中国版YouTubeともいえる「ビリビリ動画」で、こちらもテンセント同様に勢いのあるメディアカンパニーの1つだ。

また、山本一郎氏の連載でも取り上げられた『我が野望』改め『王に俺はなる』も注目といえよう。日本の国民的コミック『ワンピース』の主人公ルフィのセリフのようなタイトルだが、いかにも大陸的な絵柄が郷愁を誘う。中国3000年の歴史を感じろ……といわんばかりだが、ゲーム内容は極めてオーソドックスな、歴史をモチーフとしたゲームに仕上がっている。

中華系ゲーム進出を数字面で検証すると……

私の手元には『2017年 日中モバイルゲーム現況』という資料がある。これによると、「日本から中国に進出したゲーム」vs「中国から日本に進出したゲーム」の対比がある。

日本から中国へ輸出されたスマホゲームとしては、『Fate/Grand Order』を筆頭に、キャラクター系の『火影忍者(ナルト)』『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』『ワンピース出航』『ワンピース強者の道』などが挙げられる。

一方、中国から日本へ輸出された主なスマホゲームは『THE KING OF FIGHTERS ’98ULTIMATE MATCH Online』『あんさんぶるスターズ!』『アズールレーン』『Clash of Kings』『荒野行動』などがある。

これらのタイトルの売上げだが、日本から中国の輸出されたスマホゲームの総合売上げは307億円(そのうち、42%がFate/Grand Orderだという)。一方、中国から日本へ輸出された主だったスマホゲームの総合売上げは417億円となり、中国製が日本製を凌駕し、逆転している。

資料によれば、日本のモバイルコンテンツは月次ごとの売上げの変動幅が大きいが、中国のモバイルコンテンツは右肩上がりと分析してされている。つまり、中国のモバイルコンテンツの特徴は、安定的ロングライフであると位置付けられているのだ。

中国の加工貿易の時代は終わった

さて、これらを踏まえて思うことは2つある。

1つは、すでに中国におけるコンテンツ開発制作のレベルは、別のステージに入ったということ。今の20~30代の方々はよく理解できないかもしれないが、かつて第2次大戦後、日本を支えたのは「加工貿易」という産業だった。

簡単にいえば、戦勝国アメリカからの指示に従い、仕様書や設計図を基に素材を加工して商品を製造し、輸出するという産業形態。そして、この加工貿易を経て、徐々にオリジナリティあふれる家電や商材が生み出されてきた。

では、中国はというと、おそらく1990年代から、日本をはじめとした世界の下請け工場としてフル稼働してきた。コンテンツ面でも同じであろう。

ただ、ゲームやアニメに関わる同業者の間でよくいわれていたのは、「(中国が日本と)同じようなイラストは描けても、コンセプト面やシナリオ面では、まだまだ日本に追いつくことはできないだろう」というものだった。しかし、すでに同等とはいわないまでも、かなり近いレベルにまでそれらのスキルやスペック、ナレッジは高まっているのではないだろうか。

アクティブな中国系コンテンツバイヤー

もう1つは、資金力です。

最近、私のコンサルティング先のゲーム開発会社に、中国からゲームコンテンツ配信の権利を買いたいというバイヤーが訪ねてきた。事前にメールでアポイント要請があり、商談に現れたのは、髪を整えたスーツ姿の2人組。

おそらく、海外への留学経験があると思われ、英語を流暢に操り、ゲームコンテンツの買い付け交渉を進めた。提示金額は顧問先が想定していたものを若干上回り、値引きの要請もいっさいなし。

これは「いいコンテンツならば、お金を惜しまずに払う」というスマートなビジネスマンそのものだった。このコンテンツの中国へのライセンス金額は彼らにとっては、さほど大きなものではなかったのかもしれないが、今、日本で同じような金額を出資してくれるスポンサーやパブリッシャーを探すのには時間がかかることだろう。

それらをして、中国の底力などというつもりは毛頭ない。単に、歴史は繰り返すという事象がコンテンツというカテゴリーで起こっているだけのことだ。

私は事務所を秋葉原に構えているが、おそらくこの街を始めとして、多くの街が中国人観光客なくしてはやっていけない状況があると思う。遅かれ早かれ、同じようなことはコンテンツ面でも起こることだろう。

そのときは、私たちもかの国のコンテンツから学ぶべき何かを吸収しなければならない。このの気持ちを新たにするとともに上海、台北での新しい出会いに期待を弾ませている。