総員、我が名はケンラウヘル。すなわち反王である。
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本日は前回の後編。
ちょっと先に言っておく、書いていたら非常に長くなり過ぎ、終わりが見えなくなってしまったのでだいぶ端折らせてもらう、すまん。
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■行動
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唐突にその日に決まった我の行動。
今から支度をしなくてはいけない。
支度というよりも、まずは家族に何と言うか。
ちなみに家族に対してはゲームをしているということは伝えていない。
自然だ。
自然体で話せばいいだけの話だ。
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彼には最寄駅だけを聞き「了解」とだけ伝えてSkypeを切る。
都内からその駅までの道のりをYAHOOで調べる。
現在は昼過ぎ、新幹線から在来線を乗り継いだとしてもかなり遅くに到着することになる。
金額も思った以上に高かったが、バイトで貯めた金がある。
所詮バイト代といっても、その8割がネットカフェ代に消えることになるので、使い道としてはそちらの方が健全だ。
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本当にこの流れで行って良いものか、そもそも何故こんなことをせねばならぬのか。
こういう時は理屈を考えると負けだ。
間違いなく足が止まり、面倒臭くなってしまう。
リネージュで「おつー」と血盟チャットで打ち込んだ後、パソコンの電源を切る。
その立った勢いのまま親のいる台所へ行き、一言だけこう伝える。
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「今日は友達の◯◯の家に泊まりがけで遊びに行ってくる」
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我は嘘を付くのが下手だ。
下手に色々と小細工するよりも、シンプルな方が怪しまれずに済む。
リュックサックに入れるのは1日分の着替え。
行くことを伝えてから5分後には家を出ていた。
そのままの勢いで東京駅へ行き、新幹線の切符を買い、そのまま西へ向かう。
何度も言うが、なんせ15年以上前の話、細かいことは覚えていない。
当初スマホなどもない状況で我は新幹線で何をしていたのだろう。
今は移動の際はスマホがあれば何だって情報が入る。
MDで大好きな氣志團の音楽でも聞きながら電車に揺られていたのだろう。
あとは血盟ノートだったろうか。
血盟の財政状況やレベル、血盟員の管理などをノートを使って管理していた覚えがある。
あとは狩り効率のこととか、次の攻城戦のこととか。
ああ、思い出した。
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攻略本なんか見ていた気がする。
一つだけ確かなのは、長い新幹線の道のりの中、小旅行だというのに頭の中はリネージュ漬けだった事か。
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■初対面
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新幹線のとある駅から降りて在来線を乗り継ぐ。
在来線だけでも2時間くらいか。
都内生まれ都内育ちの我にとっては、在来線の乗り継ぎ方などもさっぱり分からず、かなり手こずった覚えがある。
彼の家の最寄駅に着く頃には辺りは真っ暗になっていた。
真っ暗というのは「空が暗い」とかではない。
まさしく暗黒。
駅の周りというのは大体街灯が立っていて、都内のようなビル群ではなくとも住宅や緑やらが立ち並び、その間の道を照らすように街灯が並んでいるものだ。
しかし、あるべき街灯は駅前のロータリーもどきの近くに1本あるだけで、その他は全く何も見えない。
駅自体も物凄い小さく、無人駅ではないにしろ駅員がポツンと一人切符を切っていたくらいのもの。
駅の街灯から先は道も何も見えない。
道どころか車も通っていないので、まるで目隠しを食らっているかのよう。
人影は全くない、のだが、一人だけ街灯の下のベンチに座っている少年がいた。
夜も遅く、こんな時間にいるのは彼しかいないだろう。
何故か確信めいたものを持っており、一直線に彼めがけて歩みを進める。
ベンチから立つ少年。
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「おう、少年」
「おう、ケン」
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聞き慣れたAの声が直接耳に入る。
背は170cmもいっていない、どちらかというと小柄、ショートカットの金髪。
縁のない眼鏡をかけており、シルエットがとんでもなく細い。
そのガリガリっぷりはちょっと心配になる程、デコピン一発で吹き飛んでしまうのではないかと思うくらいだ。
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オフ会は沢山参加してきたし、主催してきた。
色々な人も出会ってきた。
だがいつも思うことは、やはりリアルで初めて会うと何故か笑みが溢れる。
それはAも同じであった。
お前こんな感じだったのかよ、お前こそ思ってたよりでかいなおい、よくその指でマウス押せるな、俺だったら折れるわ。
そんな馬鹿げた会話だ。
この初対面のタイミングというのは何か特別な時間だ。
いつもの聞き慣れた声、ノリ。
だが頭に浮かんだイメージと実際の姿のギャップがまた面白い。
違和感とも違う、何とも不思議な感じ。
リアル繋がりで初めて会う人に挨拶をするときも勿論笑顔なのだが、そういう愛想笑いともまた違う。
でも何故か笑顔になってしまうという感じ。
うまく表現できないのだが、この度に楽しくなるのは今も変わらない。
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「ってか本当に来たのか、こんな田舎に」
「約束したからな、まぁフラッと遊びに来ただけさ」
「フラッと来れる所じゃねぇよここwww」
「まぁ、田舎田舎とは聞いてたけども、正直に言う、田舎過ぎて若干引いてる」
「だろwww」
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我はその時気が付いた、何故彼と直接会って話そうとしたのか。
ネットゲーム、ボイスチャットというのは顔が見えない。
チャットや文字だけでは相手の真意が見えないものだ。
相手が例え上機嫌だったとしても、そこから伝わる感情は全て受け手に委ねられる。
受け手の気分次第だ。
でも実際に顔を合わせて話すことで、初めて相手のリアクションや意図、感情というのが分かる。
そういうやり取りを望んでいたのだ。
この初対面における独特の楽しさに便乗する形で話すことによって、彼を「アップ」に持っていくのだ。
アップ状態の彼と話すのは楽しかった。
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立ち話は思った以上に花が咲いた。
昨日の傲慢の塔でゼニスからこんなレアアイテムが出た、あの狩りの時にあいつが寝落ちしやがってさ、そうそうこの前あいつと忘れられた島行ったらMPKするくらい引いてきて全滅したんだぜ、あいつエルフなのにドレイクの時だけ確実に密接してくんだよな絶対あいつ古代スクロール着服狙いだろ。
もう尽きることがない。
闇に囲まれた、一本しかない街灯の下でベンチに座りながら尽きない会話をする。
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思い出話も含め、1時間くらい喋っただろうか。
夏前だったのでそこまで寒くはなかったが、どこかゆっくり話せる場所を探した。
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「んでだ、飯を食おうと思ったんだけどさ」
「ここら辺の店、全部19時には閉まってるわ」
「だよな」
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場所を移動するにも何もない、何ならタクシーどころか車1台見かけない。
都内なら居酒屋やらカラオケやら、どこでも店は空いているものだが、ここは田舎、いや、別世界。
当然コンビニなどもない。
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「おいおい、少年、どうすんだ今から」
「いや、俺に聞くなよ」
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いつものノリで漫談のような流れになる。
しかしいつまでもここで駄弁るわけにはいかない。
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「ここってさ、日本海、近いよな」
「うん」
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「んじゃ、海でも行くか」
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■海にて
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海まで近い。
その言葉を信じた我がバカであった。
田舎の近いは信じてはいけないと悟った。
1時間か1時間半か、真っ暗な道を歩かされた記憶がある。
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人間というのは凄いもので、どんな真っ暗闇でも目が慣れると意外と周りが見える。
ポツポツと見える田舎町の街灯や自動販売機の光、そして東京では見られない空に浮かぶ星の光が綺麗であった。
海に着くなりヘトヘトで、自動販売機で買った謎のご当地飲み物を飲みながら、堤防の上で二人で寝っ転がっていた。
ここで彼とは本当に長い時間喋っていた。
リネージュの思い出話から始まり、彼が今どんな状況か、どんな事があったのか。
これもまた15年以上前の話だ、薄っすらとしか覚えていないが、まぁネガティブな話だった。
だが彼も話したかったのだろう、周りに誰も彼の話を聞いてくれる人、彼が話そうと心を許す人間なんていなかったのだから。
まぁ正直「この話、盛ってるな」と感じた部分も無きにしも非ずだったが、そこらへんは我の苦い経験などを踏まえつつ、相槌がてらツッコミを入れながら、延々と語り合った。
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何時間経っただろうか。
既に空は青く、海全体を照らしている時間だ。
これくらいになると、ナチュラルハイになってくる。
頭がおかしくなってくる時間だ。
むしろそこらへんは何を話していたのかも全く記憶にない。
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だが一つだけ覚えている話がある。
ふと左腕に付けた時計に目をやると、5時27分を過ぎた頃だった。
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「おお!ちょうど見たら5時27分じゃん!」
「どこがちょうどだよ」
「見ろ、短針と長針がぴったり重なってる、見た瞬間にこんなことってある?」
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もう既にお分かりだろうが、ナチュラルハイというのは何でも面白くなってくる時間。
二人とも堤防の上で、海方向に足を向けて寝そべった態勢で空を見上げている。
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「次は6時33分かー」
「だな」
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腕時計の右側にある調整ダイヤルを引き出し、回転させて時計を進める。
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「7時37分だろ、8時43分、9時、10時」
「・・・」
「おい、A、聞け、大発見だ」
「何だよ」
「短針と長針が合わない時間を発見した」
「は?」
「11時だ。11時の間は短針と長針が重ならない」
「おう、それは良かったな」
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ナチュラルハイな会話は続く。
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「お前、11時なんだよ、11時。お前は今11時台なんだよ」
「は?」
「どんなことをしても11時台は長針と短針が合わないんだよ、わかるか少年よ」
「はぁ」
「でも時計を進めたら12時で短針と長針が合う、その後は何度も短針と長針が合うんだ」
「何だよそれ」
「もうこれはどうしようもないんだって、重ならないんだもの、11時台は。んでお前が問題なのは、時計止めてんだって、自分で」
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我の言いたいことが少年にも通じたらしい。
渋々答える。
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「俺は進めたいのに、電池が切れてんだよ」
「電池がなければ自分で電池変えろよ」
「電池変えても動かないんだよ」
「じゃあ手動で回せ、長針進めろ自分で」
「ダイヤル回しても無理無理、その時計壊れてっから」
「じゃあちょうどいい」
「何がだよ」
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「その時計、買い換え時だわ」
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こんな、何気ない会話だった。
ドヤ顔かよ、よくその体勢で俺の顔見れるなおい、黒歴史入りだなこのセリフ、煩い眠いんだ馬鹿野郎、そんな感じで揶揄された。
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そのあとのことはどうも思い出せない。
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別れの挨拶も互いに寝ぼけ眼で「またな」と話し、タクシーの中で爆睡し、電車、新幹線共に爆睡、気が付いたら家で寝ていたということくらいしか覚えていない。
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■少年のその後
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彼とはその後もリネージュを通じて楽しく過ごした。
ネガティブはめっきり減り、少しは彼の役に立てた、そう思っていた。
だがネガティブが減るのと同時に、加えて徐々に彼のINも減ってきた。
最初こそあいつ元気かな、リアルうまくいってるのかなと、弟分を心配するような心境であった。
最終的にはいつ頃だったか分からないが、気付いた時には自分を含め彼の話をする者は一切いなくなっていた。
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■連絡
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さて、時は現代に戻る。
このAppliv Gamesでブログ連載が始まって数日後。
Twitterに一件のダイレクトメッセージが来た。
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「間違っていたらすみません、リネージュで◯◯サーバー◯◯血盟のケンさんではないですか?Aです」
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Aという名前を見た瞬間、目を疑った。
15年以上前の記憶が鮮明に膨れ上がる。
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「は?A?あのA?」
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ロールプレイも忘れて打ち込む。
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「はい!いや、あれですね、いきなりですみません。本人証明としてはですね・・・」
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Aと名乗るアカウントから過去の話が数個出てくる。
血盟員の名前だったり、一緒に何したり、中にはAと我しか知らない話も入っていた。
そして最後の一文で我はAだと確信した。
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「一緒に海で語って、時計の話をしました」
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いきなり蘇る、あの黒歴史的な我の発言。
ナチュラルハイだったとはいえ、大学生の小童が発言した内容。
何故この言葉を覚えているか。
Aに会った後によくこのネタでいじられていたからだ。
この「ちょっと上手いこと言ったな俺」と思っていた黒歴史を知っているのは奴しかいない。
だがどうやら聞いてみると、その言葉が色々と彼の人生を動かした切っ掛けになったのだという。
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彼が我に気付いたのはリネージュMが切っ掛けであった。
リネージュがスマホでできるというので興味があったらしく、見つけたら何か反王って人がインタビューを受けていて、さらにはブログを書いている。
Appliv Gamesのブログも見たが、どうやら「反王だもの」というブログをやっているらしい。
見てみると、リネージュ2レボリューションをプレイしていないが面白い。
だがそのブログを見れば見る程「こいつはケンじゃないのか?」という疑問が浮かんできたようだ。
確信したのは我の過去、リネージュで知り合った人の結婚式披露宴に出た時の話。
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ちなみにこのネタは、当時の血盟チャットの鉄板ネタであった。
まさか15年越しに彼と繋がるとは、誰が想像していただろうか。
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■再会
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紆余曲折あった結果、彼がちょうど東京に出張に来ている時間に会う事になった。
とはいえ、互いの時間が合わず、夜ではなく昼に茶でも飲もう、という話になったのだ。
新宿の喫茶店でそわそわしながら待っていると、スーツ姿の男がやってきた。
身長はそんな高くないが、痩せてすらっとして、そして縁なしの眼鏡をかけてる。
ちょっとヒゲをたくわえているものの、明らかにその顔は少年の面影を残していた。
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目が合った時、互いに吹き出し、声を出しながら笑ってしまった。
15年前、あの田舎の駅で初めて会った時と同じだ。
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「ケンwwwwウケるwwww」
「お前Twitterで敬語だったのに会った瞬間にタメ口とはいい度胸だな、元君主様だぞ」
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ここからまたノンストップでの話だ。
もう積もる話も色々あったが、このままだとブログ内に収まらないので要点を話す。
15年前、我と初めて会った後、このままじゃあいけないと思い立って行動したらしい。
通信制の学校に通い、その間にプログラミングを学び、今では立派なシステムエンジニアになっていた。
生意気な事に、結婚もして子供もいるようだ。
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何も言わずに連絡しなくなってごめん、と言われたが、そんな事よりもあの少年がこんな立派になってという感動に震えていた。
と思いきや、逆に「相変わらずケンは変わらないなwww」と、我の心の痛いところを突かれる。
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実際彼と話したのは2時間程度。
互いの15年を話し合うには全く持って短過ぎたが、終始笑いっぱなしの2時間であった。
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嗚呼、書きたいことは沢山あるのだが、書き始めると止まらないので端折る。
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そして2時間、別れの時間がきた。
15年ぶりだというのに、これだけ話せる奴というのは中々いない。
彼とは2〜3年くらいの付き合いだったろうか。
それでもこれだけ会話が弾むというのも、いかに濃い、記憶に残る時間だったのかということがわかる。
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「じゃあそろそろ行くわ」
「お前、リネージュMやるの?」
「やりたいけど、時間がなさすぎて昔みたいにはできないし、まぁ触るだけ触ってみるよ」
「そうか。まぁまた東京来た時には連絡しろよ」
「おう、ブログ、楽しみにしてるわw」
「この話、ブログに書いてやるよ」
「あの時計の話も忘れずにwwwwドヤァwww」
「お前の人生の時計を止める日がきたようだな」
「wwwww」
「まぁ元気そうで何よりだ。また馬鹿話しよう、時間がある時に、ありがとな」
「こちらこそ、ありがとう」
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こうやって、少年Aとの15年ぶり、そして2回目の再会を果たしたのであった。
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■まとめ
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このリネージュMが切っ掛けで旧友と再会する人は少なくないだろう。
Twitterでも「◯◯サーバーの◯◯血盟だった◯◯です!知り合いwis plz」などの書き込みも少なくない。
もしこの記事を読んで共感してくれた人は、間違いなく同じような経験、同じように心に残る人がいるのではなかろうか。
「いや、もうだいぶ昔の話だし・・・」と思って止まるよりも、このリネージュMを言い訳にして話しかけてみる事を勧める。
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たまにオンラインゲームでこんな事をいう輩がいる。
「形に残らないものに金と時間をかけるのはもったいない」
これは15年以上も前から言われてきたことだ。
だが我からすれば、別に形に残せるものが全てではないと言いたい。
何なら形に残るものは確実に存在する。
それは人だ。
人との繋がりだ。
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リネージュ2レボリューションでは様々な人と繋がることができた。
それは今でも明確に形として残っている。
しかしそれは最近の話。
15年以上前にプレイしていたリネージュ1からですら、人との繋がりは形として残っている。
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リネージュMをプレイする上での目標は元々「全てのコンテンツを遊び尽くす」であったが、この再会でまた一つ、新たな目標ができた。
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『15年後、リネージュMを思い出しながら笑って語り合える奴らと楽しむ』
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来週のリネージュMのサービス開始が楽しみである。
前編後編、トータル12000文字オーバー。
気持ちが先行するとダメだ、次回からちょっと抑えよう。
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以上。
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