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総員、我が名はケンラウヘル。すなわち反王である。
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前回の続き。
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■少年との再会
少年と初めて会ったのは15年前だ。
彼の現在の年齢は17歳。
そう、彼とは2歳の時に出会った事になる。
彼の母親は何を隠そう、リネージュ1で我の血盟員だったのだ。
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リネージュ1時代はオフ会をしょっちゅうやっていた。
それこそ今では比較にならない程、考えられない程の頻度でだ。
リネージュ1時代は今のようにスマホなどなく、当然「携帯電話でゲームをする」という考えも存在しなかった。
一緒にゲームをするとなると、必然とネットカフェに集まることになる。
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我々は常に渋谷の、今は既になくなってしまっているが、比較的大きなネットカフェに入り浸っていた。
そこはあの有名な「電車男」が書き込みをしていたのではないか?という噂が立つほどの有名店である。
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ほぼ毎日のように通い詰め、連絡をしていなくても誰か仲間がいる状態。
既にオフ会といえるレベルなのか分からないものから、100人規模のオフ会なども参加したりしたものだ。
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■いつものオフ会
そのネットカフェにはグループルームというものがあった。
オープンシートやブース席とは離れたところに隔離された部屋で、そのルームには8台のパソコン。
オフ会では抜群の利便性を誇り、大人数で集まる際には必ずといっていい程この部屋を使用した。
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本来であればこの部屋は予約不可なのだが、常連であること、いや、常連であり過ぎることと、オフ会と称して沢山の利用客を連れてくる我々はかなり特殊な待遇を受けていたため、店長とのホットラインで直接予約が可能となっていた。
何なら謎の「血盟員割引」という、前代未聞のチーム割引まで裏クーポンとして存在していたくらいだ。
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その日はいつものメンバーで土曜日に集まっていた。
初めて会うメンバーというのは緊張するものの、その会は顔馴染みばかりが集まる会。
何がきっかけで集まったのかは全く覚えていないが、間違いなく「ボス狩りしながら騒ぐか」というノリで集まったものだと思う。
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いつものオフ会のコースは決まっている。
まずは18時くらいから居酒屋で皆で集まって飯を食う。
その後カラオケで騒ぐだけ騒ぎ、23時か0時くらいからネットカフェのグループルームでオールだ。
毎回オフ会をするたびにオールをしていたのは若さ故だろうか、よくもまぁあれだけの時間を起きていたものだと今では感心してしまう。
今回のメンバーはいつもの顔馴染み、ついでに言うと今でもリネージュMをプレイしているメンバーだ。
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その中に、「ママ」と呼ばれる存在がいた。
気前良し、話していて気持ち良し、そして周りに気を使えるまさに母親的な存在である。
既に何度もオフ会をしていて会っている人物だ。
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店の予約は全て我が行なっていた。
居酒屋の予約、そしてネットカフェの予約。
ネットカフェの店長には「いつもの、0時、8名で」と伝えるだけで、店長からは「承知!」とおおよそ客対応とは思えぬ返事が来たが、そのフラットさが逆にまたこのネットカフェを利用したくなる要因にもなっていた。
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居酒屋はこれといっていつも決まっている所はない。
店をガラケーで検索して予約を取る。
皆で馬鹿騒ぎをしながら舌鼓を打ち、そこからストレス発散のカラオケ、そして締めのリネージュという黄金パターンだ。
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■オフ会当日
オフ会はいつもハチ公前で待ち合わせだ。
15年前のハチ公前というと、今のように喫煙所も特になく、整備もされていない状況だ。
今と変わらないのは人の多さといったところか。
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待ち合わせ時間にぞろぞろと集まるメンバーたち。
基本的にうちは時間内に来ない場合、躊躇なく店の方に向かってしまうので、集まりは非常に早い。
大体のメンバーが揃い、あとはママを待つだけの状態になった。
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ママ「ケーン!おっすおっスー!」
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スカイプでいつも耳にする声がハチ公前に響く。
こんなゴミゴミした人だかりの中でも通る高い声だ。
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ケンラウヘル「おうママ、今日も相変わら…」
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我は息を飲んだ。
我だけではない、仲間もママを見て一瞬止まった。
いつものママの様子ではないからだ。
正確に言えば見たのはママ自体ではないのだが。
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いつもの服装、いつもの髪型、いつもの声。
だがそんな事よりも目に付いたのは彼女の荷物。
荷物を引きずっている、というか、何か押している。
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間違いないというか、間違えようがない。
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それはベビーカーであった。
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ベビーカーには恐らく2歳くらいか、何とか立って歩くことが出来るか否かくらいの年齢の子供が乗っている。
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ケンラウヘル「待て待て待て、ママ、どうしたそのキッズは」
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ママ「これ、私の息子ー」
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元々子持ちだったということは知っているし、どう考えても息子だということは分かっている。
むしろ自分の息子じゃなければ誘拐以外に何があろうか。
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ケンラウヘル「そうじゃなくてだ。何故ここに連れてきたんだ」
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ママ「ちょっと聞いてよー!今日実家に預ける予定がさ、急遽ダメになったって連絡があってー!それでもう大急ぎで実家に行って!んでそこからバタバタ!あ、しかも電車が遅延したせいで混雑で凄かったのよ、前に座っていたおっさんがね」
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このテンプレートのような主婦の井戸端会議展開がいつものママのパターンだ。
こうなると話が一向に進まない。
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ママ「んでね、あのデパートのケーキがめっちゃくちゃ甘くて、本当に美味しいのよ、チョコレートがね」
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ケンラウヘル「ママ、ストップ。落ち着け」
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暴走機関車を止めるため、半ば無理やり会話を堰き止める我。
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余談だが、ママはいつもこうやって会話がぶっ飛んだ方向に向かって止まることを知らない。
これが毎回だ。
スカイプでつないでいてもそんな感じで、ママのペースに巻き込まれたら最後、脱線し過ぎて最初何を話していたのか覚えている者はいない。
当時はリネージュ1に「夢幻の島」というものがあり、そこの中央に沸くユニコーンを倒すため、
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ユニコーンにキャンセレーションをかけるとナイトメアへと変化し、そこからボス戦が始まるというものがあった。
これを踏まえ、ママの会話が止まらなくなり始めると皆が「誰だママにキャンセレかけたの」というのがチームの流行語だったのを今思い出した。
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ケンラウヘル「んでだ、そのキッズをどうするんだ」
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ママ「ん?大丈夫よ?参加参加」
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ケンラウヘル「ママ、落ち着け。いいか、こういう時は別にドタキャンでもいいからそっち優先しろよ」
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ママ「え?全然大丈夫よ?」
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ケンラウヘル「いや、夜に外に出したらまずいだろう」
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ママ「え、大丈夫、だって私が保護者だもの」
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お前の保護者を呼んでこいと心の中で思ったのは秘密だ。
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だがまぁ彼女がオフ会に参加したいというのもわかる。
このリネージュというゲームが日頃のストレス発散でもあり、オフ会がその発散の最高潮のイベントなのだ。
一応保護者がいるから大丈夫だろうと、リネージュ仲間withベビーのパーティは居酒屋へ行ったのであった。
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■止まらぬママ
居酒屋は8名がけの個室だった。
テーブルではなく、茣蓙(ござ)に座るタイプの部屋。
そこに並ぶ8名、そして
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お誕生日席に君臨するベビー。
その佇まいは玉座に座るまさに盟主といった雰囲気だ。
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「君主、お飲み物は何にしましょう」
「君主、ポテトフライ塩抜きで頼んでおきました」
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と、我を差し置いて手厚い接待を受けるベビー。
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暗黙の了解でその場での喫煙はNG。
基本的に騒ぎはするが、ベビーは全くもって泣かず、大人しくていい子だった。
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それに引き換え、母親はというと、
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ママ「でね!お巡りさんが来てね、そんな経験あんまりないから、もう私の中でドラマの世界よほんと!そういえばあぶない刑事ってめちゃくちゃ面白かったわよね!やっぱり舘ひろし格好いいわー!」
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相変わらずの暴走っぷり。
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酒も程よく入ってマシンガンのように喋りまくりの絡みまくり。
やはりオフ会になるとキャンセが掛かる仕様らしい。
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ママ「そう、私は夜の蝶になるのー!!!!!」
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こういう時「親の顔が見たい」なんて言いたいものだが、我としてはこのベビーに対して「親の顔を見せたくない」と心から思ったのは秘密。
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■カラオケにて
居酒屋で大体2時間くらいだろうか。
居酒屋も終わり、さてカラオケに行くかという流れになった。
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ケンラウヘル「じゃあママ、また、気をつけてな」
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流石に子連れだったら帰るのだろう、そう思っていた我がバカだった。
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ママ「あ!カラオケ、安くしてくれるってさー!」
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ベビーカーを押したママは勝手にカラオケのキャッチと交渉し、既に次へ行く気満々であった。
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流石に夜の渋谷、しかもカラオケはないだろうと思うものの、またもや頭の中に日々大変な思いをしているママが浮かんでくる。
そうだ、彼女はこのオフ会が楽しみで楽しみで仕方なかったのだ。
こうなると情状酌量するしかない。
ただ、流石に店員が止めるだろう、その時は仕方なしだ。
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先陣を切って誘導するママwithベビー。
夜の渋谷のセンター街を闊歩する姿はまさに子連れ狼といったところか。
カラオケ店に入り、ママが記帳を行う。
飲み放題メニューを頼み、カラオケ店員に連れられて大きめの部屋に入る。
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カラオケ店員、何の違和感もなくベビーを完全スルーで入店許可。
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「いいんかい!」と心の中で叫んだのは我だけではなかったはず。
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中央に置かれた長テーブルをコの字で囲むソファー。
中央のテーブルにはマイクが2本とデンモクが2つ。
そして
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君臨する玉座(ベビーカー)
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何歌えばいいんだよ馬鹿野郎。
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ベビーはスヤスヤと寝ている。
いつもだったら我のOne Night Carnivalで大合唱からスタートするはずなのだが、目線の先にはベビーの寝顔。
ボリュームを大きくしたら可哀想過ぎる。
まずはボリュームを最小限に。
そして始まる「何を歌えばいいのか会議」
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白熱する会議は結論として、
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まんが日本昔ばなしのオープニングを優しく歌うという事で決着したのであった。
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しかもこの1曲のみ。
居酒屋にいた方が安かったのは言うまでもない。
ちなみに、今まで生きてきてあそこまでカラオケで静かに過ごしたことはない。
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さて、そこでも2時間ほど経ったのだろうか。
そろそろネットカフェに移動しようという話になった。
この時間になるとゲーマーの血が騒ぐのだろう、やたらとリネージュをプレイしたくなるものだ。
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ケンラウヘル「よし、ママ、くれぐれも気をつけて帰ってな」
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スヤスヤと寝ている子供の頭を撫でながら、ママに別れを告げる我。
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ママ「え?ネットカフェでしょ?行くよ?」
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ケンラウヘル「は?」
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ママ「いや、オールでしょ?行く行く」
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ママの暴走は止まることを知らなかった。
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続く。
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