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総員、我が名はケンラウヘル。すなわち反王である。
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では前回の続き。
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■渋谷の夜
ケンラウヘル「・・・子連れでネカフェ、しかもオールなんて聞いたことないぞ」
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我は困惑していた。
まぁ当然のことだ。
まだ子供、小学生やら中学生だったらまだ分かる。
漫画も大量にあるし、自分の意思でネットカフェで楽しめる事もあるだろうから。
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当時としてはネットカフェ全盛期、とはいえど、「ネットカフェは犯罪の温床」みたいなイメージが強い時代。
「ゲームセンターは不良の溜まり場」とかつて言われていたのと同じように、まぁそんなのはメディアが過剰に煽っているだけなので我としては気にもしていなかったが。
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ただ今回の対象は子供ではない。
ベビーだ。
ネットカフェに行かずともプレミアシート(ベビーカー)なんだから、行く必要がないわけで。
さらにそこでオールとなると、どう考えても普通の考えからは逸脱している。
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だが前回の時にも話したのだが、ママはこれが唯一といっていいほどの楽しみなのだ。
いつも家事や育児に追われる日々、その楽しみを奪うのもいかがなものか。
まぁ連れてくるなら事前に言えよという話はこの際は置いておくが。
その頃はネットカフェマニアとして、様々なネットカフェを巡っていた我だが、未だかつてベビーカーを使って入店している客なんて見たことがない。
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むしろベビーカーで入った場合の料金プランの方が気になる。
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そんなこんなで、チームリーダーとして頭の中で真剣に思考を巡らせていた我。
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ケンラウヘル「やっぱりそれは流石にいかんのでは」
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ママ「大丈夫よー!保護者いるんだから、保護者!」
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むしろお前自身の保護を誰かに頼みたいのだが。
にしてもだ。
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ママ「大丈夫よねー、静かにできるもんねぇ」
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ベビー「ZZZ」
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ママ「ほら、余裕よ、余裕!」
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と、我が真面目に考えているのに対するこの軽さに若干苛立ちを感じる。
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渋谷の夜というのは今も昔も人通りが多い。
センター街に近いこの場所は交通量も多く、騒音もかなりのものだ。
これが赤ん坊だったらたまったものではないだろう。
幸いにも、ベビーはぐっすり寝ていて起きそうにないが。
天使のような寝顔。
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大学生だった我は使命感に駆られた。
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我が守らなければ。
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このままグダグダと討論すればする程、赤ん坊に被害が及ぶ可能性が高い。
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人混みの中を血盟員たちと陣形を組んで守りながら進む。
気分は王子を外敵から守るインペルアルガードといったところか。
その横で
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ママ「渋谷の夜って最高ーーー!!www」
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と言っている王妃を暗殺者が襲っても我は絶対に助けないが。
むしろ暗殺者側に加担する可能性も無きにしも非ず。
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■ネットカフェへ
ネットカフェは渋谷駅から歩いて10分弱といったところか。
雑居ビルの上の階、広いフロア全体がネットカフェの場所だ。
いつも通りの顔ぶれの店員たち、そして奥でオープンシートを清掃している、メガネをかけてスラッとしたナイスガイな店長。
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我はエレベーターから降り、いの一番に店長に駆け寄った。
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ケンラウヘル「店長、折り入って相談が」
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店長「どうしたケンくん、なんだなんだ、もう安くしないぞ」
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ケンラウヘル「いや、金で解決するならいいんだけどね」
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店長「なんだい、その面白そうな話は」
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好奇心を絵に描いたような顔でこちらに話しかけてくる店長。
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ケンラウヘル「まぁ何というか、いいニュースと悪いニュースがあるんだ」
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店長「ほう、聞こうじゃあないか」
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オープンシートに箒を持ったまま深く座って足を組む店長。
隣のシートの椅子を店長の前に持っていき、前屈みに座る我。
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店長「これは定石通り行こうか、まずはいいニュースってのは何だい?」
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ケンラウヘル「今まで色々なオフ会メンバーを連れてきたろう?俺」
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店長「毎度助かってるさ」
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ケンラウヘル「そして今日、今まで連れてきた子の中で一番可愛い子を連れてきた」
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店長「!?」
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反射的に席を立ち、仲間が待っている受付前を見渡す店長。
目線の先には、先ほどまで寝ていた天使がきゃっきゃしながらベビーカーの中でおもちゃで遊んでいる姿。
5秒くらい静止した後、眉間に皺を寄せて何かを考えながら座る。
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店長「可愛い子、発見」
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ケンラウヘル「だろう?可愛いでしょう?」
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店長「あれはまさか・・・」
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店長「ケンくんの子供・・・?」
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ケンラウヘル「違うわ」
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即座にツッコミを入れる。
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店長「だよね!いやぁ焦ったわーwwwなんか相談っていうからそういうことなのかなとか勘違いしちゃったよwwwあんな小さい子連れてオフ会でしかもネットカフェでオールとかしてたら世も末だよwww」
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店長の笑い声と「あー、ほんとケンくんできちゃったのかとか思っちゃったよwww」と安堵の独り言を言っている店長を目の前にしながら、我は言葉を口にした。
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ケンラウヘル「そして悪いニュースっていうのは」
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ケンラウヘル「あの子の母親が、親子揃ってネットカフェでオールしようとしてるということさ」
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店長「即帰らせて、即。」
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■ネットカフェミッション
まぁ当たり前の反応だろう。
子供が泣いたりしようものなら周りの客に迷惑がかかるのは当然だ。
店としてもリスクが高い。
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店長「いや、これね、条例に引っかかるわけ、渋谷区の」
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ケンラウヘル「ぐぬぬ」
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しかし、外は渋谷という魔都。
大人でも問題に巻き込まれるというのに、この子供たちを外に放り出すわけにはいかない。
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実は既にオフ会でリアル事件に巻き込まれた事が数度あった。
オフ会の記念でプリクラコーナーへ皆で行き、酔っ払った血盟員がテンション上がり過ぎてプリクラを撮ったと同時に店外へ飛び出し、
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皆の目の前でトラックに撥ねられるといった事件もあった。
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とにかくこの安全なネットカフェで落ち着くのが一番だ。
しかも子供が泣いたとしても、奥ばった場所にあるグループルームはドアも付いている。
ドアがあれば鳴き声もほぼ外には漏れないだろう。
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我は強硬手段に出ることに決めた。
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ケンラウヘル「店長、いつも貢献してるじゃない?この店に」
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店長「それは間違いない、けどね」
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ケンラウヘル「NHKの取材にも出てあげたじゃない?ネットカフェ難民特集ってのを隠されてたけど」
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※過去ブログ参照
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店長「まぁ難民と変わらないレベルだけどね、今も」
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ケンラウヘル「そういえば渋谷の●●ってネットカフェができたよね」
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店長「うっ」
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ケンラウヘル「イヤー、あそこに拠点移動しようかなぁ、どうすっかなぁ迷うなぁ」
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店長「汚ねぇ、大学生」
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ケンラウヘル「そこでなんとかしてもらえないかな、いやね、ママはいつもリアルでね・・・」
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脅迫とも取れるネタを使って強めに出てから、ママの話をする。
色々とあるのだが、要約するとどれだけこの会が楽しみなのかといったところを強調した。
最後は情で落とす手法だ。
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最後は根気で負けたか、以下の条件でオールをOKしてくれた。
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・グループルームから絶対に子供を出さないこと
・音は恐らく漏れないから大丈夫だと思うが、煩くなったら即座に追い出す
・今日一日、グループルームは「客に提供するルーム」ではなく「事務所」として使うという体でなんとかやり過ごす(実際にこれが条例に違反するかは知らない)
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という感じで綺麗に(?)治まったのであった。
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実際ベビーは物凄い大人しくていい子で、グループルーム、もとい、事務所に入っても皆で代わる代わるお守りをしてあげたため、一切の問題を起こすことはなかった。
だが入ってからほどなくして再びスヤスヤと寝てしまったため、我らはオフ会で顔を合わせているにも関わらず、ゲーム内でチャットしてコミュニケーションを取るという、過去一番静かなオールを過ごしたのであった。
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■15年ぶりの再会
さて、時は現代に戻る。
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あの頃のベビーにまさかこんな形で再会するとは思いもしなかった。
しかも我の血盟にこうしてやってくるとは、因果律というやつを少し信じてしまいそうになる。
「お前のオムツを替えてやったんだぞ」というセリフを言いそうになったが、その発言はおっさんになった事を認めるようなものなので喉までで止めておいた。
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当然我を覚えている訳も無いが、昔、ママとこんな話をしていたことがある。
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「いつかこの子が大きくなったら一緒のゲームやるなんてのも楽しいかもね」
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大学生だった我にとっては、そんな言葉はあり得ないと思って笑っていた。
まさかここまでゲームをプレイするとは思っていなかったからだ。
実際、リネージュ1は我が社会人になってから仕事が忙しくなり辞めてしまった。
だが、こういった「縁」というのは色々な形を経て巡り巡ってくるものだ。
ゲームを通じて知り合った仲というのは、リアルで知り合った仲よりも思わぬ形を形成するものなのかもしれない。
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その後、リネMの仲間たちと合流し、8名ほどでドンチャン騒ぎをした。
勿論ママも、そしてその息子もだ。
ゲームを通じて世代を超えて交流できるというのは素晴らしいものだ。
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皆の周りでも、今のゲーム仲間が将来に繋がることがあるかもしれない。
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これだから、MMOは辞められない。
そう確信した1日であった。
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ただ、誤算があるとしたならば。
ママの連れてきた息子はいいとして。
息子ともう一人の長女(中学生)の方はゲームを一切やっていなかったので、いい歳した大人たちがゲームの話で馬鹿みたいに盛り上がっているのを、
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長女がゴミを見ているような目で見ていたことだろうか。
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娘よ、巻き込んですまなかった。
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以上。
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